新型コロナの都内感染者数は連日200人を超え、「緊急事態宣言を」とワイドショーでも喧伝されている。そんな中、東京都が日々の感染者数を操作している疑いが出てきた。感染のホットスポットである新宿区のデータを見ると、科学的にあり得ない感染者数の増減が起こっているのだ。

新宿区のデータが反映されず

 歌舞伎町を抱える新宿がいまホットスポットであることは、大方の共通認識だろう。実際、新宿区の新規感染者数は、7月9日に64人、10日に92人など、かなりの陽性者を出した日がある一方で、8日は2人だけだった。その1週間前も、6月29日は24人だが、30日は2人に激減。7月1日も9人と少なく、2日に17人、3日に42人と一気に増加している。

 ちなみに、64人に増えた7月9日は都全体で200人台に乗せており、9人から17人に増えた日は、都の全体数が緊急事態宣言の解除後、初めて100人を超えた日であった。久々に50を超えた6月24日も、新宿区の感染者数は前日の3人から10人に増えている。

 また、新宿区は区のPCR検査スポットで判明した新規感染者も、別途公表している。それを見ると、都が発表した区全体の新規感染者が2人だった6月30日、検査スポットで判明した陽性者数は42人。9人だった7月1日は25人で、3人だった6月23日も12人。だが検査スポットでの数字は、新宿区全体の陽性者数の一部であり、それが全体数を大きく上回ることなど、本来ありえないはずである。

 これについて大阪大学の核物理研究センター長、中野貴志教授に意見を求めると、

「私も東京のデータを見て、揃いすぎていて変だと思っていました。最初、50人台が続いたときに少し違和感を覚え、その後、100人台が続いて、揃いすぎだという印象を抱きました」

 と言って、こう続けた。

「日ごとの新規感染者数のばらつきも、東京全体より新宿区のほうが大きいのに驚きます。数字が自然にばらつく際は、母数が大きいほうがばらつきも大きくなる。それが自然の確率なのに、まず新宿区のばらつきが大きすぎる。また東京都の値は揃いすぎている。平均が約150人だった4月中旬の東京の感染者数推移を見ても、前日との差が50人を超えて乱高下する日が何度もあったのに、最近の東京都の感染者数はまるで階段のように推移しています。一方、同じ時期、新宿区は感染者が2名という日が2週間のうちに2回もある。真の感染者に占める新宿区民の割合は急激には変化しないので、何らかの介入なくして偶然にこんなことが起きる確率は、10億分の1にすぎません」

 そんなに確率が低いことがなぜ起こるのか。新宿区健康政策課に尋ねると、

「2名だけで済んでいるわけがなく、そんな数字は1月末以来なかったと思います。新宿区としては東京都さんに漏れなく報告していて、それはすごい数字なので、30名、40名という数字が出てくると思っていると、3名、5名だったりで、首を傾げてしまいます。(あとで加算され)どこかですごい数が一気に増えるんだろうな、と思っていますが」

新宿区を調整弁にしている

 報告した数と異なる数字が、都から発表されているというのである。さるデータ解析の専門家が、匿名を条件に解説する。

「東京都は新宿区の新規感染者数を調整弁にしているのでは。火曜と水曜に新宿の数字をストックし、木曜以降に上乗せしていますが、100人台、200人台という数字を続けるためだと見る以外、合理的な理由がない。実際、100人、80人、120人、90人とばらつくより、6日連続100人台のほうがインパクトは大きい。以前は50人、その前は25人以上に揃えたのでしょう。新宿が増えると新宿以外が減り、新宿が減るとほかが増える。目標とする線があり、そこに合わせるために新宿を調整弁に使うからでしょう。日々の集計を素直に発表していれば、何日連続100人台、200人台という煽られ方はされずに済んだはずです」

 7月11日と12日はともに新規感染者数が206人で、うち新宿区が45人と、見事に「ゾロ目」となったが、この確率もさぞかし低いことだろう。ちなみに、本誌(「週刊新潮」)の疑問を東京都にぶつけた直後の13日、4日ぶりに100人台に戻ったのは、なにかの因縁だろうか。

