コロナ禍以前から、突如として盛り上がった「結婚したい」という気持ちを抑えきれず、あらゆる婚活を体験し、赤裸々にレポートしてきたライターの石神賢介氏。残念なことに、今日に至ってなお婚活は終了していない。つまり成功していないのだ。

 連載中は「身の程知らず」「無理だよ」といったコメントも浴びながら続けた「アラカン」婚活を総括する最終回をお届けする。

(文中の紹介文、登場人物はプライバシー保護の観点から一部を変更してあります)

なにを受け入れられないかを考えるべき

 婚活アプリ、婚活パーティー、結婚相談所などを体験し、婚活とは一種の“等価値取引”だとあらためて感じた。

 この連載でも書いたが、かつて婚活ツールが発達する前の恋愛の多くは、同級生や先輩・後輩同士の恋愛、社内恋愛、友人の紹介によって生まれ、育まれ、結婚に発展した。男女とも必ずしも条件で相手を選んだわけではない。同じ学校に通っていたならば、勉強やスポーツに打ち込む姿を見るし、誠実さや優しさを知ることにもなるだろう。同じ会社に勤務していたら、仕事ぶりや上司や部下からどう思われているかも知る。

 しかし、婚活ツールでは、最初の段階では相手の日常の姿を見ることはない。

 だから、第1段階で女性は男性の収入や資産などの経済面、職種、将来性、容姿、年齢などの条件を重視して判断することになる。

 一方、おそらく男性は第1段階では女性の容姿、年齢、仕事、趣味、家族関係などを見る。

 もちろん本当に結婚生活を送るには性格、相性などが大切なのだが、それらはこの段階ではわからない。

 条件による婚活市場価値のバランスによって、男女がマッチングするのが婚活の現状だ。変わった趣味が一致して意気投合し、結婚にいたるような例外はあるだろう。太った男性を好む女性や、年上を好む男性もいる。周囲から見たら等価値ではないペアも、もちろんゼロではないが、稀だ。

 筆者の場合、婚活市場でいくつものハンディがある。

 年齢は58歳。会社員ならば、定年に近い。戦後まもない時期ならそろそろあの世からお迎えが来る年齢だ(1950年の日本人男性の平均寿命は58歳)。

 自由業なので、収入は不安定。容姿も並以下だと自覚している。

 自分より若い世代の、好みの容姿を求めても、交際は成立しない。ただし、相手が抱えているなにかしらの条件を受け入れることによって、関係が成立するケースはあるかもしれない。たとえば、婚歴が2回以上ある女性、子どもがいる女性、日本で暮らしたい外国人女性……などだ。

 実際に婚活アプリでは、20代、30代のかなり美しいアジア系の女性から、コンスタントに申し込みをしてもらった。国籍の壁、言葉の壁、文化の壁を乗り越える自信があれば、交際にいたる可能性はあるだろう。

 女性の側も同様だ。自分が40代、50代で、若く高収入の男性を希望するならば、相手のハンディも受け入れなくてはならないだろう。

 婚歴がある、年老いた親と暮らしている、浮気癖がある、性的嗜好に偏りがある……などだ。

 男女とも、自分が望む条件をすべて備えた相手に出会うのは難しい。だから、なにを受け入れることができ、なには受け入れられないか。できれば紙に優先順位を箇条書きにしておきたい。

 男性の場合、女性に対して容姿のよさを求め、しかし年齢や国籍や婚歴や子どもがいることは受け入れるとか。

 女性の場合、男性に収入は求めるけれど、容姿を問わず、婚歴や子どもがいることは受け入れるとか。条件の優先順位を明確にすると、パートナーが見つかる可能性は高くなるだろう。

外国籍の女性からのアプローチ

 2020年を迎え、58歳になり、婚活市場価値が下がった自分を自覚した僕は、女性の婚歴や子どもがいることや国籍にかかわらずパートナーを探すことも意識した。

 そんなときに婚活アプリで申し込みをしてくれたのが、45歳で神奈川県在住のアメリカ人、クリスティーヌさん(仮名・以下クリス)だった。

 プロフィールによると、クリスは公務員。最終学歴は大学院で、年収は3千万円。1度婚歴がある。子どもはいない。写真で見る彼女は、モデルのようなプロポーション。ブロンドの髪は長く、胸のあたりまである。顔はちょっとドナルド・トランプの妻に似ている。

 彼女は単語を並べるようなたどたどしい日本語でメッセージを送ってきた。こちらは中学生レベルの英語で返信する。そんなやり取りを2,3往復すると、彼女がラインでの会話を提案してきた。IDを交換すると、彼女は通訳アプリを利用してメッセージを送信してきた。彼女が英語でメッセージを書くと、その下に日本語も表示される。僕が日本語でメッセージを書くと、その下に英語も表示される。

「私は今、中東にいます」

 そんなメッセージが届いた。

「中東! なぜ?」

 驚いた。

「平和活動です」

 平和活動と言われても、よくわからない。

 その後もとりとめのないやり取りが続いた。一度も会っていないのに「Good morning, honey!」とか「Hello, my sweetheart!」とか甘いメッセージが来る。

