最近、街に急増中の無人販売所。接触機会の低減や3密の回避が求められる昨今ならではの光景だが、扱われるのは食品ばかりではないらしい。もとより性善説に依拠するこのビジネス、ちゃんと成り立っているのだろうか。ライターの肥田木奈々氏がレポートする。

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 東京・大田区。2月某日、東急多摩川線の鵜の木駅近くにある昔ながらの商店街で、10人以上の人たちが何やら列をなしていた。その中の50代の女性は「話題の店がオープンすると聞いて来たんです」。視線の先にあったのは「野田焼売店 無人直売所」。冷凍シューマイの24時間無人販売所だ。

 ガラス張りの簡素な店内には、看板商品の「焼売」が積まれた冷凍ケースが並べられている。商品を手に取り、料金箱に代金の千円を投入する。以上、買い物終了。いやぁ、こうして文字で書いてもあっけないほど簡単だ。キャッシュレス化が進む時代に逆行する、現金払いのみの超アナログ仕様。でも、これなら子供やお年寄りでも気軽に買えそう……。

「想定を数倍上回る手応え」

「ほぼ宣伝していなかったので、行列ができるとは思いませんでした。想定を数倍上回る手応えです」

 運営する「クサマ」(東京・中野区)の草間福弘代表は安堵の表情を見せる。

 それもそのはず、同社が手がける初の無人直売所だからだ。この日は鵜の木店のほか、東京・世田谷区の用賀店も同時オープン。年内に10店舗の開業を目指す。

 野田焼売店は、東京・千代田区に本店を構える人気の中華食堂。無人直売所は看板メニューの焼売を家庭でも安く手軽に味わってもらおうと、満を持して開店させた。食品卸や飲食業を本業とする同社はコロナ禍で大きな打撃を受け、いわく「会社を強くするため」の挑戦だそう。

 草間代表が続ける。

「今までと違う販売チャネルとして小売業を検討し、無人直売に行き着きました。奇をてらっているように見えて、昔からある商法。その中で何を売るかを考えました。我々の強みはもちろん焼売でした」

性善説ありきの運営

 コロナ禍の下での無人販売のメリットは人件費削減だけではない。客は店員と接触せずに済み、滞在時間も短縮できて3密も防げる。冷凍食品は外出自粛やリモートワークの定着で“おうち時間”が増えた中、需要が見込めることも大きかった。その上で同社がこだわったのは、店の味を家庭で再現するための品質だ。

「蒸したてを提供できる実店舗とは違って、家庭で蒸すのは面倒だし難しい。既に蒸したものを冷凍で販売するため、店と同じジューシー感を出すのに一苦労。蒸し時間を調整するなど何度も試作しました」(同)

 国産豚肉を使った焼売は食べ応え十分で、肉汁あふれる本格的な味わい。他にも「麻婆豆腐」や「桃饅頭」などを販売し、一律千円。無人ゆえ、おつりがいらない価格設定にしたのも納得。心配は万引きやいたずらだが、

「券売機も考えましたけれど、機械のボタンを押すより料金箱に現金を入れる形式の方が、私自身買いたくなると思いました。防犯カメラは設置していますが、日本人は真面目だなあと感じたのはプレオープンの時。料金箱からお札がはみ出すほどあふれたことがあったんです。でも誰も盗らない。逆にお客さまの方が心配してくれて」

 ちなみに、2021年の拾得物処理状況をまとめた警視庁のデータによると、落とした現金が持ち主のもとへ戻った割合は実に75.4%。性善説ありきの運営が成り立つのは、日本人の生真面目な国民性が大きく影響しているようだ。

野菜の無人販売をヒントに

 こうした無人販売の先駆け的存在は、全国展開する「餃子の雪松」だろう。現在、400店に迫る勢いで出店を加速させている。コロナ禍で着想したのかと思えば、運営する「YES」(東京・国分寺市)の高野内(たかのうち)謙伍マーケティング部長が明かすには、

「群馬県みなかみ町で3代続く食事処『雪松』の味を継承したいという思いがもともとの始まりで、コロナ禍がきっかけではないんです。結果的にはテイクアウト需要など世の中の動きが追い風となりました」

 同社の長谷川保代表は、水上(みなかみ)で1940年に創業した中華食堂「雪松」の3代目店主の甥だ。店主が高齢を迎えて後継者問題に直面した際、伝説の味が無くなるのは忍びないと継承を決意。看板メニューの餃子を再現するため約2年かけて準備を進め、18年に埼玉・入間市で1号店を開いた。当初は店内飲食もできたが、毎日行列で売り切れる状態が続き、すぐに持ち帰り専門に変えたそうだ。

