結婚を目指す男女が親睦を深める一日イチゴ狩りツアー。参加者の中では年配者になるのは承知の上でフリーライターの石神賢介氏は参加してみた。懐かしの修学旅行のようで、参加者たちのテンションは上がる。石神氏も持ち前のコミュニケーション能力を発揮して会話は弾んだのだが、バスツアーゆえのハードな面もあったという(ツアー実施は2019年です)。

(文中の紹介文、登場人物はプライバシー保護の観点から一部を変更してあります)

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 バスは首都高を走っていく。都内を西側へ抜け川崎から東京アクアラインで東京湾を横断して房総半島に上陸するルートだ。

 首都高の路面はガタガタだ。左からも右からも合流があり、バスは頻繁に車線変更をくり返す。車内で、立ったり座ったりしながら会話を行う男性参加者はつらい。案の定、出発30分後には、何人かが乗り物酔いをうったえた。そのうち2人は婚活トークの流れから脱落し、空いている後部のシートで体を横たえている。

 サービスエリアに着くと、手で口をふさいでトイレに駆け込む男もいた。酔い止めを飲んでおいてよかった。

 サービスエリアのトイレでは男性参加者と連れションになる。

「いい感じの女性、いましたか?」

 横並びに小用をする30歳くらいの男性に話しかけられた。

「いやあ、みんないい人に見えてしまいます」

「わかります。修学旅行みたいで、テンションが上がっているからでしょうかね」

 そんな会話を交わしながら、小用を足す。婚活の場で同性と話すのは初めてだ。

 バスは海を渡り、房総半島に上陸し、内陸へ入っていく。その間も相手を替えながらお見合いは進む。女性参加者は全員年下だが、会話を続けるうちに相手との年齢差は意識しなくなっていた。

 通常の婚活パーティーは、年齢によって細分化されている。50代が20代と会話できるケースは極めて少ない。一方、まる一日かけて行う婚活バスツアーは当然、開催本数は少ない。だから、年齢枠の分け方も大雑把だ。その結果、20代も50代も同じバスに乗せてしまう。若い女性と知り合いたい男に向いている企画だ。

 それに、婚活バスツアー参加者は時間とお金をかけている。参加者の真剣度が高い。実際、会話をしたほとんどの女性に好印象をもった。

 房総のリゾートホテル内のチャイニーズレストランでランチをとるころにはすでに女性全員と会話を終え、男性の何人かとはサービスエリアでコミュニケーションをとっているので、全体的になんとなく同志的な空気になっていた。

イチゴ狩りと牧場散策

 イチゴ狩りがこんなに楽しいものだとは……。大好きなイチゴを新鮮な状態で好きなだけ食べられる。そもそも「〇〇狩り」は初体験だった。ブドウ狩りも、梨狩りも、紅葉狩りも行ったことがない。熟したイチゴがおいしくて、婚活ツアーに参加していることを忘れそうになる。

「ほっぺにミルクがついていますよ」

 そう言われて顔を上げると、2人組の女性参加者がくすくすと笑っている。その一人が、僕の顔に付いたコンデンスミルクをハンカチで拭いてくれた。参加してよかった……。心から思った。

 夕方から夜にかけての牧場散策はグループ行動だ。40人の参加者をあみだくじでABC3チームに分けて、2時間を過ごす。

 この時間帯になると、身にしみたことがある。お見合いバスツアーは体力勝負なのだ。57歳。しかも前夜は遅くまで仕事をしていた。だから、睡魔との闘いになった。

「あの……、バスの中で休んでいたいのですが」

 牧場に着き、スタッフに懇願した。しかし、認められなかった。

「いけません! 参加したからには最後まで頑張りましょう。朝からの努力が全部無駄になります。休むのは家に帰ってからにしてください」

 尻を叩かれるようにバスから追われた。しかも、最年長という理由でAチームのリーダーにさせられた。

 眠い。しかも、寒い。どうやら牧場は標高が高いらしい。

 行きがかり上男女計14人のAチームを率いて歩いていると、丸太作り風の小屋が視界に入った。お土産店兼カフェらしい。ひらめいた。

「皆さん、聞いてください!」

 大きな声で、僕のまわりにAチームのメンバーを集める。

「寒いので、Aチームはあのカフェを基地にします。僕は全2時間、カフェで待機しています。皆さんはどうぞご自由に、お気に入りのかたと牧場を散策してください。手をつなごうと、暗がりに行こうと、お好きなように。ただし、2つだけ約束してください。一つ目は、時間を守ること。バスが出発する15分前にはカフェに戻ってください。二つ目は、男女で散策するカップルの男性の名前と電話番号を僕に教えておいてください。以上です」

 反論は許さない。発言のすきは与えず、さっさと暖かいカフェに逃げ込んだ。

 Aチームは男女ともまじめなメンバーがそろっていた。

「牧場を歩いてきます!」

 そう言って、カップルの男は電話番号のメモを僕に渡して出かけていく。僕も自分の電話番号を渡す。

「ずっとここで待機しているので、何かあったら必ず電話をください」

 彼らに念押しした。

 牧場といっても、その全エリアに牛や馬がいるわけではない。敷地の多くは花壇や芝生や樹木に囲まれた小道だ。いい雰囲気の男女は暗くなり始めた牧場のさらに暗がりへと歩いていく。この日に出会ったばかりなのに、うらやましい。

 意外だったのは、半分くらいのメンバーが僕と一緒にカフェに残ったことだ。朝早くから緊張状態で婚活を続けてきたので、疲労しているのだ。それに、外は寒い。

 僕はチームリーダーという職権を利用してみんなに1杯200円のコーヒーをご馳走し、長く生きてきたからこそのくだらない会話をして“いい人アピール”に努めた。

 時間が許すならば、そしてコストをかける意志があるならば、バスツアーはとてもすぐれた婚活ツールだ。男女とも人間性がかなりわかる。長時間なので、ごまかしがきかない。食事もするので、飲酒や喫煙の習慣もわかる。しかも、一度で多くの女性と連絡先を交換できた。(続く)

石神賢介(イシガミ・ケンスケ)
1962(昭和37)年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターになる。人物ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。30代のときに一度結婚したが離婚。

2020年10月17日 掲載