皇位継承策を巡る白熱した議論の末、ついに「有識者会議」のヒアリングが終了した。だが、女性・女系天皇は封印され、女性宮家創設についても手詰まり感が禁じえない。その背景には、皇統を揺るがせた古(いにしえ)の怪僧・道鏡(どうきょう)に擬せられる、小室圭さんの存在があった。

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 日本が世界に誇る皇室の将来を占う会議でも、眞子さまの“婚約内定者”は暗い影を落としている。

 さる6月7日、政府の「有識者会議」は計21人の識者に対するヒアリングを終えた。上皇さまの生前退位を実現させた皇室典範特例法が成立したのは2017年6月のこと。今回の有識者会議は、特例法の附帯決議にある通り〈安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について〉速やかに検討を行うために設置された。政府は今回のヒアリング内容を精査し、次期衆院選後に国会へ報告する見通しだ。

 中世日本史が専門で、『天皇はなぜ生き残ったか』などの著書がある東京大学史料編纂所の本郷和人教授は次のように語る。

「皇位継承について考える際には、タテとヨコのどちらに重きを置くかで答えは大きく変わってきます。歴史的事実に基づくタテの視点に立てば、天皇は成人男子が望ましいと考えられてきたのは間違いありません。一方、ヨコの視点、つまりは同時代的な潮流からすると、男女平等という考え方のもとで女性・女系天皇や女系継承もあって然るべきではないかとなるわけです。これは歴史家が是非を論ずるべきものではなく、それぞれの時代に生きる国民がどう考えるかという類の問題だと思います」

 7日に行われた5回目のヒアリングには、「若い世代や一般の感覚の声を聞きたい」との意向から、芥川賞作家の綿矢りささん、気象予報士の半井小絵(なからいさえ)さん、漫画家の里中満智子さんといった皇室や歴史の専門家以外の顔ぶれが集まった。まさに“ヨコ”の意見を尊重した人選と言えるだろう。

 全国紙デスクによれば、

「意外だったのは、女性・女系天皇の是非や女性宮家の創設という論点について、3名の女性メンバーの意見が予想以上に消極的だったことです」

 主だった見解を並べるだけでもそうした傾向は窺える。綿矢さんは〈女性天皇の誕生を歓迎する風潮もあるかと思う〉としつつ、女系天皇に関しては〈伝統を重んじる観点から、慎重に取り扱う必要があると考えられる〉。また、半井さんは〈(皇位継承資格の)女系への拡大は日本を混乱させる原因となり許容できない〉〈皇位継承資格を持つ内親王・女王が結婚された場合は、従来通り皇籍を離脱すべきである〉と断じている。

「私は過去に開かれたすべての有識者会議でヒアリングに参加していますが、小泉政権下や野田政権下と違い、今回は“アウェー感”を全く覚えませんでした」

 そう振り返るのは、麗澤大学教授の八木秀次氏だ。

「私が訴えてきた男系男子による継承を頭ごなしに否定する方はおらず、旧宮家の皇籍復帰についても議論の俎上に載せられていました。それどころか、専門外のメンバーからも男系継承に肯定的な声が上がっていた。世論は確実に変化していると感じました。やはり、小室圭さんの存在が世論に与えた衝撃は計り知れないものがあったのでしょう」

“コムロ前”と“コムロ後”で、国民世論は劇的に変化していたのである。

「眞子さまと小室さんのご結婚を巡るトラブルが顕在化したことで、期せずして女系継承の問題点が浮き彫りになりました。一般の方々も小室さんのような方が皇室に関わることは望ましくないと感じているはずです。この問題が長期化すれば皇室への敬愛が大いに損なわれかねない、と。小室さんの登場で国民が女系継承に具体的なイメージを抱けるようになり、それが皇位継承に関する議論にも少なからず影響を与えているのだと思います」(同)

 八木氏には、ある歴史上の人物と小室さんが重なって見えるという。その人物とは、皇統を揺るがす大事件を起こした怪僧だった。

即位を目論んだ怪憎

 実は、先のヒアリングで、里中満智子さんは次のような見解を示した。

〈女性皇族が結婚なさってその夫も皇族となれば、権威を得る手段として女性皇族を利用する男性が出現しないとは限らない――という、いささか古めいた心配だが、長い歴史の中ではそのような不安は現実となりそうな事例もあった〉

 この見解は女性宮家創設に関する懸念を指摘したに過ぎない。だが、歴史をひもとけば、こうした“事例”は確かに存在するのだ。

「その最たる例として想起されるのが“道鏡事件”です」(八木氏)

 事の発端は奈良時代にまで遡る。事件の渦中にいたのは、聖武天皇の娘・孝謙天皇(重祚(ちょうそ)して称徳天皇)と、その寵愛を受けた僧の弓削(ゆげの)道鏡である。

 聖武天皇といえば、その治世で災害や天然痘などの疫病が頻発し、東大寺の大仏を建立する詔(みことのり)を出したことで知られる。聖武天皇が光明皇后との間に儲けた皇男子は夭逝し、その結果、娘の孝謙天皇が即位することになる。

