本来、恋愛も婚活も悪いことでは全くないのだから、こっそりやる必要はない。というのは正論ではあるが、何となく知り合いには隠しておきたいというのも人情だろう。特に年齢を重ねた人は「いい年して」と言われまいかと心配になるかもしれない。再婚を目指して57歳からの婚活に勤しむフリーライターの石神賢介氏は、「活動中」にまさに心配していた知り合いとの遭遇を果たすことになった。ある意味、同じゴールを目指す戦友同士はどのような会話を繰り広げたか……。

(文中の紹介文、登場人物はプライバシー保護の観点から一部を変更してあります)

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 婚活には誰もが覚悟をしておかなくてはならないリスクがある。それは婚活ツールで、実生活の知り合いと出会ってしまうことだ。このリスクはどの婚活ツールにもあるが、ネット婚活や結婚相談所のサイトで登録者数が多ければ多いほど危険度は高い。

 僕自身、結婚相談所のホームページで、登録女性のプロフィールリストで2人、知り合いを発見してしまった。一人は仕事のクライアントのスタッフ、シノハラさん(仮名)。もう一人は異業種の知人、ヤマシタさん(仮名)だ。彼女たちの実年齢を僕は相談所のプロフィールで初めて知った。51歳と52歳だ。

 最初は狼狽した。バレたか……。こちらが見つけたということは、彼女たちも僕に気づいていると考えたほうが自然だ。しかし、よく考えてみると、こちらも恥ずかしいけれど、あちらも恥ずかしいはず。イーブンの関係だ。どうせごましはきかない。

 もしも出会ったらその時はその時、開き直って情報交換をしたほうが賢いというくらいに思っていたら……。

1円単位まで割り勘にする男、最初のデートでファミレスを選ぶ男

「イシガミさん、ちょっといいですか?」

 仕事で出入りしているクライアント企業で、背後から声をかけられた。ふり向くと、シノハラさんだった。同じ結婚相談所に登録していたので、女性会員のプロフィールで見つけていた。

 プロフィールによると、シノハラさんは51歳。離婚歴が一つある。20年ほど前に知り合ったころはふっくらとした女性だったが、節制をしたのだろう。顔も体形もいまはかなりすっきりとした。

「あっ、こんにちは」

 挨拶をして、彼女の表情をさぐる。

 仕事のことか? 婚活のほうか? 彼女と組んで進行中の仕事はいまない。

「イシガミさん、私と同じところに登録してますよね? プロフィールを見つけました」

 案の定、結婚相談所の件だった。

「はい。僕のこと、やっぱり見つけちゃいました?」

「もちろん。で、どんな状況ですか?」

 僕は自分の苦戦を正直に話す。

「シノハラさんは、すでにお見合いをされましたか?」

 その質問に、彼女の表情がにわかに厳しくなった。

「してます。頭にくることばかりです!」

 すでに何人かとお見合いを経験しているらしいが、ケチな男が多いのだという。登録しているB社では、最初のお見合いは男性が全額負担するルールになっている。ただし、お茶のみ。食事やアルコールをオーダーしてはいけない。男女とも相手を気に入り、最長3カ月間の交際期に入ってからは、性的な関係にならなければ、デートも飲食も本人たちの自由だ。その時点で、割り勘にする男が多いらしい。

「均等割りですか?」

 一応確認してみる。

「そうです。1円単位まで割ろうとする人もいました。どう思います?」

「まずは相手に好かれないといけないので、僕は割り勘にはしていません」

「でしょ!」

 初めての食事でファミレスに連れて行かれたこともあったという。シノハラさんは、収入に恵まれてきた人だ。食事も、ファッションも、上質なものを経験してきた。僕のようなフリーランスの記者と比べると、明らかに経済環境はいい。だからよけいにファミレスは大変な屈辱だったらしい。

「僕は近所のファミレスで1週間に3回は朝定食を食べていますが、シノハラさんはファミレス、ふだんはあまり行かれませんよね? 新鮮な体験だった……とはなりませんか?」

