日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。昨年9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、中国によるウイグル人弾圧について聞いた。

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 アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問したことで、中国が軍事演習を行い、改めてこの国の軍拡が問題視されているが、その一方でウイグル人弾圧にも目を向けるべきである。中国当局がウイグル人をジェノサイド(集団虐殺)したり、人口を抑制するためウイグル人女性を集団で避妊手術をさせたりするなど、忌まわしい行為は広く知られている。

「中国のウイグル弾圧は世界的に非難されています」

 と語るのは、勝丸氏。

 実際、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは昨年2月、ウイグル人などイスラム教徒の少数民族が暮らす中国北西部の新疆地区で、中国当局がウイグル人に集団拘束や監視、拷問を行ったという報告書を公表している。

友達になりたい

 2008年、在日ウイグル人によって設立された日本ウイグル協会は、中国による弾圧、人権侵害について情報発信している。中国の強制収容所で性被害にあったウイグル人女性や拷問を受けたウイグル人の写真や動画をホームページに掲載して世界に知らしめているのだ。

 勝丸氏は6年程前、日本ウイグル協会の幹部からある相談を受けたという。

「中国から逃れてきた協会の会員のもとへ、新疆ウイグル自治区から親族が訪ねてきたそうです。ところが、その親族が帰国すると、中国当局から身柄を拘束されたのです」

 同時にウイグル自治区にいる他の親族も数名拘束されたという。

「中国当局は、親族を拘束する理由を言わなかったそうです。その後、中国当局から日本ウイグル協会へ連絡があり、親族が訪ねた会員と話がしたいと言ってきたのです」

 会員は幹部に相談し、中国当局の電話を受けることにした。

「中国当局の担当者は会員に『あなたとは友達になりたい。協力してくれないか』と持ちかけたそうです。会員が『なぜ親族を拘束したのか?』と尋ねると、『私は担当者ではないのでわからない。でも、あなたが今後協力してくれたら、寛大な措置をするように伝える』と言ったといいます」

 要は、中国当局が取引を持ちかけたのだ。

すぐに帰化できる

「当局の担当者は、さらに『あなたはまだ日本に帰化していない。友達になってくれたら、駐日中国大使館が法務省に電話をして、すぐに帰化できるようにする』と言ったそうです。実際は、中国大使館が電話をすればすぐに帰化できるなんてことはあり得ません。何より驚いたのは、彼が、会員がまだ帰化できていないことを知っていたことです。スパイを使って日本のウイグル人コミュニティを調査していた可能性もあります」

 勝丸氏は、中国当局と“友達”になってもすぐに帰化できないと伝えた。会員は幹部と協議の末、中国当局とは二度と連絡を取らないことを決めたという。

「中国当局は、会員を協力者に仕立てたかったのです。イスラム教を信仰するウイグル人は反共の立場ですから、中国にとっては脅威です。ウイグル人は民族意識が強く、中国の共産主義には決して染まりません。中国当局は、彼を協力者にしてウイグル人が日本で何をしているのか、どのくらいの人数がいるのか、情報収集したかったのでしょう。幸いなことに、身柄を拘束された会員の親族はその後釈放されたそうです」

 日本で暮らすウイグル人は、帰国すれば確実に拘束される。そのため日本に帰化しようとする者が多い。

「帰化できていないウイグル人は、中国当局から住所を突き止められるのを恐れて、隠れるように日本で暮らしています。新疆ウイグル自治区にいる親族と連絡する時も、携帯電話やパソコンは使いません。中国当局に傍受されるからです。そのためテレホンカードを使って、公衆電話から連絡しています」

 卑劣な中国の手口には呆れるばかりだ。

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部