全国で約10万人の配達員を抱えるウーバーイーツ。コロナ禍によるフードデリバリーの需要増に伴い、登録配達員の数も飛躍的に伸びた。一部では交通マナーの悪さや危険運転の横行が問題視されていたが、ウーバーイーツが「パートナー」と呼ぶ配達員の仕事はコロナ禍で収入を失った人たちのセーフティネットでもあった。現在51歳の配達員は、元AV男優という異色の経歴の持ち主である。本人に話を聞いた。

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「報酬体系の見直しで、配達員の報酬が3割下落するなんていうニュースが3月頭に報じられました。今のところ福岡県や京都府などのごく一部の地域だそうですが、東京の配達員はみな戦々恐々としていますよ。自分の場合は週あたりの報酬は4万円から6万円といったところで、ここから3割カットされたら頭を抱えちゃいますよ。それでも他に仕事がないのでやるしかないんですけどね」

 こう話すのはウーバーイーツの配達員の仕事で生計を立てているAさん。かつてAV業界で有名男優として活躍し、CS放送のバラエティ番組で人気芸人と共演したこともある。だが、40代後半を過ぎて衰える体力や将来に不安を覚え、数年前に引退を決意。その後、営業販売の職に就き、最後に勤めた会社では正社員に登用されたが、新型コロナウイルス感染拡大のあおりを受けて1年も経たずに解雇となり、無収入となってしまった。

「ウーバーの仕事を本格的に始めたのは今年の1月です。コロナの影響で会社をクビになったのは昨年の8月。以降は失業保険で暮らしていました。通常、給付期間は3カ月(90日間)ですが、コロナで2カ月間延長になったのは有難かったですね。このご時世ではなかなか働き口もありませんから」

 そんなAさんがウーバーイーツの仕事を始めたのは、自転車を趣味にしていたことと、もうひとつ理由があった。

「じつは1年以上前、ウーバーの講習会に足を運んで登録だけは済ませていたんです。でも実際に働いた経験はなく、バッグも押し入れにしまったまま。そこでバッグを引っ張り出して、パートナーとして働き始めたのですが、最初はまったく稼げませんでした。1日10時間以上、週7日みっちりやって4万円に届かなかったこともあります」

 Aさんによると、ウーバー配達員が手にする基本報酬は、受け取り料金と受け渡し料金、そして受け取り先から配達先までの距離に応じた“距離報酬”の3つを足したもの。この基本配達料からサービス料10%が差し引かれ、客からのチップやクエスト達成のボーナスなどが加算される。

「先日、深夜1時過ぎに自宅がある東京都の杉並区から新宿区までフードを運んだのですが、受け取りと受け渡しで390円。距離報酬はおよそ4キロで236円でした。もちろん、深夜の割増などはなく、新宿から杉並までの復路は無報酬です。サービス料を引いたら563円。寒空の下で1時間以上、自転車を走らせてこの金額です」

 Aさんには「元AV男優」という経歴がある。このキャリアが思わぬ副収入をもたらすことがあるという。

「自分の場合、配達先がわかった時点で依頼主の方にメッセージを入れるんです。スムーズに届けられるよう、建物の特徴や部屋番号を念のため教えてくださいという内容ですが、そこに『以前は〇〇〇〇の名前で男優をしておりました』と、男優時代の芸名を入れるんです。すると、ごく一部ですが、私のことを覚えてくれている人たちもいて、チップをはずんでくれるんですよ。『よく見てました。頑張ってください』と励まされたこともあります。いつもは100円とか200円ですが、400円以上のチップをもらったこともあります」

杉並から川崎まで配達、肉体に変化が…!

 配達員になってコツをつかむと、1カ月ほどで週給は6万円台に。はじめた当初はロードバイクを使用していたが、「渋谷や高輪など都心の坂道が多いエリアに行くと体力を消耗して仕事にならない」という理由から、現在は電動アシスト自転車を利用している。

「配達員はとにかく数をこなすことが要求されます。プロモーションのクエストで乗車回数をこなせば、追加収入が得られますからね。そのためにはいかに休みなく依頼を受けるかが重要で、配達とほぼ同時にくる次の依頼をこなせば、その日の収入もあがります。これを“数珠る”と言いますが、配達先は選べません。だから杉並区から配達をはじめて、気づけば神奈川県の川崎まで行ったこともあります。その時はさすがにヘトヘトで、駅前の駐輪場に自転車を停めて電車で帰りましたよ(笑)」

 注文の連続、界隈で“数珠”と呼ばれる状態になり、遠征になることもしばしば。1日の走行距離は100キロに達することもあるというが、そんなAさんは肉体的変化を敏感に感じ取っていた。

「AVの世界から足を洗う頃、EDに悩まされていたんです。引退してからは性欲もなくなっていたのですが、配達員の仕事を始めてからというもの、かなり元気を取り戻しましたね。ある日、配達でたまたま風俗街の近くを通りかかって、そのまま大衆店に飛び込んでしまいました。その日の報酬はほぼパーになりましたが、自分にもこんなに性欲があったなんて驚きましたよ」

 採用試験もなく、好きな時に好きなだけ働ける。そんな触れ込みもあって一気に広まったウーバーイーツの配達パートナーの仕事。ウーバーイーツジャパンは昨年10月から配達パートナーへの傷害補償制度を拡充し、配達中の事故で入院した際、1事故につき2万円を給付している(※ヘルメット不着用の場合は給付額5000円)。これらに加えて50万円を上限とする医療見舞金や働けなくなった日数に応じた見舞金(1日7500円)も支払われる。手厚い補償体制で、安心して配達に臨めそうだが、Aさんはこんな不安を口にする。

「いまだに街を走っていて嫌がらせを受けるのはしょっちゅう。片側3車線のガラガラの道路で、いちばん左の車線の歩道側を走っているのに、いきなり幅寄せされたり……。命の危険を感じたのは一度や二度じゃありません。自転車が好きでなかったらとっくにやめているでしょうね。それほど稼げなくても、いろんな景色が見られますから。秋葉原の店舗前などで注文を待つ“地蔵”をした人にはわかると思いますが、そこで依頼を受けると、新小岩とか錦糸町に配達することもよくあります。隅田川を両国橋で渡ることになるのですが、ウーバーの仕事でもしていない限り、そんな道は通りませんからね。今日はどんな景色が見られるんだろう……。そんな思いで毎朝8時からアプリを起動させています」

 実際、体力増進や趣味の範囲で配達の仕事を請け負う人は多いという。ウーバーイーツの配達パートナーにチャレンジする際は、Aさんの話を参考にしていただきたい。

デイリー新潮取材班

2021年4月18日 掲載