日本人にとって身近な「みそ汁」に少し工夫を加えるだけでさまざまな健康効果が得られる、と順天堂大学医学部の小林弘幸教授は説く。自律神経や腸内環境を整え、便秘も予防してくれる――。自律神経の名医が試行錯誤の末にたどり着いた、「長生きみそ汁」健康法。

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 最近、「何となくダルい」「仕事への集中力が落ちている」「夜、寝つきが悪い」と感じてはいないでしょうか。それは、長引くコロナ禍でストレスがたまり、自律神経が乱れていることが原因かもしれません。かくいう私も昨年、新型コロナウイルスの全貌がまだはっきりしていなかった頃に自律神経の乱れを感じたので、日々の生活にちょっとした“変化”を取り入れました。朝、散歩に行った時などにスマホで風景などの写真を撮り、インスタグラムにアップするのです。それだけでも十分に緊張感を和らげる効果があります。

〈自律神経という言葉は知っていても、それについて詳しく説明できるという人は少ないのではないか。『医者がやっている自律神経を整える働き方』などの著書がある順天堂大学医学部の小林弘幸教授の解説に耳を傾けると、それが我々の健康にとっていかに大事であるかが分かる。〉

 自律神経とは、全身にはりめぐらされている神経の一つです。痛みを感じる知覚神経などと違って、自分の意思でコントロールできないという特徴があります。例えば、私たちの体は、どれだけ仕事に集中していても、呼吸するのを忘れないでいてくれる。ランチで食べたものを消化、吸収してエネルギーに変えてくれる。大事なプレゼンに緊張しないで挑むべきだと分かっていても、心拍数は勝手に上がる。「今日は学校を休みたいから38度くらい熱が出ないかな」と思っても、体温はコントロールできない。これらは全て自律神経の働きが影響しています。

 自律神経は、心臓や肺、胃や腸、血管などの機能をコントロール。呼吸、血液循環、消化吸収、排泄、免疫、内分泌など、私たちのありとあらゆる生命活動に関わっています。

 すでに述べた通り、自律神経は自分の意思でコントロールできません。しかし、だからといって自律神経の乱れに対処する方法がないわけではない。意識的に自律神経のバランスを整えることはできるのです。

 自律神経は「交感神経」と「副交感神経」という2つの神経系から成り立っています。前者は、心身が興奮するときに働く自律神経であり、車で言えばアクセルにあたります。交感神経が優位になると、心臓が活発に動き出し、心拍数が上がります。血管が収縮して血圧が上がり、体がエネルギーを生み出しやすい状況になる。ただし、血管が収縮することで末端の血流が悪くなり、手足が冷えたりします。

 交感神経が適切に機能することで、やる気や集中力が高まります。しかし、それが過剰になると、「緊張しすぎてうまくいかない」「不安やイライラを感じる」「夜、よく眠れない」という状態になります。交感神経は「打ち合わせや営業などで人と話す」「日光を浴びてウォーキング」といった活動時などに高まりますが、コロナ禍の今、そうした機会は以前と比べて減っているのではないでしょうか。

 交感神経が車のアクセルだとすると、ブレーキの働きをするのが副交感神経です。心身が落ち着いてリラックスしている時には、こちらが優位になります。「友人と雑談をする」「お風呂にゆったり浸かる」「深呼吸をする」といった時、副交感神経が高まっています。

 超一流のスポーツ選手などは、交感神経と副交感神経、両方の働きが良いと聞きます。選手が試合に臨む時には必ず緊張して交感神経が高まりますが、副交感神経もしっかり働くことで緊張しすぎずに実力を発揮できるのです。つまり、2つの自律神経の働きが良いと、やる気や集中力が高まり、最高のパフォーマンスが望めるわけです。また、血流も良くなり、筋肉や脳などの細胞一つ一つに栄養素と酸素が行き届く。肌や髪の毛も艶々になり、若々しくいられます。

