老いと闘うか、受け入れるか、と言い争ったところで、年代によって「老い」の程度や中身はまるで違う。だったら年代別の傾向を知って、適切な対策を講じることに勝る策はない。老年医学が専門の和田秀樹氏が、年代別に見た医学的に正しい生き方を指し示す。

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 日本人の平均寿命は、戦後間もない1947年に初めて統計が取られたときは、男性50.06歳、女性53.96歳でした。それが2020年には男性81.64歳、女性87.74歳です。

 与えられた時間が30年も増えれば、その期間をできるかぎり若々しくすごしたい、と考えるのは、人間として自然なことです。だからアンチエイジングが注目されているわけですが、一方、避けられない老いを素直に受け入れるべきだ、という主張もまた、いまなお根強いのが事実です。

 しかし、高齢者専門の精神科医として、これまで約35年にわたり高齢者に接している私は、老いに対する考え方が、「老いと闘う」べきか、「老いを受け入れる」べきかという二極に分かれることに、違和感を覚えています。健康長寿のためには、両方の考え方が必要だと思うからです。

病気を受け入れなければならないとき

 老いとの闘いには、人生のある時期までは意味があります。心がけによって脳や血管などを若々しく維持することは可能で、そうして老いを遅らせることができれば、日常生活も送りやすくなります。あえて避ける理由はありません。

 とはいっても、一定の年齢からは、認知症やがんの発症率が高くなり、完全に予防することは難しくなります。病気を受け入れなければならないときも訪れるでしょう。しかるべきタイミングで、老いを受け入れる方向に、気持ちを切り替える必要が生じます。

 しかし、それは老いをなんでも受け入れる、ということではありません。「ウィズ・コロナ」同様、それなりに老いてからは、いろいろなことと「ウィズ」で生きる年代なのです。

 認知症でも、いまできることだけは、できるだけ維持する。がんになっても全部切って元気を落とすのではなく、進行が遅いようなら「ウィズ・がん」ですごしてみる。迫りくる病気を受け入れ、なにもしないのではなく、病気を受け入れたうえで、なるべく進行を抑えるように努めたほうが、結果として、より長く元気でいることができます。

高齢者は一気に老いるわけではない

 ところで、最初に挙げた二極化は、世間やメディア、それに政府までが、高齢者を誤って認識していることにも起因しています。いまの80歳は1942年生まれですから、小学校に脱脂粉乳が配られ、学校給食も食べてきた最初の世代。幼少期からタンパク質を十分に摂取し、栄養状態がよかったので、昔にくらべると体格がよくて若いです。

 一方、戦後まもなく描かれた「サザエさん」の磯野波平は54歳、フネは48歳で、現代の感覚からすると、年齢よりかなり老けています。当時は栄養状態が悪く、男性でも身長が160センチに満たない人が多く、老けるスピードが速かったのです。

 いまなお昔のイメージが根強く残っているので、65歳以上は「高齢者」として一緒くたにされがちですが、高齢者は一気に老いるわけではありません。栄養が行き届いたいまの元気な高齢者なら、なおさらです。老い方は年代によっても、個人によっても、じつに多様で、多彩なグラデーションがあります。

同じ病気でも対応は異なる

 それでも、年を追って老化が進むことは避けられません。ですから、老化と闘って、どこかのタイミングで「ウィズ」を決断するにせよ、どの年代でどういうことが心身に生じ、どのように気を付ければいいのか、年代ごとのリスクを把握しておくに越したことはありません。

 それだけではなく、年代によって、たとえ同じ症状でも、かかっている病気が違うことは多く、同じ病気であっても、対応を変える必要も生じます。

 それでは、各年代でなにが起きやすいかという「傾向」を記しながら、これまでに6千人以上の高齢者を診てきた老年医学の専門家の視点で、「対策」を示しましょう。

50代で前頭葉は老化が

 50代は認知症の有病率が1万人に8人で、要介護率は1%未満。がん死亡率は10万人あたり146で、目に見えて老化する人は、ほとんどいません。しかしながら、いくつかの問題がまとめて起こる年代でもあるので、注意が必要です。

 まず、前頭葉の萎縮が進みます。人間の脳の表面積は、およそ新聞紙1面分に相当し、そのうち4割強を前頭葉が占めています。

 私は高齢者医療が専門の浴風会病院に長く勤務しましたが、そこで膨大な数の脳のCTやMRI検査画像を観察するうちに、人間の脳のなかで最初に老化が始まるのが、前頭葉であることに気付きました。