 という僕の質問には耳を貸さず、逆に聞いてきた。

「ファミレスにもある程度きちんとした食事を提供するチェーンと、とにかく安いところがあること、知ってましたか?」

「はい。僕はよく知っています。ヘビーユーザーですから」

「私がアテンドされたお店は、パスタが500円くらいで、グラスワインがなんと100円でした!」

 どのチェーンか、なんとなく察しがついた。入ったこともある。僕は悪い店とは思わないけれども、シノハラさんは初めてだったのだろう。

「その店でパスタを召し上がった?」

「はい。ひと皿ずつ。私はカルボナーラで、その人はナポリタンでした。ワインも1杯ずつ。サラダはオーダーしませんでした」

 1度目のお見合い後交際へ向けての継続を決めているわけだから、相手の男性の第一印象は悪くなかったのだろう。でも、ファミレスに連れて行かれたことでひどく傷つき、カウンセラーを通して断ったそうだ。

 その男がケチなのか、お金がないのか、あるいはシノハラさんをファミレスで十分だと値踏みをしたのか、そのあたりは不明だ。

 女性のシノハラさんは、軽く扱われたと感じて失望した。一方、男性側にとっては、お金がかかるめんどうな女だと思ったのかもしれない。価値観が異なり、かみ合わなかったのだ。これはどちらが悪いというものではないだろう。そのファミレスが好きな女性もいるし、男に奢ってもらうのはおかしいと考える女性もいる。

 相手との異なる価値観をどう乗り越えていくか。僕自身、婚活サイトで知り合った女性に「クソ老人!」とののしられていた経験もあり、婚活は人間力を試される場だと思った。

僕は誰かをわくわくさせることができるのだろうか

 シノハラさんに聞いて改めて認識したのは、男性とは別の視点で女性は相手を見定めているという当たり前のことだった。結婚相談所でも、婚活サイトでも、男性は女性のプロフィールを見ることができるけれど、同性である男のプロフィールは見られない。女性も同様だ。自分のライバルたちの姿を見ることはできない。それならば、彼女たちと話をして同性の情報を教え合い、対策を考えたほうがいい。

 そう考えた僕は、もう一人の知人、ヤマシタさんのほうには思い切って自分から連絡をしてみた。彼女は穏やかな性格だ。

「イシガミさんが登録していること、もちろん気がついていましたよ」

 ヤマシタさんにメールをすると、やがてレスポンスがあった。僕はすぐに、電話をかけてみた。

50代婚活女性の奮闘

「苦戦してます!」

 電話でのヤマシタさんの第一声だ。彼女には離婚歴がある。細身でどちらかというと小柄な女性だ。身なりを気にするタイプではなく、年齢のわりに多めの白髪が放置状態なので、実年齢よりも年上に見える。

「私、40代で入会すればよかった、と後悔しているんですよ。担当カウンセラーの話だと、49歳と50歳では、お見合いを申し込まれる数が格段に違うらしいんですよ」

 その状況はわからないでもない。プロフィールの検索は条件を打ち込むので、40歳、50歳、60歳という切りのいい年齢でプロフィールを閲覧される数は減りそうだ。

 ヤマシタさんは入会して1カ月。その間5人の男性にお見合いを申し込まれた。4人は60代。もう一人は同年齢だけど、プロフィールにある写真ははるかに年上に見えた。5人とも断り、まだお見合いは体験していないという。でも、52歳の彼女にとって、60代の男性は年齢差を気にするほどでもない気がするが……。

「年齢差は気になりませんよ。ただ、4人とも、定年退職しているんです。働いていない人との結婚は現実的ではありません」

 男性には、いわゆるイケメンや高年収の登録者もいるらしい。ヤマシタさんは年収2千万円で同世代のドクターに、自分からお見合いを申し込んで断られた。

「ダメモトとは思っていたけれど、断られるとやっぱり傷つきますよね。しかも、即日。せめて2,3日おいてから断ってくれればいいのに、と思いました」

 年収700万円の同世代のデザイナーにも申し込んだ。

「ドクターよりも可能性はあるかな、とちょっと期待したけれど、こちらも翌日断られちゃった。自分の市場価値の低さを突き付けられた気がして心が折れそう。すでに退会を考えているくらいです。でも、真剣にやらないで、なあーんとなく登録していればいいかな、とも思ってもいます。期待しないで、申し込みをもらったときだけ、相手のプロフィールをチェックするような」

