共有状態はリスクの温床

「共有不動産」と聞いても、ピンとこない方は多いかもしれない。だが、実家の不動産の相続については、避けて通れない問題と考えている人も少なくないはずだ。たとえば、あなたの親が亡くなって、実家の土地と建物をきょうだいで相続したとしよう。その際、誰かひとりが相続するのではなく、きょうだい各々が持分という割合で所有権を分け合うこと――。これを共有不動産(共有名義不動産)と呼ぶ。実はいま、この共有不動産を巡るトラブルが急増し続けているという。しかも、揉め事が起こるのは、莫大な資産を有する富裕層ではなく、一般家庭の方が圧倒的に多いのだ。(文中の表現は、プライバシー保護の観点から一部を変更してあります)

「人間の体でたとえると、不動産が共有状態にあることは明らかに不健康。運が良ければ大病には至らないかもしれませんが、ひとたび問題が顕在化すれば、親兄弟、親類縁者との関係が修復不可能な状況に陥るリスクがあります。私たちは、そういった事例を数多く目にしてきました」

 そう語るのは、共有不動産の問題解決に特化した「株式会社クランピーリアルエステート」の大江剛代表である。同社では年間3000件もの相談を受けているが、その件数は右肩上がりで、今後もその傾向は強まるという。

 では、そもそもなぜ共有不動産が生まれるのだろうか。

「実家の不動産を所有する親が亡くなって、それをひとりの遺族が相続するのであれば何も問題はありません。しかし、子どもが複数いて、価値のありそうな財産が実家の不動産しかない場合はどうでしょうか。長男が実家を相続し、他のきょうだいに対して法定相続分に見合う現金などを渡せれば一件落着ですが、当然ながら、長男がそれだけの資産を持っていることが前提になります。様々な事情で親族間の話し合いがまとまらないと、ひとまず不動産を共同所有することになる。こうして共有不動産が生まれるわけです」

売却には所有者全員の合意が必要

 共有不動産の場合、所有者のひとりが不動産を売ろうとしても、他の全所有者の合意がなければ売却はできないなど、様々な制限がある。これが親族間トラブルの火種になるのだ。

 大江氏によれば共有不動産がトラブルになるケースには特徴があるという。象徴的なのは東京・世田谷区だ。

「弊社が手がける案件で一番多いのが世田谷区の不動産です。私たちが独自に世田谷区内の不動産相続を調査したところ、トラブルになっていないケースも含めて、約3分の1が共有名義になっていました。他にも、横浜市や川崎市、神戸市の案件は多いですね。理由としては、そうした地域は不動産価格が高騰している、つまりは父母や祖父母が購入した時よりも地価が上がっている。加えて、先祖代々の資産家ではなく、一般家庭が多い。実際、共有不動産を巡るトラブルは資産価値にして3000万〜5000万円ほどの不動産が大半を占めています」

 相続トラブルといえば、お金持ちの抱える問題と思われがちだ。だが、富裕層は事前に相続対策を講じていることが多いため、トラブルが生じることが実は少ない。しかし、一般家庭はそうはいかない。親が亡くなった直後に、何の準備もないまま、いきなり不動産の相続という難題に直面するパターンが後を絶たないのだ。

「あの土地は売らないからね!」

「具体的にはこんな案件がありました。両親と長男、長女の4人家族で、子ども二人は結婚して独立しており、その父親が亡くなってしまった。実家と土地の資産価値は4000万円ほどで、法定相続分は妻が2分の1、長男と長女が4分の1ずつになります。高齢の母親は足を悪くして2階への階段の上り下りにも苦労していた。しかも、1人で暮らすには今の実家は広すぎる。そこで、実家を売却して、その売却益で老人ホームに入居することを希望していたんです」

 ところが、これに娘が大反対したという。

「娘さんは不動産の売却どころか、相続登記をすること自体に異議を唱え始めました。このまま母親も亡くなれば自分の法定相続分が2分の1になるはずだ、と。わざわざ遠方から母親を訪ねて“あの土地は売らないからね!”と詰め寄ることも。結局、母親と息子さんから弊社に相談が持ち掛けられて、弊社が不動産を買い取ることに。その後、娘さんとも交渉を行い、最終的に全ての不動産を弊社が購入しています」

 親子の情よりも、自分の取り分を優先する姿勢には驚く他ないが、こうした事例は決して珍しいことではないそうだ。

「多くの場合、私たちは一方の当事者から相談を受けて不動産を購入し、その後、別の当事者との交渉に当たります。とはいえ、“1円でも構わないから私の持ち分を買ってほしい”と依頼されるケースは少なくありません。もともと兄弟関係が冷え込んでいると、いざ相続という段階になっても、“あいつとは顔も合わせたくない。自分が損をしてもいいから、あいつにだけは得をさせないでほしい”と考える人もいるんです」

 それまで表面化しなかった親族間のわだかまりが、一気に噴き出してしまうのだ。

次世代に問題を先送りしない

「そこまで相続が大揉めになっていなくても、無難に相続を終わらせるために共有不動産を選ぶ家庭もあります。しかし、これは問題の先送りに過ぎません。きょうだいの誰かが資金繰りに困って不動産を売って金に換えようとしても、他の相続人が反対すれば売却はできずトラブルに繋がります。また、共有名義だった不動産をさらに自分の子どもや孫に相続すれば、当然ながらネズミ算式に所有権者が増えてしまう。姫路市のある事例では、もともと1人の男性が所有していた不動産が、五世代にわたって引き継がれ、結果的に93人の共有状態になっていることが発覚しました。こうなってしまうと、もはや泥沼で収拾がつきません」

 こうした悲劇を避けるためにはどうすべきなのか。

「重要なのは、不動産の共有状態というリスクをなるべく遠ざけることに尽きます。まずは親の側が早めに遺言書を作って道筋を示しておく。また、相続する側も、親が存命中から話し合いをして、子どもや孫の世代に問題を持ち越さない。家族関係を良好の保つことこそが、リスクを回避する最大の手段だと考えています」

デイリー新潮編集部