野田市の小4女児虐待死事件では、実態が明らかになるほどに、教育委員会や児童相談所の不手際への怒りの声が増している。それと同時に、「児童相談所の人手不足」などを原因として語る論者も少なくはない。
 しかし、実際のところ、暴力的な男がねじ込んできたときに、児童相談所や教育委員会のスタッフで対応できるのだろうか。人数が増えれば事態は改善されるのだろうか。

「なぜ警察がもっと積極的に介入できないのか」

 そうした疑問を持った方も多いのではないか。
 実は、日本では法的な問題などから、児童相談所と警察との情報共有や連携が進んでいない。そのため、欧米のように警察官が積極的に介入することができないのが現状だ。
 元警察庁キャリアの後藤啓二弁護士は、長年この問題に取り組んでおり、現在はNPO団体「シンクキッズ――子ども虐待・性犯罪をなくす会」の代表理事もつとめている。今回の事件を受けて、メディアではあまり伝えられない現状の問題点を後藤氏は自身のメルマガで訴えている。

 児童相談所の人数を増やしても、解決には近づかない、もっと警察を活用すべきだ、というその主張には強い説得力がある。

 ご本人の許可のもと、その全文を紹介しよう。

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事件の原因を分析せず、児相の実態を知らないからピントのずれた、効果のない議論、対策となる(後藤啓二)

 このたびの千葉県野田市心愛さん虐待死事件、昨年の東京都目黒区結愛ちゃん虐待死事件など起こるたびに、私どもは、児童相談所、市町村、警察等関係機関の全件情報共有と連携しての活動が必要だと訴えています(その前から同様の児相が案件を抱え込んでは虐待死に至らしめた事件が起こるたびに、各自治体に出かけて要望書を提出して記者会見していますが)。

 それは、事件を分析すると、子どもたちの命を救えなかった原因が児童相談所の案件抱え込みであり、警察等他機関との連携不足であることが明らかだからです。結愛ちゃん事件では東京都の児童相談所が面会拒否されたときに警察に電話一本すればよかったのです。警察との連携が進んでいる高知県のように。

 心愛さん事件では千葉県の児童相談所が一時保護を解除するかどうか警察に調査してもらう、あるいは解除して家に戻すとした場合に警察と連携して頻繁に家庭訪問して心愛さんの安全を確認する。連携の進んでいる大阪府のように。これらの事件の再発防止のためには、児童相談所と警察等関係機関の情報共有と連携しての活動が必要なことが明らかなのです。

 ところが、これに対して、すぐ、児童相談所の人員不足だとか、親の親権が強すぎるとか、専門的知識の向上が必要だとか、児童相談所の権限がないからだとか、ピントのずれたというか、真の原因をそらすためではないかという意見がマスコミやら国会で出されています。

 そして、結愛ちゃん事件の後に出された政府の緊急対策では、児童相談所の児童福祉司を2千人増員するということが打ち出され、私どもの求める警察と児童相談所の全件情報共有と連携しての活動は却下されたのです。

 こんなバカなことはないでしょう。東京都の児童相談所が親から面会拒否されたら高知県のように警察に電話一本するということにすれば増員はいりません。千葉県の児童相談所が一時保護の解除の際に警察に調査してもらう、あるいは家に戻した後警察と連携して頻繁に家庭訪問することさえすれば、児童相談所の増員はいりません。

 そもそも、千葉県の児童相談所がなぜこんな危険な家庭に子どもを戻してしまうのか、うその同意書を見せられても親に指導一つせず、なぜ家に戻してしまうのか、東京都の児童相談所が親から面会拒否されるとなぜ子どもの安否も確認せず引き下がってしまうのかというと、親が怖いからです、親に逆らってトラブルになりたくないからです。

 面倒なことはしたくないからです。野田市の教育委員会の職員が記者会見で正直に説明されていたように。児相は通常「親との信頼関係を優先した」などととってつけたような理由でごまかそうとしますが、本音は正直に話された野田市の職員と同じです。親に逆らってトラブルになりたくない、面倒なことはしたくないというのが本音なのです。このような児相の実態を知らないまま、そんな職員を2千人増員しても何も変わらないのです。

