1年で、およそ90万人が発症するというがん。そのうち、最多の約16%を占めるのが、大腸がんだという。消化器病や消化器内視鏡の専門医で、ルークス芦屋クリニックの城谷昌彦院長が、最新の腸活事情を解説する。

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「腸内環境の乱れは全身の疾患との関連が示唆されています。便秘や過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎などの消化器疾患はもちろん、自己免疫疾患、アレルギー疾患、動脈硬化、うつ病や自閉症などの精神疾患、がんなどとの関連も示唆されています。例えば2011年に報告された研究によれば、肉類などに含まれるコリンは腸内細菌の作用によりトリメチルアミン−N−オキシドという物質に代謝されます。そしてこの物質が動脈硬化を進行させるということです。ただ、肉を食べすぎたからといってみんながみんな動脈硬化になるわけではなくて、腸内細菌のバランスによってそうなる人とならない人がいる」

 と語るのは、『腸内細菌が喜ぶ生き方』の著者でもある城谷院長。東京医科歯科大を卒(お)えて研修医として勤務する中で、潰瘍性大腸炎と診断された。内科的治療で凌ぎ続けたが、ストレスなども重なった結果、重症化し、07年に大腸全摘手術に踏み切ることになった。まさに断腸の思いである。それからも回腸嚢炎(かいちょうのうえん)を発症し、標準治療で使う抗生物質の効き目も徐々に弱くなっていく。そこで、某大学病院で行われていた便移植(糞便微生物移植、腸内フローラ移植)を受けてみることにした。具体的には、

「健康なドナーから提供された便を生理食塩水で濾過し、ドナーの腸内細菌を含んだ菌液を患者さんの腸に大腸内視鏡を使って移植するというものです。私の場合はその治療効果をあまり感じることはできませんでしたが、このような比較的簡便な方法で難病が良くなるならということで、関心は一層高まったのです」(同)

 そして行き当たったのが、独自の菌液を使った、いわば次世代型の便移植だ。城谷院長は自身の身体で試すことにした。

「この治療をきっかけに、回腸嚢炎による下血は止まり、便通も下痢から軟便へと変化していきました。私が所属する『腸内フローラ移植臨床研究会』では、このウルトラファインバブル水と呼ばれる特殊な水で精製した菌液を、しかも内視鏡ではなく腸カテーテルを肛門から挿入し注入する注腸方式を採用しています。この移植法によって改善が確認された疾患は、先ほど挙げたものと重なりますが、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、アトピー、自閉症、うつ病など。しかし、まだ症例は少なくてエビデンスレベルが高いというわけではありません。保険は適用外で長期的な効果もまだ研究中です。まずは標準治療をしっかり受けたうえで、それでも長期に亘り症状が改善せず生活に著しい支障が認められる時にのみ、治療の選択肢の一つとして考えるべきでしょう」

 では、腸を整えるために推奨している食べ物について聞くと、

「肉や魚を骨ごと煮込んでだしを取った『骨だしスープ』です。腸内のバリアが傷ついた時、修復するための材料がアミノ酸の中のグルタミンなのですが、骨だしスープにはそれが多く含まれています。他にも骨の髄からミネラルも出てきます。それも腸内環境を元に戻す効果があります。骨だしスープを飲み始めてから比較的しっかりした便が出るようになりました」

 大腸を失いハンデを抱える城谷院長の言葉だから、実感がよりこもっている。

「骨だしスープは自宅で簡単に作ることができます。圧力鍋は使わず、沸騰しない程度に6時間以上煮込みます。骨付き肉は牛でも鶏でもいいのですが、飼料や育て方にこだわった質のいいものを使うといいですね。煮込むときに少量の酢を加えると、骨からミネラルが抽出されやすくなります。卵や味噌を入れればタンパク質の補給にもなります」

 他には、

「私は食品の頭文字を取って並べた『まごはやさしいわ』というものを提唱しています。『ま』は豆類で煮物や豆腐や納豆といった食品です。『ご』はごま。『は』は発酵食品でぬか漬けなどの漬物、キムチ、味噌、お酢、梅干しなど。『や』は野菜や果物。『さ』は魚。『し』はしいたけでキノコ類はどれもいいと思います。『い』は芋類で『わ』はわかめ。海藻類は食物繊維が豊富です。これらの食品は、日本人の伝統食。地域に根差した食事をした方が、腸内細菌は本来の力を発揮しやすいんです」

 京丹後市での調査と共通する話だ。これで便秘も改善されること請け合い。「まごはやさしいわ」で腸活を――。

「週刊新潮」2020年2月6日号 掲載