「肝臓」の異変は顕在化しにくく、気付いたら病状が進行していることも珍しくない。“沈黙の臓器”と呼ばれる所以だが、とりわけ脂肪肝には要注意である。アルコール好きに特有の症状だと思ったら大間違い、飲酒と縁遠い暮らしでも、病魔が襲い掛かるリスクは十分あるのだ。

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 数ある肝臓の病気でも、脂肪肝と聞けば、反射的に“飲み過ぎ”といったフレーズが思い浮かぶことだろう。むろん、アルコール性の脂肪肝に罹る人が多いのは事実なのだが、

「お酒をあまり口にしない人が発症するタイプの脂肪肝についても、このところ多く見られるようになっています」

 そう話すのは、全国でも数少ない「脂肪肝専門外来」を開設する大阪府の市立吹田市民病院消化器内科の吉田雄一主任部長である。

「とくにコロナ禍では在宅勤務が増え、お菓子を食べ過ぎたり運動不足になったりしがちです。気がついたらお腹の周りに脂肪がつき、メタボリックシンドロームになっていたという人もいるでしょう。そうした人がなりやすい脂肪肝が最近、問題になっています。というのも、これを放置すると肝硬変、そして最悪の場合、肝臓がんに進んでしまうケースもあるからです」

 沈黙の臓器にあって、脂肪肝はまさしく“サイレントキラー”なのである。

 同院が脂肪肝専門外来をスタートさせたのは2017年。きっかけとなったのは、70代男性患者の治療経験だったという。

 その患者は糖尿病で入院しており、それまで飲酒の習慣はなく、肝臓の自覚症状も全くなし。ところがある時、検査によって肝臓がんが見つかったのである。

「手術の際、がん以外の組織を採って病理像を調べたところ、脂肪肝が原因となって肝硬変になっていたことが分かったのです。もともと日本糖尿病学会の報告でも、糖尿病の患者さんが肝臓がんで亡くなる割合は、糖尿病でない方と比べて多いことは分かっていました。そして、このケースをきっかけに、私たちは糖尿病と脂肪肝・肝臓がんとの関連性を調べ始めたのです」

 糖尿病で通院していた患者およそ500人を対象に5年にわたって調査したところ、肝炎ウイルスが関係しておらず脂肪肝から進行したと推定される新規の肝臓がんが5人に見つかったというのだ。

「脂肪肝由来の肝臓がんの背景に糖尿病があることが、これで裏付けられました。つまり、脂肪肝のリスク因子として最も気をつけなければならないのは糖尿病だということです。この70代男性もそうでしたが、糖尿病の患者さんは従来、血糖値の変化や心筋梗塞のリスクには備えているものの、消化器内科は受診しないため肝機能の衰えが見逃されていました。それは診療科が細分化されている医療体制の盲点だったといえます」

 その診療科の垣根を越えて連携を強化し、リスクが疑われる患者が近隣の医療機関を受診した際には引き受けるシステムを構築すべく、脂肪肝専門外来を開いたのだという。

組織が硬くなると…

 こうした知見をもとに、あらためて「脂肪肝」という症状を捉えると、

「端的に言えば、肝臓に脂肪がたまり、フォアグラのようになった状態です」

 吉田部長はそう指摘するのだが、ではいかなる仕組みで発症するのだろうか。

 たとえば飲酒が原因の場合、アルコールを分解する過程で、肝臓に中性脂肪を蓄積する作用が働く。飲み過ぎると、たまる脂肪の量も多くなるというわけだ。

 一方、酒をあまり飲まない人がなる脂肪肝は、糖尿病をはじめメタボリックシンドロームに関連していることが多い。つまり食べ過ぎ、肥満、運動不足であり、中でも問題なのが炭水化物の過剰摂取。炭水化物は分解されてブドウ糖となり、グリコーゲンとして肝臓に貯蔵される。が、運動不足で消費されずにいるとグリコーゲンは脂肪へと変わり、その状態が長く続くことで脂肪肝となってしまう。

 もちろん肥満も危険で、ウエストが男性85センチ以上、女性90センチ以上の場合は、胃腸など内臓の周囲に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」とされ、肝臓にも脂肪が多く蓄積されている可能性が高い。とはいえ、痩せ型の人も決して安心できない。皮下脂肪が少ないために内臓脂肪が目立たない“隠れ脂肪肝”のケースもあるからだ。

 ちなみに、アルコール性脂肪肝であるかどうかの判断は、酒量に換算して「1日あたりビール中ビン1本程度」が基準だという。というのも、

「純エタノール量に換算し、1日あたり男性は30グラム、女性は20グラムにとどめておけば、通常は肝障害を引き起こすおそれはありません」

 この数値は酒量に濃度、そしてアルコールの比重0・8を乗じて算出される。ビール中ビンが500ミリリットルで濃度5%だとすると、1本飲み干して20グラムのアルコールを摂取する計算だ。日本酒であればおよそ1合、ウイスキーはダブル1杯(60cc)、ワインはグラス2杯分といった量になる。日頃の飲酒量がこれを下回る場合は、脂肪肝が見つかっても「非アルコール性」と診断されることになるわけだ。そして、肝炎やアルコールではなく、このようなメタボに起因する脂肪肝に罹る人は、

「人間ドックを受ける人のおよそ30%が該当すると言われています」

 とのことで、現在、全国に患者は推定1千万人以上いるとされる。もっとも、こうしたメタボ由来の脂肪肝すべてが悪化していくわけではない。

「二つのタイプがあります。一つは、単に肝臓に脂肪がたまっていて、病気がほとんど進行しないと考えられる非アルコール性脂肪肝で、これを『NAFL(nonalcoholic fatty liver)』といいます。もう一つは生活習慣が改善されず、肝臓の細胞が何度もダメージを受けて炎症を起こし、修復を繰り返すうちに組織が硬くなっていく状態です」

