シューベルト、アル・カポネ、間宮林蔵――。この三人に共通する病気といえば「梅毒」である。わが国では戦国時代から文献に登場し、第2次大戦直後には年間20万人を超える感染者を記録した。だが、抗生物質の普及で2003年には年間509人にまで激減。国内からはほぼ一掃されたかのように見えた。

「ところが、そこから再び感染者がじわじわと増加し、10年ほど前から爆発的に増えてきたのです。昨年は、じつに7875人に達しました」

 とは厚労省の担当記者である。

 梅毒は性的な接触などの際に「梅毒トレポネーマ」という細菌が粘膜や傷口から侵入することで感染する。最初はしこりができて、放っておくと全身に赤い発疹や腫瘍ができたり、やがて菌は脳や脊髄にも入り込み、まひを引き起こす。そうなると末期症状だ。

 もっとも、ここまで進行するケースは稀で、大抵は初期症状が出たところで病院に駆け込めばペニシリンで治る。今では、さほど恐れる必要のない性感染症だというが、妊娠中の女性が感染すると胎児が「先天梅毒」になってしまうこともある。

インバウンドとSNS

 なぜ、再流行するようになってしまったのか。

「かつての梅毒と違うのは、東京のような都会だけでなく、高知や岡山、福島といった地方にも感染者が多いこと。そして20代前半の若い女性に増えていることです」(前出の記者)

 感染症学が専門で、医学博士の中原英臣氏が言う。

「まず考えられるのは、政府のインバウンド推進策で、訪日外国人が急激に増えたことです。ご存じのように外国人観光客はコロナ前で3千万人を超える水準になっていた。彼らが風俗店などで日本人女性と接触することで感染が拡大した可能性が高い」

 もうひとつ考えられる原因は出会い系アプリに代表されるSNSの普及だ。

「その昔、梅毒は男の病気といわれたものでした。主に男性がプロの女性からうつされたのです。ところが、今では普通の男女が簡単に知り合って性的な関係に発展する。地方での感染が多いことや、若い女性の感染者が増えているのはSNSが影響しているといえるでしょう」(同)

 500年以上前から存在し、消えたかと思えば世相に乗じて復活する。ずいぶんと、したたかな病原菌なのである。

「週刊新潮」2022年5月19日号 掲載