「味を継承するからには、気軽に、簡単に、安く、そしてあらゆる地域で提供したかった。そのため新たに考えたのが冷凍化、無人販売、24時間営業。ヒントにしたのが日本古来の野菜の無人販売所でした」(同)

 19年夏に東京・練馬区で24時間営業の無人販売所を始め、あれよあれよという間に全国展開へ。実質3年弱で400店に届こうほどの急拡大は異例だろう。

「現在のような出店速度は想定していませんでした。どこか昔懐かしい味で、長年愛された伝説の餃子をご自宅で手軽に楽しめる点が喜ばれたのでは」(同)

児童養護施設に餃子を届ける取り組み

 確かにコロナ禍の情況に合致したとはいえ、物珍しさだけでここまで人気は続くまい。やはり根底にあるのは3代目店主お墨付きの味だ。キャベツたっぷりの餡はヘルシーで野菜の甘みが際立つ。現在は埼玉の工場で一括生産しており、1日で使うキャベツの量は何と15トンにもなるという。

 昨年11月、同社は全国紙に全面広告を出した。「日本は、いい場所だね。」とのコピーを掲げ、「児童養護施設に無料で餃子をお届けします」と謳い、送付先の施設を募集したのだ。高野内さんが経緯を語る。

「私たちの売り上げはお客様の誠実さの証明。支払いせず商品を持って帰る人はほとんどいません。その善意にあやかり、伝説の味で食卓を明るくしてほしいという思いを込めて、児童養護施設に餃子を届ける取り組みを始めたのです。現在は292施設に餃子を毎月1万3560人分(施設職員含む)贈っています」

黒毛和牛ホルモンの無人販売も

 万引き防止に一役買っているのは、賽銭箱風の料金箱。悪事を働きにくくする心理的効果があるようで、同業他社の多くも類似のタイプを取り入れている。

 さて、昨今の無人販売のトレンド商品は火付け役ともなった餃子だが、昨年5月、東京・恵比寿に堂々お目見えしたのは黒毛和牛ホルモン店である。その名も「naizoo(ナイゾー)」。

 ポップなネオン看板が目を引く店内。とてもホルモン店とは思えないが、並んでいるのはレバー、小腸、ミノ……間違いなくホルモンだ。他にステーキ肉などもあり、すべて冷凍パックで販売される。会計はタブレット端末を利用するキャッシュレス決済。いかにもトレンドの先端を行く街らしい。

 代表をつとめる蒲池章一郎さん(38)は、都内で居酒屋など7軒を経営していた。だが、コロナ禍による経営難で見切りをつけてすべて売却。別業態でのチャレンジを考えた。

「餃子の雪松さんのような成功例があったので、以前から取引のあった黒毛和牛専門の卸売業者と業務提携し、ホルモンの無人販売で勝負しました。ホルモンといえばモツ鍋や焼肉が一般的で、家で調理することは少ない。新たな文化として自宅で楽しめる方法を提案したかったんです」

 ミシュランの星付きイタリアンで修業した料理人の協力を得て、ホルモンを使ったハンバーグやカレーなどの手作り料理も700円前後で用意。焼いたり温めたりするだけで一流シェフの味が楽しめると好評だ。

「今しかない」と無人の古着販売を

 昨年の緊急事態宣言時は1日平均6万円の売り上げがあった。

「監視カメラがあるとはいえ万引きなどリスクもありますが、その損失額より従業員をひとり雇う方がコストもかかる。居酒屋時代は100人ほどスタッフを抱えた時期もありましたが、今は自分だけ。無人なのでかけ持ちで他の仕事もできる。現在は飲食のコンサルタントもしています」

 生ビールも販売している(自粛期間中などは休止)。コンビニのコーヒーのように、空のカップを購入して自分で注ぐセルフ方式。朝でも昼でも真夜中でも、飲食店と同クオリティの生をグビリとやれる。無人販売もここまできたか……。

 と、感心してる場合じゃなかった。飲食に限らず、無人販売の波は古着業界にも押し寄せる。20年8月に東京は中野区野方で「ムジンノフクヤ」を開業した平野泰敬さん(36)の話。

「古着販売はインターネットなどで手がける人が増え、競合が激しくなっています。差別化のため、以前から無人販売に注目していました。防犯面で踏み出せなかったところにコロナ禍となり、タイミング的にも今しかないと思ったのです」

