八百万の神が坐(いま)すとされるニッポンで、各地の神社を束ねているのが宗教法人「神社本庁」(東京・渋谷区)である。1946年に創立、神道を代表する国内唯一の団体として存在感を発揮していたが、今や内部崩壊寸前……。つい先日も、組織の黄昏を象徴する注目の裁判に、判決が下ったという。

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 3年半に及んだ裁判の判決が出たのは、3月18日のこと。東京地裁で起こされた民事訴訟で、神社本庁が全面敗訴となったのだ。

 そもそもの発端は、2015年11月、神社本庁が神奈川県内に所有する職員宿舎を、民間企業に1億8400万円で売却したことだった。7億円は下らないとされる高額物件を、格安で入手した業者はすぐさま転売し億単位の利益を得た。

 さらに、である。実は件(くだん)の業者が神社本庁と本部を共にする関連団体・神道政治連盟(打田文博会長)と親密であるのも相俟(あいま)って、“土地ころがし”ではとの疑惑が浮上したのだ。

 これを看過できないと神社本庁の職員有志が立ち上がり、トップを務める田中恆清総長や、打田会長らの“背任行為”だとする文書を配布したところ、懲戒解雇等の処分を受けてしまった。

 司法担当記者によれば、

「処分無効を求めて職員らは訴訟を起こし、昨年夏には裁判所が和解勧告を出しました。ところが、神社本庁はそれに応じず、突っぱねたわけです」

 そのような経緯から、判決では「元職員らが背任を疑う相当の理由があった」「告発したことが解雇に相当するとは言えない」として、神社本庁がお灸を据えられた格好となったのだ。

「ブラックボックス」

 この裁判の他にも、幹部の不倫疑惑などトラブルが絶えない組織を見限る動きが相次いでいる。ここ10年の間に「こんぴらさん」の愛称で親しまれる香川県の金刀比羅宮(ことひらぐう)や、江戸三大祭りのひとつ「水かけ祭」で知られる東京都の富岡八幡宮など、有名神社が離脱していた。全国に十数万ある神社のうち、今や加盟しているのは7万8千前後。すでに愛想を尽かした神社の大半が去り、今後は大量離脱など起きないと皮肉られてしまう始末なのだ。

「現体制をおかしいと思っている人はたくさんいます。コロナで間引きされたとはいえ、傍聴席はいっぱいで入りきれないほどでしたし、判決後は、多くの神社関係の方々から激励の電話やメールをいただきました」

 と話すのは、原告として勝訴した元神社本庁総合研究部部長の稲貴夫氏(61)。

「元々、神社本庁というのは神社の運営など全国神社共通の課題について指針を示したり、神職の教育を行うのが役割でした。ところが、平成10年前後から打田会長が裏で実権を握り、神社本庁執行部を動かすようになっていった。そして本来の理念と離れて政治的活動が一人歩きし、組織運営も私物化、ブラックボックス化したのです。現状を変える力を持つのは17名いる理事ですが、過半数が現総長派。来年は役員の改選が行われ、体制維持のために田中総長が異例の5期目を務める可能性もあります。神社本庁が控訴してきたら、今後も裁判を闘うことで、組織を変えるきっかけにしたい」

 他方で、神社本庁の自浄作用に疑問を呈するのは、業界専門誌「宗教問題」編集長の小川寛大氏だ。

「どんなに勝つ見込みがなくても、彼らは必ず最高裁まで争うと思います。宗教法人が絡む裁判ではありがちですが、判決確定まで10年近くかかった例もありますからね。延々と裁判を引き延ばせば、敗訴しても当時のトップは勇退しており責任を希薄化できる。仮に賠償金を払うことになっても、幹部たちのポケットマネーから出すわけではなく、全国から集められた上納金が充てられるでしょう。もとを辿れば我々の賽銭になってしまうわけですが」

“神の道”を見失ってしまったのならば、賽銭泥棒との誹(そし)りも免れまい。

「週刊新潮」2021年4月8日号 掲載