 入会したばかりなので、期待が大きかった分、ダメージも大きいのではないかと、自己分析しているそうだ。

 そもそもヤマシタさんはどんな男性を求めているのか……。

「それはですね、わくわくさせてくれる人!」

 即答だった。

「顔とか学歴とかはそんなに気にしません。収入も、生活できれば、まあ、いいかな。私も働いているし。それよりも、この人といたら楽しく暮らせそうだなあ、と感じさせてくれる男性と出会いたいですね」

 ごくふつうの希望のように聞こえるけれど、現実的にはかなり難しいリクエストだろう。女性をわくわくさせるには、男の側もわくわくして生きていなくてはだめな気がする。そういう男は多くはないと思った。

 僕は割り勘を求めないし、最初にファミレスに連れて行くこともないと思う。仕事は楽しくやっている。しかし女性にわくわくを提供できるのかと聞かれると自信がない。

好条件の男の裏側

 シノハラさんやヤマシタさんと話をしたことで、婚活村にどんな男性がいるのか、女性と会うときにはどんな振る舞いをすればいいのか、少しだけ知ることができた。

 そこでお見合いや婚活パーティーで、女性が僕に興味を示さなくても、あるいは僕が相手に興味をもてなくても、可能な範囲で女性の婚活経験を聞くようにした。

 そこで、いくつかの傾向がわかってきた。まず、婚活村には封建的な男性が多い。最初に会ったときから敬語を使わずに女性の服装や仕事について意見を述べる男、所得が高いわけでもないのに専業主婦を求める男はかなりいるらしい。

 婚活パーティーには、案の定、遊び目的の男も一定数いる。これは僕が以前、パーティーで会った37歳の女性の話だが、彼女はその1カ月前に、長身、イケメン、高収入、年下の男性と連絡先を交換したそうだ。パーティーの帰りに食事もして、大いに盛り上がり、翌週も食事をする約束もした。

 これで婚活を終わりにできる……。彼女はうれしくて、その日から街の景色が輝いて見えたほどだった。しかし、ふと思った。そんな好条件の男性が婚活などするだろうか、と。彼は実はプロのサッカー選手だった。有名選手ではないが、サッカーが好きな彼女は、彼の名前を知っていたそうだ。ネットで検索すると、彼のインスタグラムには妻子と楽しそうに過ごす写真が堂々とアップされていた。こんなにかんたんに検索できるとは。どれほど自分がなめられていたか、怒りで体が震えた。彼からのLINEは無視。3日で連絡がこなくなったそうだ。

 さて、結婚相談所に登録していたシノハラさんとヤマシタさんだが、2人ともやがて退会した。シノハラさんはいろいろ納得できなかったのだろう。ヤマシタさんは、なんと、結婚相談所に20万円の成婚料を支払っての退会だった。

 彼女の相手の男性は、地方在住の中学の先生。50代半ばで1度、婚歴があった。ただし、離婚ではなく死別。元妻との間には2人子どもがいた。大学生と高校生だという。

 東京と岩手の遠距離恋愛なので、会うのは1カ月に1度。そのペースだとなかなか進展はなく、どちらも婚活に疲れていたこともあり、退会してまじめに交際することになった。

 しかし、結婚にはいたっていない。何を考えたのか、彼は学校を辞めて、飲食店を開くと言い出した。もちろん、飲食の仕事の経験はない。1年か2年か修業をして、開業したいという。彼女はどう考えても、彼のプランに自分の人生を重ねることはできなかった。

石神賢介(イシガミ・ケンスケ)
1962(昭和37)年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターになる。人物ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。30代のときに一度結婚したが離婚。

2020年11月21日 掲載