 前頭葉が萎縮しても知能は落ちませんが、意欲や創造性が減退したり、感情のコントロールが利かなくなったりします。しかし、比較的若いうちから生活習慣を見直し、思考を訓練することで、機能の低下を遅らせることができます。

 それには日常生活のルーティンをなるべく避けること。駅までの道順を変えるのも、行きつけではない店で外食するのも有効です。また、自分とは相いれない考えの本を読むのも、よい刺激になります。こうしたことは60代以上の人も、意識してほしいと思います。

男性ホルモンの減少で記憶力が低下

 とはいえ、50代で認知症になる確率は相当低いですが、問題は神経伝達物質の一種で「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌量が減るので、元々人口の3%はいるとされるうつ病が増えます。結果、自殺する人も増えます。50〜60代ではうつ病でも、もの忘れをしやすくなりますし、特に男性は、5〜10%の人が男性ホルモンの減少が原因で、記憶力が落ちます。

 すると若年性の認知症を心配する人が多いのですが、その前に、うつや男性ホルモンの減少が原因である可能性を疑ってみる必要があります。うつ病にはチェックリストがあり、男性ホルモンの量は血液検査で調べられます。また、男性ホルモンを注射で補充すれば、その減少が原因の症状は劇的に改善されます。

 セロトニンや男性ホルモンを増やすには、肉やコレステロールを摂取するとともに、運動をし、日光を浴びることです。特にセロトニンの分泌を促すためには日光を浴び、屋内でもなるべく明るくすることが有効です。女性の場合は日光を浴びると、女性に多い骨粗鬆症の予防にもなります。

4、5年に1度は脳ドックや心臓ドックを

 50代ではもうひとつ、健康診断の検査データに異常値が見られるようになることが挙げられます。動脈硬化や心筋梗塞は起きにくい代わりに、血圧やコレステロール値などに異常が生じることが多いです。

 しかし、検査データを気にしすぎることを、私は勧めません。たとえばコレステロール値。近年、コレステロール値が下がると、むしろ免疫機能が低下し、がんや感染症にも罹患しやすくなるとわかっています。コレステロール値が高めのほうが長生きできる、という調査結果も多いのです。

 心筋梗塞や脳梗塞を防ぎたいなら、むしろ動脈硬化がどれくらい進んでいるか、直接確認したほうがいいでしょう。日本は血管内治療の技術では世界一です。心臓狭窄と判明すれば、バルーンを入れて冠動脈を広げ、治療することができる。最近では血管を内側から固めることもできるので、脳動脈瘤破裂も防げます。

 心配であれば4、5年に1度、脳ドックや心臓ドックを受けましょう。もちろん60歳以上の人にも勧められます。突然死を避けられるという点で、意味があると思います。

 日本では「ピンピンコロリ」が理想だとされていますが、あれは突然死。死ぬまでに考える時間をもてないし、死後に見られたら嫌なものがない人は、あまりいないと思うのです。

60代は是が非でも仕事を

 60代は認知症の有病率はまだ1%弱で、要介護率も2%未満。がん死亡率は10万人あたり393です。しかし、前頭葉機能がさらに低下し、意欲が失われていく年代です。

 いま各企業などは、65歳まで雇用確保が義務付けられていて、働いていれば無理にでも頭を働かせるため、脳の機能も維持されます。しかし定年退職してしまうと、急に頭も体も動かさなくなり、老け込んでしまいがちです。だから、是が非でも仕事は続けたほうがいいです。

 もっとも、それまでと同じ仕事をする必要はありません。年金も支給されはじめるのだから、月に20〜30万円稼げれば十分。やりたいことをやればいいと思います。たとえば映画が好きなら、映画のアシスタントディレクターもいいでしょう。映画業界は人手不足なので、月に20〜30万円でよければ、雇ってもらえる可能性があります。実入りは安くても楽しくやりがいがある仕事を選べるのは、この年代の特権です。

 60代はまた、親が80代、90代になって、介護に追われる年代ですが、介護に身を入れすぎるのは危険です。離職してまで介護に専念する人もいますが、そうすると人間関係が切れてしまい、職場の人はもとより友人と会う機会も激減し、前頭葉のさらなる萎縮につながってしまいます。また、介護に多くを捧げた人ほど、親が亡くなってしまうと深い喪失感にさいなまれ、うつの危険性も高まります。

