茨城県境町の一家4人殺傷事件で、殺人容疑で茨城県警に逮捕された岡庭由征(おかにわよしゆき)(26)。岡庭容疑者は16歳のときに“通り魔”事件を起こしているが、このときの供述調書には、歪んだ「性的サディズム」と異常行動を放置し続けた両親の無責任が記されている。

 ***

――A子さんを刺した包丁は持ちかえりましたか?

「それはそうです」

――しまう前にその包丁に何かしたりしましたか?

「血ついてるから見ていた」

――どこで見たんですか?

「自分の部屋で」

――見る以外のこともしましたか?

「舐めたりというか」

――包丁についている血を舐めたということ?

「少しは」

――どうやって舐めたんですか?

「舌で」

――手にとって舐めたのか、包丁の刃を舐めたのか?

「刃です」

――血を見たり、血のついた刃を舐めたりしてどんな気持ちになりましたか?

「興奮したというか、何か刺した時を思い出したみたいな」

――興奮というのは性的な興奮をしたということ?

「そうです」

――性的に興奮して、自慰行為、そういうことをしましたか?

「そうです」

 ***

 これは、岡庭容疑者の供述調書、すなわち、法廷での彼の陳述を記録したものである。岡庭容疑者が16歳の時に面識のない女子中学生と女子小学生を刺す事件を起こしていたが、その公判で彼はかくも異様な証言をしていたのだ。

 岡庭容疑者が凶行に及んだのは2011年11月18日午後5時40分頃。埼玉県三郷市で下校途中の中学3年の女子生徒(当時14歳)に自転車で背後から近づき、いきなり顎のあたりを包丁で刺した。さらにその約2週間後の12月1日、今度は千葉県松戸市で小学2年の女児(当時8歳)の脇腹を繰小刀で刺した。そして、12月5日に殺人未遂などの容疑で逮捕され、「歩いていた人を殺そうと思っていた」と供述した岡庭容疑者。殺そうと思っていた理由は、冒頭の陳述からも分かる通り、性的快感を得るためだったわけだ。

 無論、逮捕時16歳だったことから少年法に護られ、実名や顔写真はどこにも報じられず。それ故、当時は岡庭由征ではなく、岡庭吾義土(あぎと)という名だったことは、周知されるに至らなかった。この連続通り魔事件で起訴された岡庭容疑者は、刑事裁判を経た上で医療少年院に送致され、社会に戻った。そのどこかの段階で吾義土という名を捨て、由征になったのであろう。しかし、名が変わっても中身は何も変わっていなかった。社会に戻ってそれほど時をおかずに茨城県で無辜の夫婦の命を奪った疑いで逮捕されたことが、そのことを証明している。そして、医療少年院で施されたであろう「矯正教育」や「治療」が失敗に終わったことも――。

祖母に溺愛され…

 安易に社会に放ってはいけなかった怪物は、いかにして形作られたのか。それが分かる資料が手元にある。

 すでに触れた通り、岡庭容疑者は刑事裁判においては刑罰を下されるのではなく、「保護処分」との結果となった。実はその後、通り魔事件の被害者の女子中学生と両親が、岡庭容疑者と両親に対して約2700万円の損害賠償を求める民事裁判を起こしていたのだ。提訴は14年で、翌15年には岡庭容疑者と両親に約1900万円の支払いを命じる判決が下されたのだが、手元にあるのはその裁判資料の閲覧記録。訴状や判決文だけではなく、民事裁判に証拠として提出された刑事裁判の際の資料も含まれており、冒頭の供述調書はその一つである。それらをひもといていくと岡庭容疑者の残虐性が浮き彫りになるが、驚かされるのは“ある人物”との類似性。1997年に起こった神戸連続児童殺傷事件の酒鬼薔薇聖斗こと元少年Aと似通った点が多く見られるのだ。

 酒鬼薔薇は相手に苦痛を与えることによって性的に興奮する性的サディズムを抱えていたが、冒頭の陳述からも分かる通り、岡庭容疑者が同様の性的嗜好を持っていたのは明らかである。また、近所の野良猫を捕まえては殺し、中学に上がる頃には「人間を壊してみたい」との思いに囚われるようになったとされる酒鬼薔薇。

 一方の岡庭容疑者は、

〈幼少期から昆虫を殺すなどしていたが、標的となる生物が昆虫からカエルや鳥へとエスカレートしていった。(中略)小学生のときから、猫に対し、石を投げる、空気銃で撃つなどの加害行為に及んでいたが、平成21年頃から、猫を殺そうと思うようになり、金槌で殴るなどして約5匹の猫を殺した〉(民事裁判の判決文より)

〈平成22年10月上旬頃、小型動物捕獲用ケージを用いて猫を捕獲し、ケージの外から、その喉付近を杭等で複数回突き刺した上、衰弱した猫をケージに入れたまま生き埋めにして殺害した〉(同)

