被告は取り乱すこともなく、冷静な表情で判決を聞いていたという。2019年11月、出産したばかりの乳児の首を絞めて公園に埋めたとして、殺人と死体遺棄の罪に問われた北井小由里被告(24)に、東京地裁は24日、懲役5年の実刑判決を言い渡した。風俗店でアルバイトをしていたという北井被告の奔放な大学生活にも注目が集まった今回の裁判員裁判。鼻の整形費用に数十万もの大金をつぎ込み、ジャニーズの追っかけに夢中になっていたという被告の“素顔”とは――。

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1年に及んだ防犯カメラのリレー捜査

 事件は2019年11月3日に起きた。北井被告は実家のある神戸から、就職面接を受けるため東京へ向かう機内で産気づいた。羽田空港に到着すると、多目的トイレに駆け込み、女児を出産。その場で赤ちゃんの口にトイレットペーパーを詰めるなどして殺害した。出産してから殺害するまで、わずか43分間の出来事だった。

 その後、紙袋に入れた遺体を東京・港区の「イタリア公園」まで運び、土の中に埋めて遺棄。4日後の7日午前、公園で遊んでいた保育園児が土の中から遺体の一部が出ているのを見つけ、事件が発覚した。

「捜査一課は近くのタワーマンションなども含めて、犯行時間帯に公園を出入りしていた3万人をチェックするなど大掛かりな捜査を展開しました。その中に、紙袋を持って公園内に何度も出入りする北井被告の姿が映っていた。防犯カメラのリレー捜査で北井容疑者の足取りを追い、身元を特定して逮捕したのは事件発覚から約1年後のことです」(警視庁担当記者)

殺害後にアップルパイ

 法廷では、犯行時の詳細な行動が再現された。北井被告は、トイレットペーパー「3巻分」をちぎって3回、赤ちゃんの口に突っ込み、さらに首を絞めて殺害。遺体を持ったまま空港内のカフェに入り、アップルパイとチョコレートスムージーを頼み、写真まで撮っていた。その後、予約していたホテルにチェックイン。スマートフォンで検索して見つけたイタリア公園に向かっていた。

「パニックになって頭が真っ白になった」。被告人質問で犯行動機についてこう答えた北井被告。彼女がもっとも気にかけていたのは、翌日に控えていた航空関連会社の面接試験だった。

「一人では子供を育てていく経済的な余裕がない。就職活動の邪魔になると思った」

 だが、北井被告が風俗で得た高額な報酬で奔放に暮らしていたことも法廷で明らかにされた。裁判を傍聴し続けてきた記者が語る。

「彼女が通っていたのは地元の芦屋大学です。大学進学後まもなく風俗の仕事を始め、稼ぎは月に10万円から30万円くらい。友達と一緒にジャニーズの追っかけをしたり、約54万円かかった鼻を小さくする整形手術などに使っていた。事件後に約15万円の二重まぶたの整形手術を受けた領収書も検察側から証拠として出されましたが、なぜかこの手術については否定。風俗の仕事は、出産3カ月前の19年8月に辞めています」

セクシャルマイノリティの悩み

 子供の父親も、名前すら知らない風俗店の客だった。同居している母親が妊娠を疑い、妊娠検査薬を購入して検査させたが、「妊娠していない」とウソをつく。その後、母親に促され神戸市の産婦人科を受診し、医師から中絶が不可能な妊娠22週を過ぎている事実を知らさてもなお、母親にしらを切り続けていた。出産・殺害後に帰宅した時は、「用をたしたら、お腹がへっこんだ」と伝えたという。

 母親に打ち明けられなかった理由について、「風俗の仕事について言いたくなかった」と語った北井被告。だが、検察官から「母親はすでに妊娠の時点で風俗の仕事について知っていたはずだ」と問い詰められると、「知っていた」と認めた。

 では何を知られたくなかったのか、と追及する検察官に対して、北井被告が訴えたのが、風俗の仕事を始めた理由である「セクシャルマイノリティの悩み」であった。「風俗の話になると、なぜ風俗を始めたかを話さなければならなかったから」。具体的には、弁護人の質問に答えるかたちで「自分はアセクシャルという性的な欲求を感じないタイプだ」と述べた。「友達の恋愛話などにまったく共感ができなかった。経験をいっぱいすれば良さがわかるのではないかと思い、風俗の仕事を始めた」と。

「北井被告の話には不可解な点が多かった。妊娠中には、お腹を蹴る子供がかわいいと思っていて、名前まで考えていたとも語っていたのです。裁判官から『自首を考えなかったのか』と問われ、『自首ってなんですか』と問い返し、『そんな制度があるなんて知らなかった』と答えた場面もありました」(同前)

空白だらけのエントリーシート

 弁護側は最終弁論で、北井被告が就職活動で企業に提出したエントリーシートを取り上げた。名前と経歴だけが書かれ、自己PRと志望動機の欄が空白になっているお粗末なものだ。結局、遺棄翌日に受けたという空港内のホールスタッフのほか、大手航空会社子会社の空港グランドスタッフなど、片っ端から航空関連企業を受けたがすべて不採用で、地元の衣料品店でアルバイトをしていたという。

「弁護人は、このエントリーシートをもとに、彼女は知的能力が低く、周囲に相談する相手も少なかったと情状酌量を訴え、執行猶予付きの判決を求めた。一方、検察側は、『自己中心的で極めて身勝手な動機』として、懲役7年を求刑していた」(前出・記者)

 判決で裁判長は「強い殺意に基づく執拗かつ惨たらしい犯行」「身勝手で短絡的な動機」と指摘し、5年の実刑判決を言い渡した。

 最終意見陳述では涙を拭いながら「赤ちゃんに申し訳ない気持ちでいっぱいです」と述べていた北井被告だったが、判決公判では、無表情でじっと裁判長の話に耳を傾けていたという。

 尊い命を救えなかったことが悔やまれてならない。

デイリー新潮取材班

2021年9月25日 掲載