なるべく施設に

 ですから介護が必要な親は、なるべく施設に入れることを勧めます。介護施設で虐待が行われていたことがニュースになることがあります。しかし、珍しいからニュースになっているのであって、多く発生しているわけではありません。かたや在宅介護の経験者の35%が、介護虐待をしたことがある、と回答したアンケート結果もあるくらいで、親にとっても在宅介護のほうが、よほど不幸であるかもしれないのです。

 昔は認知症が「子供がえり」、つまり幼時に退化する病気と勘違いされ、施設で高齢者を「ちゃん」づけで呼んだり、童謡を歌わせたりすることがありましたが、いまは、そんなことはありません。高齢者のことを熟知している人が介護したほうが、介護される側も幸せだと思います。

70代でも大統領は務まる

 70代は認知症の有病率が前半で5%程度、後半では10%弱になります。うつ病と認知症の有病率が逆転するのもこの年代です。要介護率は9〜10%で、がん死亡率は10万人あたり807。働くことが困難になってくるので、老化が一気に加速する年代なのです。

 ただし、認知症になっても落ち込むことはありません。昨年、95歳で亡くなった脚本家の橋田壽賀子さんは、「自分が認知症になったら安楽死させてほしい」と訴えていました。そういう発言を聞くと、認知症になったら日常生活も送れないと思ってしまいがちですが、それは誤解です。

 認知症は徐々に重くなる病気。軽いうちはかなりのことができます。アメリカのレーガン元大統領は、辞めて4年目で認知症だと告白しましたが、認知症は少しずつ進むので、在任中から発症し、もの忘れぐらいあったはずです。軽いうちは大統領も務まるのです。

 70代は仕事ができなくなっている場合が多いだけに、認知症を予防し、進行を遅らせるため、意識的に運動し、頭を使うことです。

 70代になれば、だれでも脳が萎縮します。現実には、現役の会社社長と、ボケてしまった無職の人がいますが、脳のCTを撮れば、同じくらい縮んでいます。差が出るのは、脳は使っていれば、縮んでも認知症になっても機能するからです。

カラオケ、キャバクラの効果

 問題は脳の使い方です。ボケ防止に「脳トレ」がいいといわれますが、あれは効果がゼロではないものの、数学のパズル「数独」を解く脳トレをしても数独の力しか維持されません。それよりも大事なのは、日常的に行っていることを、やめずに続けることです。

 読書もいいです。いまの70代は全共闘世代で、学生時代にたくさん本を読んできた人が多い。知的レベルが高い世代なので、読書する習慣がある人は、ぜひ継続してください。

 声を出すことも効能的なようです。私が診たアルツハイマーの患者さんで、詩吟を続けていた人は進行が目立ちませんでした。だから、カラオケにも同様の効果があると思います。

 年を取ると、女の子が接客する店に行くことなどは、慎むべきだとされがちですが、仕事を辞めた70代にとっては脳の活性化になるよい機会。キャバクラのほか、スナックや小料理屋に通うのも、話術を鍛えることにつながり、前頭葉のトレーニングになります。

 介護保険が始まる前の話ですが、東京都杉並区と茨城県鹿嶋市の認知症患者では、後者のほうが進行は遅いと確認されました。杉並では、家族が認知症を恥ずかしがり、高齢者を家に閉じ込めていたのに対し、鹿嶋では歩かせていたのです。農業や漁業の従事者も多く、その人たちは認知症になっても仕事をしていました。

肉を食べることの重要性

 また、70代は栄養をつけるべき年代です。特に肉を食べること。男性ホルモンが分泌されるので行動的になる、という好循環も得られます。一方、動脈硬化も進んでくるので、水分をこまめに補給し、血液を濃くしすぎないことです。

 動脈硬化の予防には、血圧や血糖値、コレステロール値を下げるのがよいとされてきましたが、ひとたび動脈硬化になってしまったら、数値はむしろ高めにコントロールしたほうがいいです。血圧が低いと脳に酸素が届かず、血糖値が低いと脳にブドウ糖が行き渡りません。血圧や血糖値が高いほうが、脳の調子はよくなるのです。

