昨年末に武漢市当局が発表した「謎のウイルス性肺炎」は、習近平・国家主席が感染拡大を抑える指令を出したことで、危機感が一気に認識されることとなった。「毒王」が現れた……。中国発の新型コロナウイルスを巡るパニックは、こんなおどろおどろしい言葉が飛び交う事態に発展している。

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 当初より中国政府の対応には、首を傾げざるを得ない点があった。例えば1月24日、増え続ける新型コロナウイルス患者を収容するため、中国政府が新たに千床の病院を武漢に建設することが明らかになったが、その工期はわずか10日。2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)騒動の時も同じように、突貫工事で病院を作ったことに倣(なら)ったそうだが、「泥縄」もいいところで、同国の危機に対する医療体制がいかに杜撰かが分かる。また、

「『習近平指令』が出た1月20日頃、武漢の病院に勤務する人と話したんですが、その人は『感染者は59人(当時)とか言ってるけど、そんなもんじゃない。患者が多すぎて病院に収容できず、肺炎の疑いが濃厚な人でも帰して自宅療養してもらってる。状況はヤバい』と言っていました。感染者なのに自宅療養している人がどこに潜んでいるか分からないんですから、恐ろしいですよね」(武漢に留まった邦人ビジネスマン)

 中国出身の評論家、石平氏もこう指摘する。

「1月25日になって、中国共産党の政治局はようやく新型コロナウイルスの対策チームを設置しましたが、遅きに失しています。すでにウイルスが拡散してしまった今、何をするというのか。しかも、対策チームのトップに習近平は就かず、首相の李克強が務めています。現在の中国では習近平に権力が一極集中し、李が無力であるのは周知の事実です。つまり習近平は責任逃れに走り、李にそれを押し付けようとしている。共産党に本気でウイルスを撲滅しようとする姿勢が感じられません」

 このように、中国当局による「人災」の面もありそうだが、世界的騒動を巻き起こしている新型コロナウイルスとは、そもそもどんな特徴があるのだろうか。

ウイルス変異の可能性

「ウイルスには、毒性は強いが感染力は弱いものと、毒性は弱いながら感染力の強いものがあります。前者はエボラ出血熱やSARS、後者は新型インフルエンザが該当しますが、新型コロナウイルスは後者と言えるでしょう」

 こう解説するのは、同志社大学客員教授で「松本クリニック」院長の松本浩彦氏だ。確かにSARSの致死率9・6%に比べ、今のところ新型コロナウイルスのそれは3%程度と見られている。その上、

「この致死率にしても、中国の医療水準の低さが影響していると見るべきでしょう。実際、日本国内初の感染患者は5日間入院しただけで退院しています。特効薬はないとはいえ、インフルエンザと同じようにきちんと隔離し、治療を施せば重症化する確率は低い」(同)

 かといって、楽観視はできない。

「SARSやMERS(中東呼吸器症候群)に比べて致死率は低いものの、高齢者や基礎疾患を持っている患者にとって命に関わるウイルスであることに変わりはありません」

 と、感染症に詳しい東京農工大学の水谷哲也教授は警鐘を鳴らす。しかも、

「SARSが流行したきっかけになったのは、『スーパー・スプレッダー』と呼ばれる、一度に多人数を感染させる患者の存在でした。あるスーパー・スプレッダーから、また別のスーパー・スプレッダーへと感染することによって、SARSは爆発的に広がっていった。今回の新型コロナウイルスでも、ひとりの患者から14人の医療従事者が感染したという報道があり、すでにスーパー・スプレッダーが現れているのかもしれません」

 中国では、このスーパー・スプレッダーのことを「毒王」と呼ぶ。同じ感染者でも毒王になる人とならない人がいるわけだが、

「誰がスーパー・スプレッダーになるかというと、おそらく免疫力の高い人。その人はウイルスを保有しているにも拘(かかわ)らず、免疫力が高いため症状があまり出ず比較的元気なので、結果的に動き回って多くの人を感染させてしまうのです」(前出の松本院長)

 他にも、新型コロナウイルスに関しては警戒すべき点がある。

「ウイルスにはDNA型とRNA型の2種類があり、今回のウイルスは後者です。RNA型の特徴は、変異を修復する機能を持っていないため、損傷が起こりやすい点にあります。つまり、DNA型より変異する可能性が高いということです。今後、毒性も感染力も上がるケースが考えられ、現時点でSARSより毒性が弱いからといって油断するべきではありません」(水谷教授)

「感染力が強まっている」と認めた中国政府は「泥縄病院」建設に加え、団体旅行の禁止、また武漢から離れた上海などでも移動規制を行い、五月雨式で場当たり的な対応に終始している感がある。このこと自体が、すでに新型コロナウイルスが変異を遂げ、「制御不能」に陥っている証に映らなくもない。拡大し続けるこの脅威に対抗する予防策は果たしてあるのだろうか。

徹底的な水際対策とは

 国際医療福祉大学の和田耕治教授(公衆衛生学)が解説する。

「まだ感染拡大していない今の日本の状況であれば、常にマスクを着用するよりも、人混みに出る際に新しいマスクをするといった方法が有効だと思います。というのも、マスクを着けたり外したりしている間に、マスクにウイルスが付着して汚れ、結局は効果が薄れてしまう。一度外したらその都度新しいマスクに替えるというのは現実的には難しいでしょうから、それならば、普段はしなくても、大勢の人がいる街中に出かける際には常に新しいマスクをすることを心掛けるのがよいのではないでしょうか」

 加えて、前出の松本院長はこう指摘する。

「新型コロナウイルスは、RNA型であると同時にエンベロープという膜に覆われたウイルスです。これはアルコールに弱い。したがって、しっかりと手洗いをした上で、アルコール消毒するのが有効だと思います」

 こうした予防策をとったとしても、所詮は「個人対策」。求められるのは国をあげての徹底的な水際対策なのではないか。

 先の石氏は次のように断じる。

「理論的に言えば、日本での感染を防ぐ最も有効な対策は、春節前から一切の中国人を入国させないことでした。それは差別でも何でもない。日本国家の主権であり、国民を守る行為に他なりません。少なくとも、何らかの入国制限はすべきでしたが、中国への政治的配慮からなのか、日本政府は武漢からやってくる飛行機を特別な検査もせずに離着陸させていた。人口1100万人の都市が封鎖されているのですから誰が見ても異常事態であり、日本も今後、思い切った措置を講ずるべきだと思います」

 最後に、この先の展望を和田教授が分析する。

「すでにこれだけ感染が拡大している以上、春節が過ぎれば終わりで2月か3月には収束、とはいかない。7月に始まる東京五輪の頃まで、ウイルス撲滅、騒動終結は長引くのではないでしょうか」

 五輪を象徴する月桂樹の王冠の輝きを、新型王冠(コロナ)ウイルスの「妖光」がかき消す――。こんな事態だけは是が非でも避けたい。

「週刊新潮」2020年2月6日号 掲載