 三郷市で女子中学生を刺す約2週間前には、通っていた私立高校に猫の首とナイフを持っていき、それが理由で最終的には高校を自主退学せざるを得なくなった岡庭容疑者。家族の前でもその異常性の片鱗を何度も見せていたが、両親が深刻に捉えることはなかった。それどころか父親は、岡庭容疑者から求められるまま彼がネットでナイフを購入する際に名義を貸していた。その無責任ぶりには絶句せざるを得ないのだ。

 そんな両親の目に岡庭容疑者はどう映っていたのか。民事裁判に提出された二人の供述調書から見ていこう。

 それによると、岡庭容疑者の両親は93年に見合い結婚。翌年に岡庭容疑者が生まれ、その3年後に次男をもうけた。

〈「吾義土」という名前は、妻の兄が命名した名前になります。妻の兄からは、アニメのキャラクターにあやかり、また、画数も41画ととても縁起のいい数字だったので、この名前にしたと聞かされています〉(父親の供述調書より)

〈吾義土は、私の両親にとって初孫ということで、祖父母からとてもかわいがられており、祖父母によくわがままを聞き入れてもらっていました〉(同)

 母親の供述調書にはこうある。

〈とりわけ義母は、吾義土のことをとにかく可愛がっており、吾義土のわがままをなんでも聞き入れ、吾義土を甘やかしていました。私は、母親として、やはり子供を甘やかされていい気分はしませんでしたが、嫁という立場上、義母に強く言うことはできませんでした。主人も、吾義土のことを義理の両親に任せていたようで、特に何も言ってくれませんでした。そのせいか、吾義土は、母親の私が言うのもなんですが、とてもわがままに育ってしまったと思います〉

 酒鬼薔薇が「おばあちゃん子」だったことは知られている。小学5年の時に祖母と死別したことが彼の人格形成に大きな影響を与えたとの見方もあった。岡庭容疑者もまた、祖母に溺愛されて育ったわけである。

 岡庭容疑者の自宅敷地内には母屋と離れがあり、岡庭一家は離れで、祖父母は母屋で暮らしていた。岡庭容疑者は、

〈学校にいる時間以外のほとんどを母屋で過ごすほど〉(判決文より)

 祖父母ベッタリの日々を送っていたが、そんな生活が変化するのは中学1年の頃。両親と祖父母の間でいさかいが生じた際、

〈祖母から「来るな。」などと言われ、目の前で母屋の玄関の鍵を閉められたことから、ショックを受けた〉(同)

 それ以降はほとんど毎日、家族4人揃って夕食をとるようになったという。

異常行動を見過ごす両親

〈中学3年生の頃、吾義土に将来何をやりたいのか聞いたことがあったのですが、その時吾義土は、「ネオニートになりたい」などと言っていました。吾義土の言うネオニートというのは、どうやら自宅でパソコンを使って株取引で儲ける人たちを意味していた〉(母親の供述調書)

 高校に入ってからは、何かの拍子に「俺は神だ」と言い出したこともあった。

 そんな岡庭容疑者が父親から与えられたデスクトップ型のパソコンでインターネットを閲覧するようになったのは小学5年の時である。アダルトサイトや暴力系サイトの閲覧制限やパスワードの設定などの措置は一切講じられていなかった。

〈吾義土は、人が殺されるようなスプラッター系のホラー映画を自宅の居間のテレビや自室のパソコンで見ていた〉(判決文より)

 しかし、両親がそれを注意することはなく、

〈中学3年生の頃からインターネットで女性の死体や女性が残虐な行為をされている動画や映画を見て性的な興奮を感じるようになり、高校生になる頃には、自分で実際に女性に対して残虐な行為をしたいと思うようになった。(中略)高校1年生の頃から、凶器類を携帯して殺す女性を物色するようになっていた〉(同)

 前述した通り、それらの凶器を購入する手助けをしていたのは父親である。

〈中学3年生の終わりか、高校1年生の初め頃、インターネットのオンラインショップでナイフを売っているところを見つけ、それにとても興味を示すようになりました。(中略)私が吾義土に「なんで欲しいの」などと尋ねると、吾義土は、「かっこいいからコレクションしたい」などと言っていました。私は、自分に収集癖がなく、コレクターの気持ちはわかりませんでしたが、世間では刃物のコレクターもいるというし、好きな人は好きなんだろうなくらいにしか考えませんでした〉(父親の供述調書)

 どうやら常識というものを持ち合わせていない様子の父親は、「外に持ち出さない」などといったことを約束させた上で、ナイフ購入を許してしまう。そして岡庭容疑者は、最終的には父親の助けを得ずに購入したものも含めると、71本もの刃物を所有するに至るのだ。

