人づてに聞いたのだが、こんなふうに言う少年野球指導者がいるらしい。

「○□は背が低いから、投手はまだ無理だな」

「背が低い」と言われて喜ぶ子どもはいないはずだし、身長を理由にポジションを判断する指導者には違和感を覚える“パパコーチ”である(「“食トレ”しろ!」と喝を入れたい人は「食トレ 間違い」で検索してみてほしい)。

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「背が低いから投手は無理」という指導者と早生まれの不利

「背が伸びると野球のパフォーマンスは向上します。たとえばボールの速度は身長が1センチ伸びると約1km/h上がることが研究でわかっています」

 勝亦陽一さん(東京農業大学応用生物科学部准教授)は、身長で判断する指導者への違和感を呈する筆者に、そう言うのだった。勝亦さんは野球における身長とパフォーマンスの関係に関する研究などに取り組んでいる。

 しかし、「低身長だから選手としての能力が低い、将来性がない」などと判断してほしくないというのが勝亦さんの考えである。

 なぜなら将来、身長は伸びるからである(当たり前だが)。

「でも少年野球の指導者は、背が低い子を投手・捕手のような主要なポジションにはつけずに、内野なら二塁手、あるいは外野に回しがちです。少年野球の選手800人ほどを対象にデータを取ったところ、投手の大半が4〜6月生まれでした。また生まれ月を基準に、3カ月ごとに区切って野球選手の割合を出すと、小学生ではだいたい25%ずつですが、これが高校生になると、4〜6月生まれの割合が多くなっていました」

 というと……。

「成長の面で有利な4〜6月生まれの選手が野球に残り、反対に早生まれの選手が少なくなってる。つまり野球から離れている可能性があります」

 成長が早い4〜6月生まれは、野球でも先んじて結果を出せる立場にある。練習で「おお、うまいな!」と言われ、試合にドシドシ出場していけば、自己肯定感や自己効力感を得て、ますます野球好きになって、上達もして、やがては甲子園に出るくらいに……。

「甲子園に出場するレベルの強豪校になると、4〜6月生まれの選手の割合がより多くなっていました」と勝亦さん。

 早生まれで身長の伸びが遅い子にとって野球はむずかしいスポーツなのだろうか。

「『ウチの子は、背が小さいから試合に出られない』と悩んでいるお母さんたちがいます。土日、ずっと子どもの練習の手伝いをして、往復2時間運転して試合会場まで連れて行ったのに、わが子は出場できないとか、そんなこともあると聞きます」

 そんな悩める親、そして子どもたちのために講演で話すという。「早生まれの子に挙手してもらってから言うんです。『生まれた時期が違えば身長に差があって当たり前だよ。きっと大きくなるから。コツコツ続けていたら逆転できる可能性があるよ』って。みんな、目を輝かせますね」

プロ野球で起こる「早生まれの逆転」

 早生まれの選手が逆転することは現実にある。

「たとえば先日のプレミア12の『侍ジャパン』。最初に招集された投手の中に、4〜6月生まれがいませんでした」と勝亦さんは指摘する。「早生まれの逆転」だ。

 プロ野球の投手では、この逆転が起こる傾向が顕著だという。「背が大きくなって、筋力がついてきて技術も伴ってくれば、自分から主導でプレーできる投手の場合、逆転の可能性がある。一方の打者(野手)は受け身です。投手が投げるボールに対応する技術を培うには、ある程度の経験値が必要で、時間がかかるんだと思います」

 だとすると、早生まれで野手をしている子の場合、出場機会に恵まれなかったりしてモチベーションが上がらないまま野球から離れているのかもしれない。

 勝亦さんと話していると、「メジャーでプレーしたあの選手も早生まれだったのか」と驚かされる。
「私は少年野球、中学校の野球部で全国大会に出たんですが、当時、身長が低くて目立たなかったチームメートが、高校で急に大きくなった姿を見ました。でも野球は続けていなかったんです。『ああ、彼が野球を続けていたらもっとうまくなってたかも、もったいないな』と思いました」

