東海道新幹線の東京発新大阪行き最終便で、凶行は起きた。「のぞみ265号」12号車で6月9日午後9時半過ぎ、無職の小島一朗(22)が折りたたみ式のナタで乗客3人を殺傷した。

 実は、この前日は17人の死傷者を出した秋葉原通り魔事件からちょうど10年にあたる日だった。小島は通り魔事件の犯人、加藤智大死刑囚に触発されたのだろうか。いずれにせよ、今回の事件は決して対岸の火事とはいえないのである。

 亡くなったのは、兵庫県尼崎市の会社員・梅田耕太郎さん(38)だった。全国紙の社会部記者によれば、

「梅田さんは外資系化学メーカーBASFジャパンに勤務し、尼崎の自宅へ戻る途中で事件に遭遇しました。正義感の強い彼は、小島から切りつけられた2人の女性を助けようとして刺殺されたのです」

 2001年以降、新幹線の車内で起きた殺傷事件はわかっているだけで5件。鮮明に記憶に残っているのは、3年前に起きた事件だろう。71歳の無職男性が車内でガソリンを被って焼身自殺を遂げた際、煙を吸い込んだ52歳の女性整体師が巻き添えを食って死亡している。

 車内で凶行が起きた時、乗客はなす術がないのが現実だ。鉄道評論家の川島令三氏が解説するには、

「あの事件後、JR東海は飛行機と同じように新幹線でも、改札口で金属探知機などによる手荷物検査実施を検討していたのです。ですが、検査には最低30分以上かかると判明し、“従来のダイヤが維持できない”との理由で断念した経緯がありました」

 かつて、JR各社が行っていた車内検札は不正乗車のみならず、不審者の発見にも一定の効果があったという。ある鉄道ジャーナリストがいうには、

「電車で寝ていると、車掌から“切符を拝見”と声をかけられて不快に思った経験を持つ人も少なからずいるでしょう。こうしたクレームがJR各社に寄せられて、数年前から車内検札を廃止している。スマホの登場で“チケットレス”での乗車も可能になり利便性は高まりましたが、安全面では疑問が残ります」

1日368本

 目下、車内の安全は国鉄民営化後に創設された鉄道警察隊、通称“鉄警隊”が担っている。

「当然、新幹線にも鉄警隊の隊員が乗車して不審者に目を光らせています。とはいえ、東海道新幹線は最短3分間隔で運行し、1日368本、繁忙期には433本が走っている。全便に隊員を配置するのは難しいので1時間に2〜3本、ランダムに選んだ新幹線に乗車している。加えて、民間の警備会社にも委託しています」(先の鉄道ジャーナリスト)

 だが、事件のあった「のぞみ265号」には鉄警隊の隊員はおろか、警備会社の警備員も同乗していなかった。JR東海に警備体制を聞くと、

「民間の警備会社にも警備を依頼していますが、防犯上の問題で詳細はお答えできません」

 鉄道業界を担当するアナリストがこう提案する。

「JR東海の18年3月期連結決算を見ると、売上高は前期比3.7%増の1兆8220億円で、純利益は0.7%増の3955億円と、6期連続で過去最高益を更新している。車内警備が難しいのは理解できるが、安全のマイナスを減じて、乗客からの信頼を得られれば結局業績アップに繋がる。やはり、警備員を増員すべきでしょう」

「週刊新潮」2018年6月21日号 掲載