 これらの数値はアメリカで危険視され、日本も追随していますが、アメリカでは心筋梗塞で死ぬ人が、がんで死ぬ人の1.7倍。一方、日本ではがんで死ぬ人が心筋梗塞の10倍。食生活や疾病構造が違うアメリカに倣う必要はありません。

 日本では長く脳卒中が死因の1位でした。それが減ったのは、減塩運動の成果だといいますが、違います。かつて多かった脳内出血が減ったのは、タンパク質を摂取できているから。昔を知る人ほど、脳卒中を過度に恐れて血圧を気にしますが、栄養状態がよければ脳内出血は起きにくいので、安心してください。

かつらやボトックス注射も大切

 ということで、70代のうちは肉を積極的に食べ、栄養をつけ、免疫力を高めてください。コレステロール値も気にしてはいけません。80代、90代で寝たきりになり、食べすぎると胃がもたれて死にそうになるまでは、食べ続けるべきです。

 新型コロナも本来、高齢でも免疫力を上げれば、それほど危険ではなかったはずです。ところが自粛生活で心も体も弱り、免疫力が落ちていると、重症化してしまうのです。そればかりか、言われた通りに自粛してきた人から歩けなくなっています。70代は普通に歩くだけで運動になるので、食べるだけでなく、外出して歩きましょう。

 もうひとつ。高齢になるほど心と体の状態がリンクしやすいので、見た目も若さを保てるなら保てたほうがいいです。かつらやボトックス注射などで若返りをはかるのは、悪いことではありません。

受け入れながら楽しむ80代

 80代になると、ほとんどの人の脳にアルツハイマー型変化が見られ、認知症の有病率は30%以上。要介護率も40〜50%で、がん死亡率は人口10万人あたり1518になります。

 がんばっても維持できないことが目立ってきて、一生懸命歩いていても、歩けなくなる日はくるし、頭を使っていてもボケてきます。

 大事なのは、そうなったときにあがくより、できないことはあきらめ、できることをどう維持するか考えることです。パラリンピックでは障害者が、健常者並みの記録を出したりしますが、あれはできることを思い切り伸ばしているということ。同じ精神をもったほうが得です。認知症でもすばらしい絵を描く人も、足腰が弱って歩けなくなっても頭は明晰な人もいます。

 食事がつらくなってきたら、無理してまで食べないほうがいいです。逆に、塩分を控えるためにおいしくない食事をがまんして食べる必要もありません。がまんはうつや免疫力の低下にもつながります。できることを楽しむことです。

 85歳で約半数、90歳で6割ほどが認知症になります。もの忘れがひどく、昔のように頭が働かなくても、元通りにはできません。しかし落ち込む必要もなく、受け入れながら生きていくことです。軽度認知症ならできることも多いので、現状維持を心がけましょう。

寝たきりでも楽しめることがある

 80代で動脈硬化がない人はいません。「ウィズ動脈硬化」の考え方で向き合いましょう。また、100人に4人はがんで死ぬ年代ですが、最初に記したように、年をとるほど「ウィズ・がん」の姿勢が大切です。たとえば胃がんの手術は、日本では胃の3分の2を切除するというケースがほとんどですが、80代でそれを受けると、食事がとれず、栄養状態がガクンと落ちてしまいます。60代ならともかく、70代、80代では臓器の大きな切除はすべきではありません。

 また、できなくなることが多いなか、子供に迷惑をかけるという発想は捨てましょう。子供も親孝行をしたいのだと考え、助けてもらったほうがいいです。そして、死を意識しすぎないこと。たとえば、エンディングノートを書かないと終活にならないと思っている人もいるようです。しかし、好きで書きたいならともかく、死を必要以上に意識させるようにも思います。

 それよりも、できる範囲でポジティブに楽しみ続けましょう。たとえ寝たきりになっても、楽しめることはあります。そうしていれば、免疫力も上がって、寿命が延びた30年以上の期間を、より充実させることができるのです。

和田秀樹(わだひでき)
精神科医(老年医学)。1960年大阪生まれ。東京大学医学部卒。和田秀樹こころと体のクリニック院長、国際医療福祉大学大学院特任教授。高齢者専門の精神科医として30年以上、高齢者医療の現場に携わっている。『「人生100年」老年格差 超高齢社会の生き抜き方』(詩想社)など著書多数。

「週刊新潮」2022年4月28日号 掲載