 その上でこう勝亦さんは強調する。

「何を基準に選手を評価するのか。身長や生まれ月は大きな要素になるはずなのに、見過ごされています。そのために過大に評価される選手もいるし、過小に評価される選手もいます」

 ちなみにサッカーでは1月生まれを始まりとして12月生まれを終わりとする区切り方で、「U12」など年代ごとのカテゴリでの選抜を行っているという。

「学年で区切ると、早生まれは不利です。でも1月生まれが始まりになると、今度は早生まれが脚光を浴びやすい。“学年”にとらわれず、複数の選抜の物差しを持つことで、埋もれた才能の発掘につながるわけです」

 限定的だがこの仕組みは野球でも取り入れられているそうだ。とはいえ小学校、中学校、高校、大学と学校の区分で行われることがほとんどの野球である。もっと生まれ月という視点で才能を世に出すチャンスを増やすほうが良いと筆者は思うのである。

少年野球に不在の「機会均等」の考え方

 さらに勝亦さんは言う。「少年野球では、スポーツ参加における『機会均等』を実現できていないことが多いですね」

「機会均等」とは、野球では聞きなれない言葉である。何か教育的な響きがあるが……。

「大人が子どもに関わる以上、教育的な観点は欠かすことができないと思います」と勝亦さん。

 少年野球が属する「スポーツ少年団」は青少年の健全育成を理念に掲げている。育成だから、現時点のパフォーマンスや結果で評価や判断するだけでは、その理念にそぐわないわけだ。

「少年野球では、大人が子どもたちの現状だけを評価して、選別しがちです。これは大きな問題じゃないかなと思っています」(勝亦さん)

“パパコーチ”として見る限り、指導者は半レギュラーに厳しい。練習では外野守備につき、試合になると、ちょっと捕球や送球でミスすれば次打席は代打を送られる。そんな光景も珍しくない。

 しかし勝亦さんは「プロじゃないんですから」とそうした手法には否定的である。

「ある程度、たとえば身体ができあがってきた高校生くらいだったら、そうした競争環境に置くことも良いかもしれません。でも少年野球はそういう段階ではないはずです」

 勝利至上主義を徹底するなら4〜6月生まれでチームを編成するのが良さそうだが、それは育成ではない。

「指導で大事なのは第一に安全です。これは肘の故障のような慢性的なケガ、バットなどの道具によるケガを含めて予防すること。次に『機会の均等』です。そして技術力向上、最後に勝利であるべきでしょう。ただ、現状は勝利が最優先になっている印象があります」

 あるとき勝亦さんは、子ども向けの野球のイベントで、参加した子どもたちに自分たちでポジション、打順を決めさせて試合を実施した。機会均等の実現だ。イベント終了後、子どもたちが答えたアンケートでは「いつもの(所属する少年チームでの)野球より楽しかった」という回答が多数だったらしい。

 悲しい話ではないか。

「普段は外野を“やらされ”ている子がショートに入ったら、いつもとは違う面白さを感じられるかもしれないし、もし希望して守ってエラーしたら、悔しくて自分でもっと練習するかもしれません」(勝亦さん)

「キャッチボールは止めてください」

 勝亦さんは悩める少年野球の“パパコーチ”——筆者のような——から相談を受けて練習の方法を提案したりすることもある。たとえば1〜3年生を任せられることになったが、こんな練習でいいのか不安だ……といった感じで相談があるそうだ。

「キャッチボールは止めてもらいます。成立しないので」と、筑波大学で川村卓さん(准教授・硬式野球部監督)から聞いたのとほぼ同じ話ではないか!