「国の問題」とアピール

 こうした数字の操作は小池百合子都知事にとって、どんな意味があるのか。さる都政関係者に尋ねた。

「100人を超えたのは都知事選投開票の3日前。それ以前も、30人、50人とフェーズが上がるたびに小池知事の露出は増えたわけで、100人超えは選挙活動の総仕上げと読める。再選後の200人超えは国との間の新たな火種、東京問題から読み解けます。菅官房長官が都内の感染急増を“東京問題”と表現すると、小池知事は“国の問題”だと猛反発した。都には内部留保が約9500億円ありましたが、休業協力金などで使い尽くした。そこで感染者数を操作して煽り、国が取り組む問題だ、とアピールしているのでしょう」

 都には数字操作の「前科」がある。5月初旬、厚労省のHPに都内の入院者数1832人と記された。病床使用率は9割を超えるというので、複数のメディアが東京は「病床逼迫」と報じたが、本誌が都の感染症対策課に確認すると、1832人には自宅療養や宿泊療養者のほか、退院した人まで含まれ、現実の病床使用率は4割にすぎなかった。

 中野教授は、

「全体の流行の波を見るためには、症状が出て検査を受けた人と、無症状ながら集団検査によって発覚した人を、分けたデータがあったほうがいい」

 と語る。のちの検証に資するためにも、東京都は正しい数字を内訳まで詳細に公表するべきである。それが感染対策の第一歩なのに、現実には真逆のことをしている。国際政治学者の三浦瑠麗さんは、

「帝国データバンクの調査にもとづく試算では、先の緊急事態宣言の結果、8月までに失業率が約2ポイント上がり、それだけで今年の自殺者が約8千人増えることが見込まれます」

 と話すが、命に直結する数字をたびたび操作する神経は、もはや想像を絶する。東京都福祉保健局は、

「毎朝9時に、それまで24時間分の発生届を取りまとめ、公表しています。新宿区から送られてくる発生届の多くは新宿区新型コロナ検査スポットで検査したもので、ここは土日が休みのため、新宿区の発生届は火曜、水曜が少なくなる傾向があります。意図的に数を操作しているとのご指摘はまったく当たりません」

 と回答したが、土日が休みなのは、どの区も同じはずではないのか。

「戦時中のようだ」

 では、実際には、われわれはどう怖れるべきなのか。国立病院機構仙台医療センターのウイルスセンター長、西村秀一氏が言う。

「現状の新型コロナ対応は、まるで負の宝くじです。高額は滅多に当たらないのに、CMを見て、もしかしたらと思ってみな買います。同様にいま専門家がテレビで“あなたも当たる可能性がある”と言いますが、当たる人はわずか。しかし、宝くじレベルの確率のために、みんなが不安がって無駄な対策をしていては、社会への悪影響は大きくなる。感染者が出ていないところでアクリル板越しに食事するなど、一般社会での過剰な対策は意味がありません」

 そして、ゼロリスクを求める風潮を斬る。

「人間ずっと緊張してはいられず、メリハリある対策が肝心です。たとえば、ウイルスが散らばる屋外に出たら、マスクは要りません。専門家はよく“可能性がある”と言いますが、それなら明日隕石が落ちて死ぬ可能性だってある。私が“これは気にしなくていい”と言うと、“可能性がないと言えるのか”と怒る人がいますが、ないものは証明できません。結果、全国にたくさんある学校のごく一部で感染者が出たからと、教師がフェイスシールドを着けたり、机をアルコール消毒したりしていますが、換気をしていれば十分。休校の必要もなく、子供たちから教育機会を奪うほうがずっと問題です。いまは、おかしいと思っても反対できなかった戦時中のようだと思うことがあります。“そんなに気にすることはない”“感染する可能性は極めて低い”と言うと、人命を軽視しているとか、ウイルスの怖さをわかっていないとか、すぐ攻撃されます。ウイルスとの戦いというより、社会との戦いです」

 そんな戦いが必要なのも、操作された数字や、根拠がない扇動的な試算に、われわれが踊らされているからだろう。過剰な不安と無用な対策による犠牲をこれ以上生まないためにも、冷静な目をもって、根拠が示された正しい数字を求めていくしかあるまい。

「週刊新潮」2020年7月23日号 掲載