突然の死に、ファンは、「竜ちゃん、聞いてないよ!」と嘆いたに違いない。2022年5月11日、自宅マンションで自死を遂げた「ダチョウ倶楽部」の上島竜兵さん(享年61)。リーダー・肥後克広(59)が故人の秘められた伝説を明かす。

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「上島さんのことについては、今でも思い当たる節はないですね」

 と肥後は首をかしげる。

「もう誰にもわからないですよね。仕事が駄目だったわけでもないし、失恋したわけでもない。普段と少しも変わらない様子でした。不思議なもんでね、上島さんのことを考えた時に、一言で寂しいと言えない。怒ったり、悲しんだり、ひょっとしてあれがよくなかったのかなと考えてみたり……。いろんな感情が芽生えてくるんです。考えて、がくんときて、立ち直って、またがくんときて。その気持ちはずっと変わらないんだろうと思いますね」

「死の直前まで元気で『何でもやるよ』と」

 二人になった「ダチョウ倶楽部」。その再出発となったのが、22年夏に結成した歌手の純烈とのユニットだ。コーラスグループ「純烈・ダチョウ」を結成。紅白出場を果たすなど活動を本格化させている。

 直前まで上島さんは元気そのものだったという。

「実はマネージャーはその夕方に上島さんと電話で話しているんです。“明日はこういうロケがありますよ”って。そのロケっていうのが女装してボウリングするという話なんですけど“やりますか?”と聞いたら“何でもやるよ”と言ったとか。その数時間後に“くるりんぱ”しちゃうんだから、本当にわからないですよね」

 一報を受け、肥後を含め親しい知人たちは病院を訪れた。ただ、

「(寺門)ジモンさんは何回電話しても出なかったんです。家に行って起こそうかという人もいたけど、いいよって。で、次の朝、ジモンさんは来たんですが、“何で起こしてくれなかったんだ!”と怒ってる。みんな“何回も電話しましたよ!”と言ったら、ジモンさんは“うーん俺、一回寝るとさ、死んだようになるんだよね”。みんなに“相方は本当に亡くなっているんですよ!”と怒られてましたね」

人間の業

 上島さんは兵庫県出身。高校卒業後、上京して俳優養成所に入り、ジモンに出会う。それを機にお笑いの道に入り、長年活躍してきたのは周知の通りだ。「リアクション芸」が売り物だったが、素顔はどうだったのか。

「人間の業の塊ですよ。優しさも清さもあるけれど、汚いところもあって、ケチでスケベ。バカでアホで、普通の人ってそういうの隠すじゃないですか。でも彼はそれをさらけ出す。そのすごさですよね」

 とりわけそのケチっぷりは、見ていて気持ちが良いくらいだったという。

「二人で飲みに行くでしょ。安い居酒屋で角ハイボールとか頼んでね。しばらくすると上島さんがそわそわし出す。カバンから財布を取り出してのぞいて“はあ”とため息をついたり。“リーダー、今日支払いいい?”“あっいいよ全然”“今月ちょっと無いんだよね”“ああ別にいいよ”“じゃあリーダーが払うんでいいんだな”“いいよいいよ、俺払うよ”。すると“よし! 楽しく飲もう”と言って、白州とか1杯千円以上もするハイボールにチェンジするんです。その間にも財布を出してうなだれる演技を3〜4回繰り返す。そういうフリがあるから、ふざけんなと思いつつ、かわいいな、面白いなこの人ってなっちゃうんですよね。そこが愛されるところですね」

ブチ切れた上島さんに寺門ジモンが…

 時にはけんかをすることも。

「ドッキリを仕掛けたことがあったんです。“今度、トレンディードラマの主演に決まりましたね”と。でも乗ってくるかと思ったらさらっと流してきた。そんなもんかなと思って忘れていたら、半年くらい経った頃にマネージャーに“あの話どうなりました?”と聞いたらしい。で、うそがバレて楽屋で俺の胸倉をつかんで、“何やってもいいけど、俺の心をもてあそぶな!”と叫んだんです。とにかく“すいませんでした!”と謝ったんだけど、“何だ、その謝り方は”と今度は殴りかかってきた。そしたらジモンさんが“竜兵、手出したらグループ終わりだぞ!”と言って上島さんをぶん殴った」

 舞台裏でもまるでコント。これが全身芸人といわれるゆえんなのだろう。

「ケチもスケベもけんかっ早いのも全部上島さん」

「ある時は、飲みに行って人のことを褒める。褒め続ける。気持ち悪いなと思って相槌を打っていたら突然、“いい加減俺のことも褒めろこんにゃろ! 何分俺がお前を褒めるんだ馬鹿野郎! 俺が褒めたらお互いに褒め合うんだろ!”とキレ出した。『ダチョウ倶楽部』のギャグってそうしたブチギレから何個も生まれているんです。裏表がない。全部表。ケチもスケベもけんかっ早いのも全部上島さん。全てが上島だから愛されたんでしょうね」

 葬儀の日、リーダーたちが上島さんの棺に入れたのは、彼がギャグで使ったおでん、ハンチング……。出棺の際、出川哲朗が「最後にチューしていいですか」と夫人に頼んでみたものの、それは断られたという。

「今はそれを持って、天国で芸をやっているのかな。残された俺らはとにかく面白いことやって、テレビの前のみんなが笑ってくれたら……」

 それが最高の供養になるに違いない。

「週刊新潮」2023年1月5・12日号 掲載