 皇室の歴史を振り返ると、女性天皇は10代8方を数えるが、ほとんどは男系の男性天皇に皇位継承されるまでの中継ぎ的な役割を果たした。実際、女性の皇太子も、皇太子を経て即位した女性天皇も、孝謙天皇をおいて他に例がない。

 そんな孝謙天皇が病に臥した折、禅師として看病に当たったのが道鏡だった。

 先の本郷氏が解説する。

「孝謙天皇は道鏡を重用するようになり、太政(だじょう)大臣禅師、さらに法王へと引き上げました。加えて、全国の八幡宮の総本社である宇佐八幡宮から“道鏡を天皇にすれば天下は泰平になる”との神託がもたらされ、道鏡が皇位に就きそうになった。ただ、和気清麻呂(わけのきよまろ)が勅使となって宇佐八幡宮に派遣され、〈わが国は開闢(かいびゃく)このかた、君臣のこと定まれり。臣をもて君とする、いまだこれあらず〉という神託を持ち帰り、先の神託を否定したことで道鏡の即位は阻止されたのです。あくまで私見ですが、“道鏡事件”は皇位継承に当たって大きなトラウマになったのではないでしょうか。女性天皇が即位して同様の事態に陥ることを当時の人々が危惧した可能性は否定できません。事実、道鏡事件以降は、江戸時代に明正天皇が即位するまで、実に約850年間にわたって女性天皇は現れませんでした」

 閨房で道鏡を溺愛し、他の臣下の言葉に耳を貸さなくなってしまったという孝謙天皇。思惑をもって女性天皇に近づいた道鏡の野望を打ち砕き、皇統を護った忠臣である和気清麻呂は功績を讃えられ、その銅像は、皇居平川門近くの大手壕端に建立されている。

 令和の皇室に前代未聞の混乱をもたらす小室さんの姿は、畏(おそ)れ多くも即位を目論んだ奈良時代の怪僧を呼び起こした。両者を重ね合わせる声が上がったとしても無理はあるまい。

 仮に、眞子さまが女性宮家の当主となられ、小室さんと結婚されれば「圭殿下」が誕生することになる。場合によっては、おふたりの間に生まれたお子さまが皇位継承権を有し、小室さんが天皇の父親になる可能性も否定できない。だが、奇しくも小室さんに起因するトラブルによって、女性・女系天皇ばかりか、女性宮家創設の機運も潰(つい)えつつある。

国論を二分しかねない

 先のデスクが続ける。

「有識者会議のヒアリングに参加したメンバーからも、“小室さんの問題が片付かない限り、皇室制度について冷静な議論は望めない。小室さんの存在が頭を過る状況では国民的な理解を得ることも難しい”という声が聞こえてきます。すでに有識者会議は、現在の男系男子に限定した皇位継承順位を維持することを確認し、女性・女系への継承資格拡大は見送る方針を固めている。また、菅総理は皇室の在り方への思い入れが乏しく、官邸内には“悠仁さままでは決まっているのだから、先々のことは次世代の人が考えればいい”というムードが広がっています」

 一方、今後も議論が続く女性宮家創設案は、上皇さまの強いご意思で進められてきた。昭和天皇の皇統に連なる愛子さま、眞子さま、佳子さまというお三方の内親王までに限定する方向で、皇室内のコンセンサスも得られていたという。しかし、宮内庁関係者によると、

「ここに来て他ならぬ上皇さまに変化が窺えるようになりました。というのも、女性宮家とセットで旧宮家の男性の皇籍復帰が論じられることが増え、そうしたお考えを持ち合わせておられない上皇さまは議論の趨勢を懸念されているのです。他方、美智子さまは、初孫である眞子さまには皇室に残ってご公務に邁進してほしいと願っておられました。しかし、小室さんの一件で世論が沸騰。眞子さまが“第一号”になるはずだった女性宮家創設についても、このまま議論を進めれば国論を二分する事態になりかねないと、上皇ご夫妻は憂慮されるようになったのです」

 つい先日、現在の上皇さまのお気持ちを象徴するような出来事があった。美智子さまと共に新型コロナウイルスのワクチン接種を受けられたものの、当初は接種日の公表に消極的でいらしたという。

「インフルエンザのワクチン接種は公表しているのに何故なのか、と記者会と西村泰彦長官との間で押し引きがありました。まだワクチン接種を受けていない国民がいるなかで、皇族が優先されるイメージが広まるのを懸念されたのでしょう。また、一部には強硬な反ワクチン論者もいます。上皇さまはこれ以上、賛否が割れるような争点を作りたくないとお考えになり、あえて接種日を伏せられたようなのです」(同)

 上皇・上皇后ご夫妻がワクチンを接種されたからといって、それを咎める声が巻き起こるとは考えづらい。

 問題は、上皇さまが皇室に厳しい世論の動向について、これほどまでに過敏になられ、心を砕かれている点にある。背景に“小室さん問題”があるのは言うまでもあるまい。古の怪僧に擬せられる「海の王子」。令和の皇室を舞台にした“第二の道鏡事件”はいまだ収束を見せない。

「週刊新潮」2021年7月1日号 掲載