中国の科挙は熾烈(しれつ)を極めたため、不正に手を染める者は後を絶たず、清朝の末期には替え玉受験業者が盛況を博したという。翻って、現代日本でもネットを舞台に就職試験の代行が横行している。ようやく、警視庁も問題業者の摘発に乗り出して――。

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 警視庁サイバー犯罪対策課が11月21日、私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで逮捕した田中信人(28)は数ある就活代行業者の中でも、ネット空間で目立つ存在だった。

「田中は元々、別の業者のグループに所属しており、今年1月に独立したばかり。大手証券や総合商社、戦略コンサルティングの試験代行で結果を出しているとネットで喧伝していました」

 とは、さる社会部記者。

「彼は全国の受験者300人から代行を請け負っていた。報酬は1科目2千円。身代わり受験した企業の数は延べにして千社、総額400万円を稼いだとのことです」

「頭のデキが他と違う」

 容疑者は自身の経歴について、SNSで〈京都大学大学院卒〉をウリにしていたが、10代を滋賀の県立中高一貫校で過ごしている。高校の同級生が言う。

「ノブは授業中、よく居眠りをしていて、大学受験も失敗しています。ただ、頭のデキが他と違う。予備校時代、夏が過ぎた頃からぐんぐん成績を上げた。最終的には、常に模試の成績上位者に名前を連ねるようになっていました」

 1年の浪人期間を経て、京大理学部に進学。大学院では表面化学の研究で修士号を取得している。研究室の恩師、有賀哲也教授は、

「学生の頃から試験代行を行っていたとの話ですが、私にはそうした素振りはみじんも見せていません」

 と、教え子が事件を起こしたことが信じられない様子。だが、

「田中は京大院を修士で卒(お)えて、外資系のコンサル会社に就職したのですが、昨年1月に関西電力に転職しています。その給料に不満を持ち、試験代行業に精を出すようになったみたいです」(前出・記者)

替え玉受験の代償

 関電は事件を受けて「厳正に対処」する方針。道を踏み外した結果、“罰”を受けたのは業者だけではなく、

「警視庁は共犯として書類送検した女子大生のほか4人の依頼者に事情聴取しています。来年4月入社の内定を得た者もいましたが、5人全員が替え玉を使った企業に関して受験・入社を断念しています」(同)

 もっとも今回、警察が摘発できたのは氷山の一角。WEBテストの代行は想像以上に横行している。

 就職試験のひとつ「適性検査SPI」をネットでも実施しているリクルートマネジメントソリューションズは、蔓延(はびこ)る悪事に対して、

「受験前にWEBカメラによる360度での周囲確認のほか、イヤフォンの有無などを点検します」

 と、対策を強調する。しかし、ある就活経験者は平然とこう言ってのける。

「WEBテストは仲間で一緒に解いて、答えを共有する。業者を使うのも、信号無視くらいの感覚です」

 この点、さる上場企業の幹部は半ば諦め顔で、

「WEBテストに関する不正は完全には防げないし、過去の受験者も調べようがない。我々は選考者に、改めて筆記試験を課してはいるのですが……」

 一罰百戒で業者を根絶、とはなりそうもないのだ。

「週刊新潮」2022年12月8日号 掲載