 本気か? 実在する人物か? なんだか怪しい。

 やがて動画が送られてきた。ブルーのビキニ姿のクリスがプールサイドで自撮りした映像だ。豊かな胸を強調している。腕と背中にはなんのデザインなのか不明のタトゥー。同じ場所で撮影したと思われる静止画像も来た。

「Thank you. You are so cute!」

 レスポンスすると、今度はまったくテイストの異なる画像が送られてきた。軍服姿のクリスが気を付けの姿勢で立っている。右肩のあたりに「Christine」、左肩のあたりに「US army」と刺繍されている。すぐに質問した。

「Are you US army?」

「Yes! I'm soldier」

 在日アメリカ軍の兵士だというのだ。神奈川県の基地で暮らしていて、中東の平和活動に派遣されているらしい。

「Are you strong?」

 質問すると、3つの動画が送信されてきた。

 すべて彼女がトレーニングしている映像だ。1つめの動画はベンチプレス。バーベルはかなり重そうだ。2つめはダンベルで上腕を鍛えている。3つ目は腕立て伏せを行うと立ち上がり、ジャンプして腹筋台を飛び越える。また腕立て伏せをやり、立ち上がって、腹筋台を飛び越える。大腿筋も大殿筋もスピードスケートの選手のようにパンパンに張っている。映像のなかで躍動するのは“リアルG.I.ジェーン”だ。

 翌日、また動画が送られてきた。そこに映っているのはクリスではなく、バッグに詰め込まれたUSドル紙幣の束。そして、ダイヤモンド。テロ組織を襲撃して得たものだという。そして、赤十字の便で送るので、自分が日本に戻るまで預かってほしいという。

 この時点で危険を感じた。

 いくらなんでも話が嘘くさい。

 クリスはおそらく“なりすまし”だろう。僕がやり取りをしていたのは、なんらかの詐欺集団で、ブロンドの女性の姿は誰か別人の動画を使っているのではないだろうか。パスポートのコピーを交換しよう、というリクエストも届いた。何か悪用しようとしていたのだろう。この時点でライン交換をやめてブロックした。

シングルマザーとの交際

 同時期に参加した婚活パーティーでは、直美さん(仮名)という看護師の女性と知り合った。彼女は38歳で1度婚歴がある。

 短い会話でも仕事を頑張っていることが伝わり好感を持った。彼女も僕に興味を持ってくれて、帰りに食事をした。翌日も翌々日も会った。婚活パーティーには、ときどきこういうミラクルがある。

 しかし、彼女はなぜ僕を選んだのか? パーティーには直美さんと同世代の男性参加者もいた。33歳で離婚をして、シングルを25年もこじらせていると、女性が好意を示してくれてもなかなか素直に聞くことができなくなるものだ。

 それでも一緒の時間を重ねれば、関係は深まる。ドライブにも行き、1泊で温泉にも出かけた。彼女がうちに来て掃除をしてくれるようになるまでに2カ月もかからなかった。やがて彼女から話したいことがあると言われた。

「私、子どもがいます」

 そう打ち明けられた。高校生の女の子と中学生の男の子と一緒に暮らしているという。

 実は、出会ったころは子どもがいるのではないかとも考えた。

 婚活は男女等価値の取引。30代の女性が50代後半のオヤジに興味を持つのはレアケースだ。

 しかし、交際を進めていくうちに、子どもがいるのでは、といった疑念は消えていた。1泊旅行にも出かけていたのだ。

 だから、彼女の告白には驚かされた。

「母親が帰らない日は、子どもたちはどうしているの?」

 率直な質問をした。

「ご飯を作ってから来ているから大丈夫。お姉ちゃんが弟の面倒を見ているし」

「子どもたちは母親が帰って来ないことを変だと思わないの?」

「あなたと会っていること、あの子たちは気づいていないよ。夜勤だと言っているから」

 この日から彼女と会うことに後ろめたさを覚えるようになった。彼女は、気にしないで、と言う。しかし、母親のいない家で食事をして就寝する姉弟のことを考えないほどこちらはタフではない。

 また、本当に申し訳ないのだけれど、母子まるごと引き受けるような覚悟が持てなかった。

 彼女とはもう会わないほうがいいと判断した。

 そして、ようやくわかった。僕には結婚は難しい、と。

今の生活を失っても結婚したいか?