バランスを保つコツは…

〈つまり、自律神経を整えれば「若返り」も期待できるというわけだ。小林教授によると、自律神経のバランスは次の4つのタイプに分けられるという。(1)交感神経も副交感神経も高い。(2)交感神経は高いが、副交感神経は低い。(3)交感神経は低いが、副交感神経は高い。(4)交感神経も副交感神経も低い(表参照)。〉

 iPhoneをお持ちの方は、私が監修した自律神経の診断用アプリ「CARTE」も試して下さい。iPhoneをお持ちでない方は、掲載のリストでチェックしてみることをおすすめします。

 この4つのタイプで最も好ましいのは、当然、(1)の状態です。交感神経と副交感神経がどちらも高く、しっかりと活動している状態は、車で言うと、アクセルとブレーキが正しく機能している状態です。この状態がキープできている人は体調も良いし、免疫力も高まります。疲れにくく、脳の血流も良いため、仕事のパフォーマンスも良い。また、メンタルが安定しているため、正しい判断が下せるようになります。

 一方、交感神経は高いが副交感神経は低い(2)のようなタイプは、現代人の自律神経のバランスの最も典型的な崩れ方です。現代人は仕事でストレスを受けやすく、パソコンやスマホにしょっちゅう接しているので、交感神経が刺激を受けて過剰に優位になりやすいのです。もちろん、長時間労働も交感神経が優位になる原因となります。

 また、(3)のように副交感神経が優位になりすぎているタイプでは、どちらかというと、メンタルのほうに不調が出ることが多い。仕事をやる気が起こらず、うつ病のような症状が見られる場合もあります。

 そして、最近急増しているのがどちらも低い(4)のタイプです。仕事をしていても疲れやすく、覇気が感じられない。さらに、この状態が続くと全身の血液の流れが悪くなり、頭痛や肩こり、内臓機能の低下による便秘や下痢、肌荒れなどの症状が出てきます。また、免疫力が低下するので、風邪や感染症にもかかりやすくなってしまいます。さらに、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞、がんになるリスクも高まります。

〈どうすれば自律神経のバランスを良好に保つことができるのか。小林教授はバランスを保つ“三種の神器”として「規則正しい食事時間」「早寝早起き」「散歩(軽い運動)」を挙げる。〉

「何だかフツーだなぁ」と思いますか? でも、これが基本中の基本なのです。例えば、朝は交感神経が高まっていかないと、体が目覚めず調子が出ません。朝に交感神経を上げるにはどうしたらよいのでしょう? 具体的には、朝、決まった時間に起きて、コップ1杯の水を一気に飲みます。すると、交感神経が上がり、腸に刺激が行き、副交感神経も上げてくれ、自律神経のスイッチが入ります。コツとしては、最初に軽くうがいをして、寝ている間に口の中に繁殖した雑菌を洗い流してから、常温の水を飲むようにしましょう。

 そして、カーテンを開け、外を眺めて日光を浴びます。日光を浴びると体内時計がリセットされ、目覚めの交感神経も自然と高まってきます。起床後2時間以上、太陽の光に触れないままだと、体内時計のリセットが十分に行われないので気をつけましょう。また、日光を浴びないと、幸せホルモンである「セロトニン」と、睡眠ホルモンである「メラトニン」の分泌が悪くなります。そうなると夜の睡眠の質が悪くなり、自律神経も乱れます。

 コップ1杯の水を飲み、カーテンを開けて日光を浴びたけど、いまいちやる気が出ない――そんな時は、朝はもちろん、昼でも「散歩」がおすすめです。15分でも30分でも構いません。顔を少し上げて軽く胸を張って散歩をすると、気分も晴れやかになり、日光もよく浴びられます。テクテク歩きながら空や道端の花などを眺めていると、気分が上がります。その際、私が写真を撮り、インスタにアップしていることはすでにお話しした通りです。

みそは「スーパーフード」

 体を動かすことをすすめると、「じゃあランニングを始めてみます」と話す方がいます。いまだに「運動=ランニング」というイメージを持つ人が多いようです。ランニングは確かに、心肺機能を高めるトレーニングや、ダイエットとしては一定の効果が見込めます。しかし、中高年以上の人が「健康に良さそう」との理由でいきなりランニングを始めるのは、実は、自律神経の観点からは疑問があります。

