特定抗争指定の足かせ
分裂から7年余、一方的に6代目山口組(司忍組長)が神戸山口組(井上邦雄組長)を追い詰め、それに神戸側が報復できていないように映る。他方、双方ともに特定抗争指定からこの1月で3年を迎えたことに鑑みれば、組織の弱体化は進むばかりのようだ。「特定抗争指定」の足かせを外すべくなるべく早く分裂状態を解消したい6代目側にとってターゲットとなるのが、神戸と2社連合を結ぶ池田組だという。元山口組系義竜会会長の竹垣悟氏(現在は、暴力団組員の更生を支援するNPO法人「五仁會」を主宰)に解説してもらった。
最初に、2社連合が結ばれるまでの経緯を改めて振り返っておこう。
昨年、神戸山口組の入江禎副組長がリードする形で、神戸山口組と池田組(池田孝志組長)とが「五分の親戚」、すなわち「対等の連合」を締結。これがいわゆる2社連合である。
もともと池田組は神戸山口組の結成に参画していたが、その後に脱退して独立組織となっていた。とはいえ、入江副組長と池田組長とはその間も緊密な関係を続けてきた。連合はその産物ともいえるだろう。
井上組長の口から
一方で、池田組と絆會(織田絆誠代表)は運命共同体の間柄にあることから、2社連合をきっかけに3社の面々が積極的に交流していけば、同盟のような結びつきに発展していく可能性を秘めている――とされてきた。
織田代表もかつては井上組長の出身母体である山健組の副組長を務めるなど、その最側近とされた。しかし、神戸山口組の振舞いについて口を極めて痛烈批判して脱退、独立組織となっていた。
もっとも、他ならぬ井上組長の口から、「神戸山口組は池田組としか連合していない。織田との間の溝は埋めがたい」との言葉が漏れ伝わっていた。連合はあくまでも2社というわけだ。
「神戸山口組は織田代表許すまじということで、2017年にヒットマンを放ちました。その結果、織田代表のボディガード役が射殺されましたね。そういった経緯があるため、神戸山口組と絆會との関係修復は不可能だというのがもっぱらの見方でしたが、去年のボディガードの命日供養に、神戸山口組の最高幹部も弔問に訪れたのが転機になるか、とも思われました」
と、竹垣氏。
襲撃した若頭は?
自身が狙われ、ボディガードを亡くした織田代表にとっては、この最高幹部らの弔問が今後のために最低限必要な儀式だった。しかし、この“セレモニー”が井上組長の逆鱗に触れ、結果として、連合締結の中核を担った神戸山口組の入江副組長が脱退することになった。
「対等の連合を組んだことによって、池田組長がこれまで以上に6代目側から狙われるようになりました。実際に去年10月、岡山市内の理髪店で散髪中だった池田組長を襲うべく、5代目山健組傘下・妹尾組の吉永淳若頭が1人で店内に突っ込むという事件がありましたね」(同)
池田組長は個室にいたこともあって吉永若頭は返り討ちに遭って、殺人未遂容疑で逮捕された。
「5代目山健組は当代になって神戸から6代目側へ移籍しており、傘下の妹尾組の本拠は池田組と同じ岡山。同じ地元で自由にやらせすぎだとの圧力もあったでしょうし、組織内でも忸怩たる思いがあったことでしょう」(同)
移籍したばかりの者が功を争うというのは古今東西を問わず、よくある話だが……。
虎の尾を踏んだ中身とは?
「ただ吉永若頭は県警の取り調べに対し、“襲撃は組事(組織としての犯行)ではない。池田組長が行ってきた不適切な行為に対して私憤に駆られてのことだ”と供述していることが伝わってきました」(同)
どういうことなのだろうか?
「不適切な行為云々については、噂めいたものはあるものの、実態は判然としません。抗争相手に私憤というのもいささか筋違いに映りますしね。それくらい居ても立っても居られない状況だったということなのか……。あるいは組事を否定することで、罪状を軽くできるかもしれないとの思惑があるのではないかと指摘する声もあります」(同)
竹垣氏によれば、池田組がターゲットとされる理由は他にもあるという。
「2016年に当時の池田組の若頭が6代目傘下の弘道会系組員に射殺された件で、若頭の未亡人が6代目側に対して使用者責任を問う裁判を起こしました。最終的に賠償金5000万円と弁護費用400万円の条件で和解したそうですが、これが6代目の虎の尾を踏んだと言われています」(同)
名前だけの2社連合
遺族が加害者側の責任を追及すること自体は、珍しいことではない。あくまでも正当な権利の主張だともいえるのだが、
「そのあたりの正論が通じないところがヤクザなんでしょうね。ともあれ、6代目の失態を突くような振舞いをしたということで池田組のトップをターゲットにする襲撃は止まらないはず。実際、ヒットマンが岡山入りしたままだとの情報もあり、差し当たって池田組長は籠城を余儀なくされています」(同)
2社連合が6代目を刺激したことは事実だろう。しかし、これを取り仕切った張本人である入江元副組長が組織を脱退したことに加え、井上組長が蚊帳の外に置かれてしまった恰好にある中で、発端の2社連合自体が「名前だけのもの」になりそうな気配があるのが実情のようだ。
デイリー新潮編集部