昨年12月から今年1月にかけて多くの国で出生数が急減した(4月9日付日本経済新聞)。新型コロナウイルスのパンデミックにより、コロナ患者が多い病院に行って出産することに不安を感じるカップルが多かったからだとされている。

 欧州では最初にパンデミックの中心となったイタリアの昨年12月の出生数が前年比22%の減少となった。スペインやフランスの今年1月の出生数はそれぞれ20%減、13%減だった。米国全体の数字はないが、月次データを公表しているコネチカット州の今年1月の出生数が前年比14%減となった。アジアでも香港の1月の出生数は前年比56%減、台湾は23%減だった。日本の1月の出生数も14%減だった。中国の直近のデータはないが、昨年の出生数は前年に比べ3割以上減少したとされている。

 国際通貨基金(IMF)によれば、世界で働く18〜29歳の17%強がコロナ禍で失業又は休業を余儀なくされており、雇用への打撃が若者ほど大きいことから、パンデミックの収束後も出生数が伸び悩むのではないかと懸念されている。

 世界規模で出生数が低迷すれば持続的な成長への足かせとなることから、支援策を打ち出す国や地域が出始めている(4月10日付日本経済新聞)。欧州で特に出生数が減少したイタリアは今年7月から子供1人当たり月250ユーロ(約3万2000円)の手当を給付することを決定した。支援期間は妊娠7カ月から子供が21歳になるまでである。アジアでも、シンガポールや台湾などで出生数の回復に向けた取り組みが始まっている。これらの取り組みにより、スペイン風邪が終息した後にベビーブームが起きたように、今回も出生数が回復するのだろうか。

 女性の社会進出などで先進国を中心に合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)は、21世紀に入って低下傾向が顕著になっている。2019年の合計特殊出生率は2・5に落ち込んだが、2・1を下回ると人口が減少すると言われている。

「出生数を増加させようとする政策は無駄に終わることが数々の証拠から明らかだ」

 このように主張するのは『2050年世界人口大減少』の著者であるダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソンの両氏である。政府による手厚い支援策で出生数を増やすことに成功したケースはあるものの、一度下がった出生率を人口置換水準にまで高めることに成功した事例はない。

ポイントは「2050年の中国」

 子供を1人か2人しか持たないのが当たり前の社会になると、その数を当然だとする感覚はなかなか変わらない。個人的な満足感を得るために子育てをしようとする風潮も強まっており、その満足感を満たすためには1人か2人の子供を持てば十分だからである。飢饉や疫病のせいでこれまで世界の人口が減少することが何度もあったが、今後訪れるであろう世界規模の人口減少は私たち自らが選択した結果だというわけである。

 ブリッカー氏らは、世間の常識とは異なり「世界の人口は2050年前後に85億人(現在の人口は78億人)で頂点に達し、その後急速に減少し、2100年頃には70億人前後に戻るだろう」と予測する。

 人口減少のインパクトを実感するのに30年も待つ必要はない。既に世界では日本を始め25カ国前後の国で人口減少が始まっており、これらの国々では働き手や買い手となる若者人口が減少しているのにもかかわらず、経済を成長させようと四苦八苦している様が見てとれる。世界の乳幼児たちが中年になる頃、血の気の多い若年人口が減少することから犯罪率は低下するだろうが、大勢の高齢者が必要とする医療や年金に使われる税負担の大きさにより家計は苦しくなることは必至である。

 世界規模で人口減少が始まる2050年頃の世界ははたして平和なのだろうか。

 ブリッカー氏らは「その答えを大きく左右するのは中国である」と指摘する。2050年の中国は、世界を股にかけるどころか、急速な人口減少が拍車をかける国内の政情不安に悩まされている可能性が高いからである。

 ブリッカー氏らが世界が新しい平和な時代を迎えるためのキーワードとして挙げるのは「老年性平和」である。平たく言えば「高齢者にとって住みやすい社会」ということになるだろうが、現在の中国で進んでいる変化はその逆である。日常生活の隅々にまで浸透したキャッシュレス決済などのハイテク化は、若者には便利だが、高齢者にとっては「地獄」だとの批判が高まっている(2020年12月11日付ニューズウイ−ク)。

 人口の伸び率が100年ぶりに低水準となった米国で、バイデン政権は2兆3000億ドル規模のインフラ投資計画を立案したが、筆者は高齢者向けに手頃な価格で提供できる「地域密着型介護サービス」の拡充のために4000億ドルの予算が充てられたことに注目している。共和党からは「インフラ整備予算に該当しない」との批判が出ているが、米国でも高齢化率は年々上昇している(16%強)。介護従事者の待遇は悪く(在宅上級介護者の年収は1万7000ドル以下)、慢性的な労働力不足に悩んでおり、今回の措置により長年の問題が解決に向かうことが期待されている。

 日本も重度の要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、「地域包括ケアシステム」を2025年までに実現することを目標にしているが、現状は非常に厳しく、この問題はコロナ禍によりさらに深刻化した。サービス業に従事する比率が高い女性の自殺者の増加という問題も発生している。

 米国にならい日本も今後「大きな政府」に舵を切る可能性があるが、人口減少社会に備えたインフラ整備のあり方についても議論されるべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月19日 掲載