 これが「線維化」で、

「線維化が進行している状態は『NASH(nonalcoholic steato-hepatitis)』と呼ばれ、肝硬変が起きつつある、または起きている状態ともいえます。メタボによる脂肪肝からNASHへと進む人の割合はおよそ1割弱とみられますが、悪化すれば肝硬変、さらには肝臓がんを引き起こしてしまうリスクがあります」

 恐ろしいのはがんだけではない。脂肪肝を放置すると、肝臓にためきれなくなったブドウ糖が血中に流れ込んで血管を傷つけ、動脈硬化を引き起こすケースもある。その結果、心筋梗塞や脳卒中、腎臓病を発症するリスクも2倍に上昇するという。また最近では、大腸がんのリスクを上げるという研究結果も出ているのだ。

 となれば重要なのは、早期発見に尽きる。

エコー検査で重要な“色”

 肝心の検査については、職場や自治体で行われる健康診断の血液検査がおなじみである。

「ALT(GPT)やAST(GOT)、そしてγ−GTPといった項目で、肝機能の障害を調べます。一般の健康診断などでは、それぞれ正常値は『30以下』『30以下』『50以下』となっていますが、これらの中で一つでも基準値を超えていれば、エコーによる検査や肝炎ウイルス感染のチェックなどが必要になります」

 中には、これらの肝機能値に異状がないにもかかわらず、脂肪肝が進んでいるケースもあるという。

「それは肝硬変が進んでしまった人です。ALT、AST、γ−GTPの値はいずれも、肝臓が破壊されて放出される酵素の量を示します。従って破壊されている過程では、これらは高い数値を示しますが、長い時間をかけて破壊し尽くされてしまうと、肝臓はまさしく“なれの果て”状態となり、もはや高い数値が出ないのです。先に紹介した70代男性は、まさにこのタイプでした」

 血液検査はぜひ定期的に受けるべきだといい、基準値を超えた場合は、その先のエコー検査で脂肪肝か否かの判定がなされる。

「ポイントは“色”です。技師が画像を見て、腎臓など他の臓器と比べて肝臓が白く見え、くっきりとコントラストが出ていれば、脂肪肝だと診断できます。反対に、他の臓器と同じような色の場合は脂肪肝ではありません」

 ここで脂肪肝と診断されたら、続いて線維化のリスクチェックをしなければならない。血液検査による「FIBー4インデックス」法では、年齢やALT、AST、血液中の血小板の数値をもとに計算し、どこまで症状が進んでいるかが推定できる。血小板の数は、肝臓の線維化が進むと低下することが分かっており、健康診断のガイドラインによれば正常値は14・5万〜32・9万。ちなみに脂肪肝では、15万以下ですでに肝硬変の疑いがあるという。

 その計算式とは、年齢×ASTの値を血小板数の千分の1×ALTの平方根で除したもので、例えば50歳でALT、ASTともに25、血小板数が20万だとすると、その数値は1・25となる。

「1・30未満の方は、線維化はほぼ見られず、健康診断でも問題はありません。逆に2・67以上の場合、または血小板数が低下している方は、次のステップとして肝生検やエラストグラフィ(肝臓の硬さを測定する検査方法)が必要となってきます」

 肝生検とは肝臓の組織を針で突いて採取し、線維が可視化できるよう薬剤で染め、その様子を顕微鏡で調べる手法であり、

「脂肪の量や炎症、線維化の程度を直接に確認できるメリットがある一方、肝臓に針を刺すという身体への負担は小さくありません。そもそも入院が必要になってしまいます」

体重を7%減らす

 これに対し、超音波やMRIを用いたエラストグラフィは、身体的負担がほとんどないという。

「特に、MRIを用いるMRエラストグラフィは、振動波が伝わる速さから肝臓の硬さを推定することで、サーモグラフィのように視覚的に全体の硬さが把握できます。場合によっては肝生検とあわせて検査を行う場合もあり、これらの検査で線維化の進行が確認された場合は、発がんの高リスク群に振り分けられます。そうした方は年に2回はエコー検査を受けるなど、日頃から気に留めておいたほうがいいでしょう」

 現状では、NASHを治療するための専門薬は、一般診療においてはまだ登場しておらず、

「糖尿病の治療薬である『SGLT2阻害薬』に脂肪肝を改善させる効果があるとの報告も出てはいますが、脂肪肝には現在、保険適用されていません。まずは地道に、食事療法と運動療法を実践することです」

 日本肝臓学会のガイドラインによれば、体重を5%減らすことでQOL(生活の質)の改善が得られ、また7%減らせばNASHの肝脂肪化が軽減され、浸潤した炎症細胞の減少など肝組織に改善がみられるという。そのための手段として、週に3〜4日の有酸素運動を1回30〜60分、これを4〜12週間続けることで、体重減少のいかんにかかわらず肝脂肪化が改善されるというのだ。

 さしあたり、もっとも手軽に始められるのはウォーキングであろう。1日8千〜1万歩が望ましいところだが、無理のないレベルから歩き始めればよく、また最近では「レジスタンス運動」(筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う)も脂肪肝改善に有効であるとの研究報告がなされている。室内でも可能なスクワットはいかがだろうか。

「脂肪肝の多くは悪化しないタイプとはいえ、線維化してNASHになってしまうと大変です。決して甘く見ることなく、健康診断で異変を指摘されたら一度は医療機関にかかることをお勧めします」

“サイレントキラー”をなだめつつ、うまく付き合うことで他の病気も予防するといった「一病息災」の心構えも、また肝要であろう。

「週刊新潮」2021年3月18日号 掲載