 すでに述べてきた通り、仕事のストレスなどから交感神経優位となり、副交感神経の働きが弱っている人も多いです。ランニングのような強度のある有酸素運動をすると、交感神経のレベルがぐっと高まるので、自律神経の不均衡状態にさらに拍車をかけてしまう可能性があります。中高年では特にそうした傾向があるので、健康になるどころか、むしろ老化が加速するリスクさえあるのです。

〈自律神経を良好に保つために「規則正しい食事時間」が重要なことにはすでに触れたが、どういったものを食べればいいのか。小林教授がすすめるのは「みそ汁」。小林教授の著書『医者が考案した「長生きみそ汁」』は80万部を超えるベストセラーとなっている。〉

 みそは日本を代表する発酵食品。みその主原料である大豆は、元々豊富な栄養を備えています。大豆はみそになる過程で発酵すると、さらに栄養価が高まり、その結果、栄養満点のスーパーフードに進化するのです。そんなみその健康効果は、近年、以下のように科学的に実証されてきています。〇発酵によって老化制御機能が生まれる(東京農業大学・小泉武夫名誉教授)。〇血圧上昇を抑制し、脳卒中を予防する効果がある(広島大学研究グループ)。〇胃がんを抑制する効果がある(広島大学・渡邊敦光名誉教授)。ただし、みそをそのまま毎日食べるのは無理があります。その点、みそ汁であれば、他の食材が持つ栄養まで一緒に取れる。そこで私はある時、仮説を立てました。私の長年の研究結果を元にすれば、あらゆる病気を遠ざけ、不調を改善する最強のみそ汁ができるのではないか……。試行錯誤の末、たどりついたのが「長生きみそ汁」だったのです。

 長生きみそ汁の基本の素材は次の4つです。抗酸化力を高めるメラノイジンが豊富な赤みそ。ストレス抑制効果があるGABAが含まれた白みそ。解毒効果抜群のアリシン、ケルセチンが豊富なおろし玉ねぎ。塩分排出効果があるカリウムが含まれたりんご酢。この4つの素材を組み合わせて冷凍した「長生きみそ玉」を使い、1日1杯のみそ汁を飲む。それだけでさまざまな健康効果が期待できるのです。さらに、食物繊維が豊富で、強い抗酸化力を持つファイトケミカルという物質を含む野菜やキノコを具材に選ぶことで、健康効果は高まります。

 ちなみに、みそに含まれる塩分を気にして敬遠してきた方も多いのではないでしょうか。しかし、2017年、広島大学の研究グループがみその塩分について、画期的な発表をしました。それは、食卓塩と同量の塩分をみそから摂取しても、血圧は上昇しない、というものでした。みその唯一の欠点である塩分が、血圧上昇と無縁なら、みそを敬遠する必要はありません。

 自律神経を整えるためにも、毎日1杯の長生きみそ汁を飲むことをおすすめします。自律神経のバランスが崩れる理由の一つはストレス。長生きみそ汁で使う白みそにはストレスを緩和してくれる成分、GABAが含まれています。さらに、りんご酢に含まれるグルコン酸は、腸内に棲む善玉菌が大好きなエサです。善玉菌が増えれば、腸の動きも血流も良くなって、蠕動(ぜんどう)運動が活発になります。すると、体に悪さをする活性酸素の発生を抑えられるようになるので、ストレスに強い体に生まれ変わるのです。また、腸内環境が整うと、大腸がんリスクの軽減や便秘などの予防、改善も期待できます。

 人間の体は37兆個の細胞からできています。結局のところ、人が健康を保てるか否かは、それら細胞の1個1個にどれだけ質の良い血液を流すことができるかにかかっています。そのために重要なのが自律神経と腸内環境。その両者のバランスを良好に保つ効果がある長生きみそ汁は、まさに最強の食事と言えます。

「週刊新潮」2021年7月22日号 掲載