もう少し積み上げたかったのが本音

 菅首相のここ最近の口グセは「なんでうまくいかないんだ」なのだという。ワクチン接種が行き届き、東京五輪で金メダルラッシュなら内閣支持率も上向くと見ていたようだが、ワクチン接種は想定通りに進まず支持率は右肩下がりで、新規感染者数は右肩上がりを続けている。

 菅首相は4月末の段階で、希望する65歳以上の高齢者への新型コロナウイルスワクチン接種について、2回の接種を7月末までに終えると表明していた。2回接種完了は65歳以上の75.8%となっていて、官邸は“公約を果たした”と胸を張っているわけだが、

「ワクチン忌避派もいますから100%はムリにしても、もう少し積み上げたかったのが本音ではないでしょうか」

 と、政治部デスク。緊急事態宣言の地域を拡大した7月30日の会見では、記者とこんなやりとりがあった。

記者:あまりにも甘い見通しの上でデルタ株をみくびっていたことが今回の感染爆発の背景にあるのではないか。甘い根拠なき楽観主義のもとで五輪を開催していることが感染を引き起こしているのでは。医療崩壊して救うべき命が救えなくなったときには首相の職を辞する覚悟はあるのか。

首相:私はこの問題に対して、例えば、インドであのような状況になったとき、水際、インドをはじめですね、関係国から日本に入国する方については、水際対策というものも通常の6日とかそういうとこから延長して、しっかりと入国した人についてはチェックする体制というのは水際対策っていうのはきちっとやっています。そして、今このオリンピックというのは、まさに海外の選手の人たちが入ってくる方たちと完全にレーンを分けてますから、そこは一緒にならないようにしております。そうしたことでしっかりと対応させていただいているというふうに思ってます。

「私はできると思っています」に不信感

 さらに記者は畳み掛けて、

記者:辞職の覚悟は?

首相:私がこの感染対策を自分の責任のもとにしっかりと対応することが私の責任で私はできると思っています。

 再び、政治部デスクに聞くと、

「辞職の覚悟を聞くあたり、記者も少し前のめり感がありますが、自分に確信がある人が果たして、“私はできると思っています”と言うのかなぁ? というのが国民の多くが感じたところじゃないでしょうか。最初の質問に対しても、その意図を理解していないのかはぐらかしなのか、水際対策のことだけ話し、根拠を示すことなくできているとしか言わないので、これだと何も答えない方が良かったくらいです」

 菅首相の発信力には側にいる専門家からも疑問符がつき、7月30日、政府新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は実際に情報発信の強化を求めた。

「ただ、尾身さん自身、1月以降、“医療機関がほぼ埋まり尽くしている”、“医療逼迫は継続”、“医療逼迫が深刻化している”、“もう既に医療逼迫は起き始めている”……と言い続けてきて、狼少年化しているのは事実。もどかしい気持ちを菅さんにぶつけたのかもしれません」(同)

 他方、アメリカでも疾病対策センターは「戦況が変わった」とし、デルタ株の感染力に強い警戒感を示した。デルタ株の感染力は従来型の3倍程度とされ、水ぼうそうと同レベルの極めて強いものだという。

不満が不安に変わる時

 デスクが続ける。

「都内では1週間平均の新規感染者数が3000人を超え、陽性率は20%に達する勢いです。菅さんが専門家の分析に基づいて思い描いていたシミュレーションを外れたわけではないものの、その中で最悪のシナリオだということです。重傷者や死者が少ないのが不幸中の幸ではないかと指摘する声はありますが、自宅待機でさえ39度の熱が続くなど、大変な症状に苦しんでいる人はかなりいるのが現実のようです」(同)

 そんなわけで、菅首相のここ最近の口グセが、“なんでうまくいかないんだ”になっているというのだ。

「ワクチン接種がうまく行き、地の利を生かして金メダルラッシュなら支持率アップと見込んでいたようですが、甘かったですね。安倍前首相の時は今井(尚哉)さんや北村(滋)さんなど、軍師と呼べる相手がいて精神安定剤としても機能していたんですが、菅さんにはそれが見当たりません。だから、自分で突っ走るしかなくなるのです」(同)

 実際、菅首相は7月23日、来日した米ファイザーCEOと自ら会談してワクチンの供給交渉を行っている。

「ワクチンの供給前倒しを要請したと報じられましたが、それと同時に、いわゆるブースターと呼ばれる3回目以降の接種が不可避の中で、その安定供給のために頭を下げたようです。うがった見方をすれば総選挙後の政権維持についてかなり積極的だということになるでしょうか」(同)

 そして、このデスクは、差し当たって抱える菅首相の不満が不安に変わる時、政権運営は不安定なものになるだろうと付言するのだった。

デイリー新潮取材班

2021年8月4日 掲載