「キャッチは本当にむずかしいんです。テニスボールとか、やわらかいボールを使ってジャグリングのように自分で上に投げて掴む、2人組で軽く投げ合って捕る。これで掴む感覚を得るんです。遊びでも野球をやったことのない子がグラブをはめたらボールを掴めません」

 軟式とはいえ固いボール。怖い。それに正面から来るボールは距離感を把握しづらい。

「声を出せと言われて、子どもにしたら何をしたらいいかわからないでしょう(笑)」と勝亦さんは言うのである。子どもが捕れなかったボールを大人が走って捕りに行くことの繰り返しになっては効率的ではないだろう。「野球がうまくなるには長時間の練習が必要なのだと言う方もいるでしょう。でも私はこうした練習方法に問題があると思っています」

 打つ方はどんな練習があるんだろう。

「私がやるのは、ボールを地面に置き、ゴルフみたいにして打つ練習です。バットの長さを理解できて、ボールとの距離感がつかめるし、バットの操作も覚えられます。それに打球はだいたいゴロになるから、守っている方はゴロを捕る練習にもなります。しかも強烈なライナーは来ないから安全にもつながります」

 これも発達段階に応じた野球指導の方法である。

「野球には、投げる、打つ、捕る、走るという4つの技能が必要で、それを同時にやるのが試合ですが、それぞれを切りだして、個別に上達させるのが1〜3年生くらいの段階です」

指導者が子どもが「楽しむこと」を嫌う理由

 少年野球を含め、広く野球の現場を見ている勝亦さんなので、“パパコーチ”として現場で覚えた違和感についてさらに聞いてみた、「野球における長時間練習、そして、やらされ感」のことである。

 ポジションだって、言い渡されて決まるのだから、やらされ感があってもおかしくない。

「子どもが『俺、ここやるっ!』と主体的に決めることになったら、指導者にはそれが遊びのように見えるのかもしれません」

 土日(両方とも終日ということは珍しくない)を無償で割く指導者たち。社会的、地域的な活動として意義は充分にある。だが……。

「大人が子どものために時間を割くことに対して、子どもからの見返りを求めていないでしょうか。だから子どもが笑顔だったりすると、真剣じゃない、気合いが足りないと、真剣な自分(大人)の行動に見合わないという思いを抱くのかもしれません。でも子どもの成長のためには、子ども自身が楽しむこと、主体的に行動することこそ大事なのですが」

 ううむ。「大人(親も含め)が勝ちたい」のが少年野球なのか。「子どもがやりたい」ものではないのか。そう“パパコーチ”としての悩みを話すと、「試合に負けたら子どもも『次は勝ちたい』と言います。そこで指導者は『勝てるような練習をしよう』と。それでバントを決められるようになろう、ボール球を打たないように練習しよう、ヒットエンドランでゴロを打てるようにしようなどと言います。短期的な効果として『勝利』は得られるかもしれません。しかし、そういう細かい練習をして勝とうとすることが、長期的に考えて、その子たちの野球選手としての将来にどこまで効果があるのか疑問です」

 確かに子どもそれぞれの「投げる、打つ、捕る、走る」の能力、つまり野球をやる上で根本的なところを伸ばした方が、良いだろう。その方が、有望な選手がたくさん生まれる気がする。

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 どうしたって大人は子どもの「いま」を見て判断してしまいがちだが、「お前は背が小さい、小回りが利く、セカンドだ」「背は小さいが足は速いな。じゃあとにかく打つときは転がせ」と、決めつけては身体が大きくなったときの可能性を摘みとるも同然である。

「機会を提供すれば、子どもは伸びるはずです」と勝亦さん。本当にそうだ。子どもがやりたいことをやる場があるべきだと筆者も思うのである。

 自分がやりたいポジションを守り、サインなどなくて打ちたいように打つ。そういう時間もあってほしい。少年野球、いや子どものスポーツ全般かもしれないが、勝ちたい欲求の前に、これは理想論で現実的ではないのだろうか。

 子どもの中には、能力の多様性も可能性もたくさんある。だから見守る気持ちでいるしかない……わが子のゆっくりとした成長を思い出しながら、そう納得する“パパコーチ”なのであった。 

池谷玄(いけたに・げん)
四十路のライター。趣味はプロ即戦力候補が格安で見られる大学野球の観戦。球歴はソフトボールから少年野球、中学野球部、高校の野球部(硬式)まで。最近好きな選手は福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手。

2019年11月30日 掲載