 普通の人である児童相談所の職員が親を怖がる、親に逆らいたくないという心理は仕方ありません。私はそれを責めるつもりはありません。警察官でない普通の地方公務員である児相の職員にそんなことをやらせる制度がそもそも無茶なのです。イギリスやアメリカでは、児相に相当する部局の職員と警察官が原則共同調査します。それが当たり前なのです。普通の公務員だけに対応させることは無茶であるという現実を踏まえて対策を講じなければならないのです。

 児童相談所の職員に親に毅然と対応することを求めることは酷で無理であるという現実を踏まえると、児相だけで対応させることは、親に屈し子どもを危険にさらしてしまうことになってしまいます。だからこそ、児相に案件を抱え込ませず、親に毅然と対応できる組織である警察に連絡して、警察とともに対応するしかないのです。

 そのために警察があるのです。ですから、子どもを守ろうとすれば、児相に案件を抱え込ませず、警察を含む関係機関で確実に漏れなく案件を共有し、長期欠席、面会拒否、暴力的な言動等危険な兆候があれば直ちに関係機関で共有し、すぐに動くことができる警察が家庭訪問し、子どもの安否を確認し、けが、あるいは衰弱していれば直ちに保護するという仕組みを作るしかないのです。今回もそのように対応していれば、何度も心愛さんを救えました。最悪、最後の長期欠席の事実が警察に直ちに連絡されていれば警察がすぐ訪問し、衰弱していた心愛さんを救えたのです。

 土日や夜間は対応しない、パトカーもない、暴力的な親と毅然と対応する意欲もなく訓練も受けず、そんなつもりで役所に入ったわけでもない児相の職員だけで子どもを守ることなどできるわけもないのです。

 警察との全件情報共有と連携しての活動を否定し、児相だけで対応するべきだと主張する論者は児相職員に無理を強いているのです。当然ながら児相職員には無理で、その結果多くの子どもたちがいつまでも見殺しにされているのです。児相職員にそんなことを期待し求めても、もちろん児相職員はそれに応じることができませんので、いつまでも子どもを救えない、こんな不合理な制度を放置している国や知事・市長の責任は極めて重いものがあります。

 事件の真の原因を分析し、児童相談所の職員の実態、心理、本音を理解したうえで、それに応じた対策を講じなければなりません。高知県(平成20年)や大分県(平成24年)は自県で起こった虐待死事件を教訓に、児相、市町村、学校、警察等との全件情報共有と連携した取組を実現しています。

 ところが、千葉県や東京都は何度同じ事件を繰り返しても原因に応じた、児相の職員の実態、本音を踏まえた再発防止策を拒否し続けています。そして、それは、厚労省、警察庁も同様です。

 なぜ、結愛ちゃん事件の再発防止策が、関係機関の全件情報共有と連携しての活動ではなく、親に毅然と対応することを期待するのが無理で、酷ですらある児相職員の増員なのか。厚労省、警察庁にはしっかりしてくれよ、今度こそピントのずれた、焼け太りのような、効果のない対策を打ち出すことのないように、と強く望み、働きかけてまいります。しかしそれでも、効果のない対策を厚労省、警察庁が言ってきたときには(そういう気がしますが)、官邸がそれを見抜いていただき、「馬鹿かお前は。親に毅然と対応できない、期待することが酷な職員を何人増やしても一緒だろう。それより関係機関が連携して活動しろ」と指導していただくことを強く期待いたします。

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 シンクキッズでは、4年前から「児童相談所と警察の全件情報共有を求める要望活動」を行なっており、現在も続行中だ。すでに国と東京都にもそれぞれ2度要望書を提出したが、無視され続けているという。背景には「警察権力の濫用」に警戒感を持つ人の存在もあるのかもしれない。

 しかし、そんなことで子どもを守ることはできるはずがない。後藤氏は著書『日本の治安』でそうした人たちをこう厳しく批判している。

「子どもを守るために警察を使わなくてどうするのか。それとも、子どもが虐待死するたびに、警察権力の濫用がなされなくてよかった、そうつぶやくような社会でいいというのだろうか」

 児童相談所の改革よりもすぐに打てる手はあるのではないか。

デイリー新潮編集部

2019年2月12日 掲載