〈私は、吾義土が前に集めていたカードがみるみる増えていったのを覚えていたので、趣味でやる以上、いろんな刃物が欲しくなっていくのは自然な流れだし、家の中で保管する分には、それはそれで仕方がないと思ってあきらめてしまいました。このように私も主人も、吾義土の刃物のコレクションについては、家の中だけのことと考えており、あまり深刻に受け止めていませんでした〉(母親の供述調書)

 母親も相当に「抜けた」人物であることは間違いなかろう。先に触れた通り、岡庭容疑者は連続通り魔事件を起こす前、高校に猫の首を持っていくという異常行動を起こしていた。岡庭容疑者の両親がそれすらも見過ごしてしまったのは、必然だったのかもしれない。

 母親はこう述べている。

〈生活指導の先生がはじめに吾義土に猫の首が本物かどうか問いただしたのですが、何度聞いても、吾義土は、おもちゃの首だと言い張っていました。(中略)担任の先生から、吾義土の身体検査をしていいかどうか聞かれ、私は、まさか吾義土が刃物を持ち歩いているとは思っていなかったので、その場で身体検査を了承しました。ですが、実際に吾義土の身体検査をしてみると、吾義土のズボンの後ろポケットから2本のナイフが見つかりました〉

〈吾義土はナイフが見つかって観念したのか、学校に持ち込んだ猫の首が本物であることを認め、自分の庭で斧を使って猫の首を切り落としたと話しました。私は、猫の首を切り落とすなんて気持ち悪いと思い、とてもショックを受けました〉(同)

 しかし、母親も父親も猫の首を切り落とした理由すら本人に聞かないまま、問題を放置。そして岡庭容疑者はついに、猫ではなく少女に刃物を向けたのだった。

無責任な裁判官

 刑事裁判にかけられた、当時18歳の岡庭容疑者に判決が下されたのは2013年3月。

 現状のままでは再犯の可能性は高いと言わざるを得ない、としながらも、「保護処分に付するのが相当」としたその判決では、両親が適切な養育を行ってこなかったことにも触れた上で、次のように結論付けている。

〈そのような経緯により、被告人は、残虐な行動によって性的欲求の充足を含む快楽を得ようとする歪んだ思考や価値観が形成、深化され、本件一連の犯行に及んだのであって、生まれつきの広汎性発達障害や生育環境が動機に直結している。そうすると、そのような事情は被告人の責めに帰することのできないものであるから、被告人が犯行時16歳であったことも併せ考えれば、動機の悪質性を被告人に不利に考慮するのは相当でない〉

 医療少年院送致を決めた家裁の決定要旨では、5年間程度の処遇を勧告し、

〈(23歳で)なお精神に著しい故障がある場合には、26歳を超えない期間において医療少年院での収容を継続することが検討されるべきである〉

 とした。

 ちなみに、茨城県で夫婦を殺害したとされる時点での岡庭容疑者の年齢は24歳である。

 犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務局長で弁護士の高橋正人氏が言う。

「普通に社会生活を送り、まっとうに生きている発達障害の人もたくさんおられます。犯行の動機や処分の内容を、発達障害であることを主な理由にして判断することはあまりに拙速過ぎます。この判決を下した裁判官は無責任ではないでしょうか。裁判官の身分は憲法で保障されていて、どんな判決を下しても給料は減額されないのですから、しっかりと常識を踏まえた判決を下して欲しいです」

 自身の長男も16歳の少年に殺(あや)められた「少年犯罪被害当事者の会」の武るり子代表は、

「現在、少年法の改正について議論されてはいますが、加害者が少年の場合、なるべく保護処分に持ち込もうとする傾向は依然として強いです。少年には将来があるから、という理由で、どんな少年もいっしょくたにされている現実がある。しかし、論点となるべきは“何をやったか”であって年齢ではありません」

 として、こう語る。

「家裁で保護処分を言い渡されるのと、刑事裁判を受けて刑事罰を加えられるのでは、本人の心に与える衝撃という意味でも、大きな違いがあります。広汎性発達障害だったとしても、刑事罰を受ければ自分がやったことの重大さを認識できるはずです」

 岡庭容疑者が送られた医療少年院の対応についても、

「そこでいったいどんな矯正教育を施したのだろうか、と問いかけたいです」

 と、武代表。

「現状の医療少年院での教育は不十分です。少年院には、加害少年を刺激しないために、事件に触れさせることをできるだけ避けてきた歴史があり、今でこそ多少の贖罪教育はあれ、そういった風潮は未だに残っている。医療少年院に限らず、日本の矯正施設全般で十分な矯正教育が行われているとは言えない。新しい被害者を生まないためにも少年法の改正だけでなく、矯正教育の見直しも必要です」

 残念ながら第二の酒鬼薔薇は野に放たれ、2人が殺された。現状のままでは、第三、第四の酒鬼薔薇によって悪夢が繰り返されよう。

「週刊新潮」2021年5月20日号 掲載