 婚活というシステムが男女の等価値の取引で成立することを考えると、58歳で経済的に不安定な記者として働いている僕の相手は、外国籍の女性、子どもを持つ女性、年上や同世代の女性あたりになる。

 美しさ、若さなどで好条件の女性は、それらを担保にハイスペックの男にアプローチするし、ハイスペックの男にアプローチされる。

 では、文化や言葉の壁を越えて外国人女性と暮らせるか? 自分に問う。自信は持てない。

 相手の女性だけでなく、その子どもたちも受け入れられるか? そんな度量があるとは思えない。

 長いシングル生活で、自分の生活も出来上がっている。フリーランスの記者という仕事柄、朝早い時間帯から働いたり、深夜まで働いたり、生活は不規則だ。また、自宅で長い時間パソコンと向き合うことによって生活が成り立っている。結婚すれば、つまり同居人が出来れば、今ある生活のリズムは維持できなくなるだろう。経済的なダメージを被る覚悟が必要だ。

 それでも結婚したいか? また、自分に問う。自信を持てなくなってきた。

 57歳のとき再度婚活に力を入れるようになったのは、一人の暮らしに寂しさを覚えたからだった。

 しかし婚活を始めると、結婚していないのに寂しさが薄らいだ。熱心に婚活をすれば、コンスタントに女性と会える。

 複数の人と食事をして、ドライブをして、ときにはお泊まりもする。実に楽しい。いつのまにか、結婚を目的に婚活を行うのではなく、婚活そのものを楽しむようになっていた。

 もちろん婚活ではきつい目にもあう。30代女性に老人と罵倒された。詐欺に遭いそうにもなった。高額な服や靴も買わされた。

 しかし、そんな経験も時間が経てばエンタテインメントだ。

50代以上でもチャンスはある

「結婚=幸せ」

「結婚=人間の義務」

 子どものころから社会に刷り込まれてきた。

 しかし、ほんとうに結婚は幸せで義務なのか。60歳を目の前にして、シングルをこじらせて、さんざん婚活をして、ようやく疑問を抱いた。

 周囲を見ると、幸せそうな夫婦もいる。その一方で、おたがい口も利かない夫婦もいる。つまり、結婚したから幸せになったのではない。

 幸せは、二人の性格や努力や相性によってつかむものではないだろうか。自分自身かつて結婚生活を体験した。必ずしも幸せではなかった気がする。だから、わずか1年で夫婦生活に終止符を打った。

 妻への愛情はあった。それなのに、生活をともにすると苦しみは多かった。既婚だろうが、未婚だろうが、幸せになるのは自分次第だ。

 40代で婚活をしたときには、自分に3つのことを課した。

(1)コンスタントにエクササイズを行い、健康を維持し、体を引き締める。
(2)女性や世代の違う人と交流し、厳しい意見をもらう。
(3)仕事は常に前向きに取り組み、トラブルから逃げない。

 この3つによって常に自分を客観視し、心と体の健康を維持し、戦う顔・戦う目であり続けることが、社会でも、ひいては婚活でも、自分の市場価値を高めると考えたのだ。

 年齢を重ねても同じだと、50代でも感じた。婚活に費やすエネルギーと時間をもっと自分自身の質の向上に使ったほうが、結婚しようがしまいが幸せにつながると思った。

 誰かと手を携えて生きるチャンスがあればなにより。もし一人でいても、強く幸せに生きる意識で仕事をして、ときどき婚活もしてみてはどうだろう。自分自身に提案した。

 2020年6月にこの連載をスタートし、ネットを通じて多くのコメントをいただいた。圧倒的に多かったのは「60近いジジイなのに40代を希望するのはおかしい」という意見だ。

 特に僕が不用意に「40代を希望」と書いたことにカチンと来た読者の方は多かったようだ。不愉快に思った方には申し訳ないのだけれど、一応言っておくと、あくまでも理想であって、絶対条件だったわけではない。

 とはいえ、「分をわきまえろ」という意見はごもっともである。実際にまだ成果は上がっていない。

 しかし、可能性は実感できた。婚活パーティーでも、婚活アプリでも、苦戦はしたものの、女性との縁はあった。食事もしたし温泉にも行った。

 ジジイでも恋愛まではこぎつけられたのだ。恋愛ができると、自信もつく。僕はまだ大丈夫だ、と思えると仕事への活力もわいた。それで十分ではないか。婚活を頑張った成果はあったのではないか。

 この連載を読み、結婚をしたいと思った方がいたならば、40代はもちろん、50代でも、あるいは60代でも、婚活にチャレンジしてみていただきたい。

 自分の婚活市場価値がリアルにわかり、つらい思いをするかもしれない。でも、そのときはそのときだ。アプローチの軌道修正を行い、自分のバージョンアップにも励めば、婚活で成果は上がるかもしれないし、人としての自分にエネルギーも湧いてくる。女性に好かれたいという欲求が高まると、服装や言葉遣いにも気をつけるようになった。すると、婚活に限らず、周囲が好意的に接してくれるようになる。明らかにプラスの効果を感じる。

 20回に及ぶ婚活連載を最後まで読んでくださった皆さん、ほんとうにありがとうございます。ネットには励ましの言葉もいただきました。厳しい指摘も罵倒もありました。ダメ出しのほうがはるかに多かったけれど、それも婚活への活力にさせてもらいました。感謝しています。

石神賢介(イシガミ・ケンスケ)
1962(昭和37)年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターになる。人物ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。30代のときに一度結婚したが離婚。

2021年3月20日 掲載