難聴、耳鳴り、突発性難聴。耳の症状で悩む人が増えている。耳が聴こえにくいとQOLに影響するうえ、認知症の発症率が高まるというから怖いが、その原因の多くは、実は頭蓋骨のゆがみにあったという。聴力アップにつながる自己矯正のメソッドを紹介する。

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 WHO(世界保健機関)の推計によれば、高齢者が増えるにつれて聴覚障害を抱える人も増え続けていて、少し古いデータですが、2018年現在、世界で約4億7千万人に達するとか。しかも、それが2050年には、9億人に達する可能性があるというのです。

 もちろん日本も例外ではなく、75歳以上の2人に1人は難聴に悩んでいて、ある調査によれば、「難聴の自覚がある」と答えた人の割合は、全年齢の10・9%にも達したと伝えられているほどです。

 耳に関する症状では、ほかに耳鳴りも無視できません。多くの先進国では、人口の十数%ほどは耳鳴りを感じているといわれていて、しかも、そういう人の9割以上に難聴があると報告されています。

 また、比較的若い人にも多い突発性難聴も、増加傾向にあります。ご存じのように、これも非常にやっかいな病気です。

 耳が聴こえにくくなると、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)、つまり日々の生活の質に大きな影響が生じます。そればかりか、米ジョンズ・ホプキンズ大学の調査では、難聴の高齢者は難聴でない高齢者とくらべて、認知機能の低下率が41%も高い、という結果が出ているのです。

 しかし、このように列挙したのは、読者のみなさんを脅したいからではありません。むしろ、こうした症状は予防でき、症状が出てからでも、ある程度は自分で治せるということを強調したいのです。

 ただし、そのためには、原因をよく理解しておくことが必要です。

 先に述べたような耳の症状が、実は、頭蓋骨のゆがみに由来するということは、あまり知られていません。問題になるのは、頭蓋骨の中心にあって蝶々によく似た形の「蝶形骨」と呼ばれる骨です。

 聞きなれない骨ですが、目、鼻、耳、後頭骨とつながっていて、そのわずかなずれが、目、耳、鼻それぞれの機能障害を引き起こすことがあります。

 つまり、首から上の健康に、この蝶形骨は大きな影響を与えていて、難聴や耳鳴り、めまいの原因にもなっています。また、突発性難聴のほか、頭痛や目の健康にも関係しています。自律神経にまで影響をおよぼす大事な骨なのです。

 今回は、その蝶形骨を自分で矯正する方法を紹介しますが、その前に、蝶形骨のメカニズムについて説明しておきましょう。

 たいていの人は、加齢とともに蝶形骨がゆがむのは避けられません。40歳を超えると、目がくぼんだようになる人が多いですが、これは蝶形骨が動いてこそ生じることです。

 同様に、蝶形骨がずれて左の骨が圧迫されると、耳の奥の鼓膜や、鼓膜で増幅された振動を電気信号に変えて脳に伝える内耳の蝸牛も圧迫を受け、音が聴こえにくくなるのです。

 いま、あえて「左の骨が圧迫され」と言ったのですが、それには意味があります。左耳の穴のほうが小さく、底が浅いという人が多いのです。これは左回りに自転する地球の影響だと考えられます。

 実際、耳の穴に指を突っ込んで探ると、左右の穴の大きさが異なり、左のほうが小さかった、という人がかなり多いのです。ただし、生まれつき、そうなっていたというわけではありません。もとはほぼ同じサイズだったのが、変化してしまったのです。その原因のひとつが、蝶形骨のゆがみだというわけです。

圧迫された耳の穴を広げる

 それでは、自己矯正を始めたいと思いますが、その前にウオーミングアップとして、耳たぶを回して表情筋をゆるめましょう。

 最初に、(1)−a耳をつまんで横に引っ張ります。続いて、(1)−b耳を下に引っ張ります。このとき、ひじを下げ気味にします。それからひじを再び開いて、耳を回してください。

 こうすることで、耳につながっている表情筋がほぐれ、頭蓋骨がゆがむ元凶と考えられる、筋肉の緊張が緩和され、矯正しやすくなるのです。

 さて、いよいよ矯正の本番に入ります。側頭骨をゆるめることから始めたいと思います。(2)こめかみの上に手根(手のひら)を置いたら、一定の力を入れ、10秒ほどかけて、ゆっくりと押し上げてください。指は伸ばしたほうが力が入ります。深呼吸をして、息を吐きながら押し上げるといいです。以下に紹介するエクササイズもふくめ、一度につき3回行うことを目安にしてください。

 次に、後頭骨の一番下両すみの乳様突起をゆるめていきます。(3)−a左右の親指をそれぞれ、首の上にある乳様突起の上に当ててください。実は、乳様突起の位置は左右差があって、左側のほうがやや下方にあるという人がほとんどです。

 (3)−b親指を当てたまま、息を吐きながら、グーッと押し上げてください。多くの人は頭がい骨が、左右別々の度合いで下がっていますが、こうして押し上げることで、左右の位置も揃ってきます。

 今度は、顎関節周辺の筋肉(咬合筋)をゆるめていきましょう。

 (4)−a耳珠(穴の前のでっぱり)の前に人差し指を当ててください。(4)−bその状態で口を開けると、指を当てたあたりに、少しへこみができると思います。そのへこんだ場所が、あごの筋肉の起点に当たります。人差し指でその位置を押さえて、10回ほど、しっかりと上下させてください。