無人の古着屋は「店員のプレッシャーがない」と好評

 人件費削減で販売価格を抑える狙いがあるのはもちろんのこと、そもそも接客サービスの必要性を感じなかった。利用客からは「店員に声をかけられるプレッシャーがない」と喜ばれているそうだ。

 店内は約700点の古着が所狭しと並ぶ。赤や青などハンガーの色で価格が分けられており、たとえば白のハンガーなら1480円。その額のチケットを券売機で購入して持ち帰るシステムだ。試着室もあり、フィット感を確かめられる。これはネット販売にはない利点である。

 一方、無人だと利用者の声を直には聞けないため、「連絡帳」を置いた。のぞくと「女性物を増やしてほしい」などのコメントがビッシリ。嬉しいことに他県からの来店も多いそう。

「券売機の上にモニターを設置し、店内の様子を映していることも防犯につながっていると思います。取り扱う古着が海外の一点ものなので、売却目的では盗みにくい。予想以上に来客者が多く、月250着ほど売れることもあります」

コロナが終息した後は?

 現在、都内で3店舗を運営し、2月にはリメークした洋服や雑貨を扱う「ザッカトフクヤ」も新宿にオープンさせた。こちらはハンドメード作家に“棚貸し”する無人シェア店舗。今後はSDGs(持続可能な開発目標)の観点から、古着類も再構成して提案していく予定だという。

 ではこの先、コロナが終息しても無人店舗の勢いは止まらないのか。平野さんはこう考える。

「有人でも無人でも、本質はお客さまが喜ぶサービスを提供すること。単にはやりにのっただけの店や本質がしっかりしていない店は淘汰されるのでは」

 その「お客さま優先」を重視し、利便性のために無人どころか会計レジも料金箱さえもない“究極型”がついに登場した。

会計は“好きな時”に

 東京・丸の内で昨年11月にオープンしたサラダ専門店「CRISP STATION(クリスプ・ステーション)」。場所は丸ビル地下1階の食品フロア。冷蔵庫に並ぶ8種のサラダから「選んで持っていくだけ」だ。

 迷わなきゃ所要時間たった2秒。

 で、支払いはといえば、商品パッケージに付いているQRコードをスマートフォンで読み込み、クレジットカードなどで決済する仕組み。丸の内エリアはオフィスワーカーが多く、限られたランチ時間でレジに並ぶ数分を惜しむ人も少なくない。これなら、食後など好きな時に会計できて無駄な時間ゼロ!

 運営する「CRISP」広報の坂井奈央さんが説明する。

「皆さんの大切な時間を有効に使ってもらうため、食べたいと思った瞬間から食べるまでをいかに短くできるかを追求したトライアル店です。多い時で1日120食売れることもあり、ニーズを実感しています」

 食べるだけ食べて支払わない不届き者もいるのではと思ってしまうが、未払い続出なんてことにはならず、それどころか「うっかり容器を捨てて支払えない。どうすればいい?」という問い合わせも多いそうだ。

 やはり恐るべし、日本人の生真面目さ――。

カメラで在庫を管理

 設置したカメラで在庫を管理して1日2回補充するほか、美味しい状態で味わってもらうために冷蔵庫の温度を冷え過ぎないよう調整。食感や味わいを損ないやすい食材は別の容器に収めて商品に添えるなどの工夫もしている。

「在庫の食品ロスを防ぐためにも、曜日や種類による売り上げ推移などをデータで管理しています。今後、改善点を反映させ、他エリアにも出店する予定です」

 あらゆるジャンルで注目される無人販売サービス。昔ながらのアナログ路線とキャッシュレス化への二極化が進む中、少子高齢化による人材不足など世の悩ましき問題を解決するカギとなる可能性も秘めている。

 店舗にスタッフはおらずとも、そこに人の知恵と創意あり。技術の進歩、関係者の工夫、現代の消費者心理、学べることばかりの無人店舗、なのだった。

肥田木奈々(ひだきなな)
ライター。大分県生まれ。「大分合同新聞社」本社・社会部記者、同東京支社記者を経てフリーランスに。食に関連する記事を中心に雑誌・新聞等で執筆中。お酒とおいしいものをこよなく愛する食いしん坊&のんべえライター。本誌(「週刊新潮」)カラーグラビア「記念日の晩餐」も担当。

「週刊新潮」2022年3月24日号 掲載