 その際に指は、少し耳珠にかかる感じがポイントです。これで、あごの筋肉がゆるみます。

 さて、筋肉をゆるめたら、いよいよ今回のエクササイズの本丸、耳穴の矯正に入ります。

 (5)−a耳の穴に親指を突っ込みます。その際、指先を頭蓋骨に垂直に立てて、骨にしっかりと当たるくらい、できるだけ奥まで入れるように心がけてください。そうしたら、耳に入れた親指を、(5)−bグーッと押し上げたり、前方に押し出したりしてください。押し上げて3セット、前に押し出して3セット、それぞれ行ってください。

 すでに述べたように、耳の機能低下の多くは、頭蓋骨がずれて、耳の穴が圧迫されることで引き起こされています。このエクササイズによって耳穴が広がると、圧迫されていた鼓膜や蝸牛がストレスから解放されるため、低下していた機能が改善されるのです。

 最後に、蝶形骨そのものを矯正します。

 (6)−a両方の手根をこめかみに当てて、しっかりとはさみます。その際、手根が目の骨にひっかかる感じを意識してください。そうしたら、(6)−b目の骨を前方に押す感じで、力を入れて、呼吸に合わせて押し出します。やはり3セット行ってください。

 これによって、目の奥に位置する蝶形骨がくぼんでいたのが、リセットされてもとに戻ります。

 以上、紹介した五つの矯正、ウオーミングアップを加えると六つのプロセスをしっかり行えば、圧迫されていた耳の機能がストレスから解放されます。結果として、耳がラクになり、聴力が戻って、頭もスッキリと軽くなるのを実感されることでしょう。

 耳だけではありません。目も同様にラクになり、目の疲れやにごった視界が改善されるはずです。

 毎日行うのが理想ですが、難しいようであれば、週1回のペースで実践するだけでも、かなりの効果が期待できるはずです。

「昔の顔に戻る」効果も

 かなり前から、蝶形骨は私にとって重要な課題でしたが、この骨はアプローチしにくい箇所にあります。

 きっかけは突発性難聴でした。この症状が出て悩んでいる人の骨格矯正をしたとき、施術が終わると難聴が改善されたことがあったのです。携帯電話でだれかと話しても、相手の声がほとんど聴こえなかったのが、普通に会話ができるまでに回復していました。

 こうした事例を通して、聴力が衰える原因の少なからぬ部分が、蝶形骨がずれて耳が圧迫されることにある、とわかったのです。特に突発性難聴は、いまも医学的には原因がよくわからないとされています。しかし私は、頭蓋骨の左右差が原因で耳の内部に圧力がかかり、蝸牛がずれて耳の機能が低下するのが原因だ、と仮説を立てました。

 それから試行錯誤を繰り返しながら、矯正のメソッドを完成させました。今回はそのなかでも、手軽にできるものを厳選して紹介しています。

 実は、蝶形骨のずれが矯正されることで、ほかにもさまざまなメリットを享受できます。たとえば、頭痛の解消にも大きな効果が期待できます。

 見た目の効果も大きいです。蝶形骨が前に押し出され、もとの状態にリセットされると、目の周囲の陥没が解消されて、若返って見えます。「昔の顔に戻った」というのは、うれしい副産物ではないでしょうか。身体機能の改善と若返りを、同時に享受できるのです。

 また、すでに述べたように、蝶形骨は目にもつながっているので、視力が改善する可能性が高いです。

 ところで、耳についての悩みには、難聴や突発性難聴と並んで、耳鳴りがあります。冒頭でも触れましたが、耳鳴りを感じている人は多く、40代以上では、悩まされている人のほうが多いといわれています。

 耳鳴りも原因は側頭部の緊張にあると考えられます。こめかみを押すとキーンと音がしますが、それは、頭蓋骨の周りが緊張すると、音につながることの証左です。やはり蝶形骨のゆがみが、耳鳴りの原因のひとつで、したがって、この矯正によって、耳鳴りの症状も抑えることができます。

 ただ、たとえば目は、視力が上がればすぐに効果を実感できますが、それにくらべると、耳は意外と効果を感じにくいものです。それに、突発性難聴はともかく、加齢に伴う難聴の場合、一度によくなるというものではありません。

 しかし、ここに紹介した自己矯正を習慣化し、地道に実践すれば、徐々に回復に向かうと思います。即効性はない代わりに、確実によくなっていきます。

 もっとも、加齢による耳の機能低下が進んでいる場合は、個人差はありますが、矯正の効果が多少薄いことも考えられます。そういうときには、医師や介護事業者に相談したり、補聴器を活用したりすることも考えながら、地道に取り組んでください。

清水ろっかん(しみずろっかん)
骨格矯正士。明大柔道部時代から数々の整体を学び、独自の理論による整体術を確立。体形が崩れる原因として骨盤のゆがみに着目した。骨格矯正と健康指導の「ろっかん塾」院長(東京都杉並区高円寺南4-27-18 6階、電話03-5929-7042)。近著『眼圧リセット』(飛鳥新社)がべストセラーに。

「週刊新潮」2021年9月23日号 掲載