果たしてイギリス国民は、立憲君主制を続けるのか──? 日テレNEWSは1月15日、「ヘンリー王子が王室側にメーガン妃への謝罪を要求 さらなる暴露の可能性もにじませる」の記事を配信し、YAHOO!ニュースのトピックスに転載された。

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 1月10日、イギリスのヘンリー王子(38)の回顧録『Spare(スペア)』が、アメリカのペンギン・ランダムハウスから出版された。同社は世界最大の出版社として知られている。

 イギリスでは電子版などと合わせて40万部が1日で売れ、早くも「同国史上、最も早く売れたノンフィクション本」と認定されたという。

 イギリス王室に詳しい、ジャーナリストの多賀幹子さんも「アメリカやカナダなど英語圏の売上を合計すると、発売日の1日だけで約140万部が売れました」と言う。

「文字通り売れに売れています。理由の1つとして、出版社の前宣伝が非常に効果的だったことが挙げられるでしょう。ヘンリー王子はアメリカやイギリスなど、4つのメディアによるインタビュー取材に応じました。結果、『回顧録では衝撃的な事実が明かされているに違いない』と読者の期待を煽ることに成功したのです」

 実際、読者の期待を裏切らない内容だった。17歳でコカインを吸引し、アフガニスタン戦争でタリバンの戦闘員25人を殺害したといった告白は、全世界を驚かせた。

凄腕のゴーストライター

 他にも注目を集めたのは、兄弟喧嘩の場面だ。兄のウィリアム皇太子(40)がヘンリー王子の妻であるメーガン妃(41)を「気難しい、無礼」などと批判。これにヘンリー王子は立腹し、皇太子と口論になると、床に押し倒されたという。

「回顧録には『犬が餌を食べるボウルの上に倒された。背中で割れて破片でケガをした』と書かれています。イギリスでも話題を集めており、『割れたというボウルは何の材質で作られていたのか? プラスチック製だったのか、他の材質だったのか、明らかにする必要がある』という意見すら出ているほどです」(同・多賀氏)

 ヘンリー王子が実際に回顧録を書いたわけではない。作家であるJ・R・モーリンガー氏が取材や執筆を担当したと言われている。

「ロサンゼルス・タイムズ」紙の記者だった際、ピューリッツァー賞を受賞したジャーナリストでもある。だが、それ以上に彼は“最も高い報酬を得るゴーストライター”として知られる。

「ペンギン・ランダムハウスはモーリンガー氏に1億円という破格のギャラを払ったと報道されました。彼は取材結果を見事にまとめ上げ、衝撃的な回顧録として世に出した。その起用は、大成功だったと言えるでしょう」(同・多賀氏)

信憑性に疑問の声も

 出版社からすれば、まさに「してやったり」というところだろう。ところが、致命的なミスも指摘されている。『Spare』には事実誤認の記述が少なくないのだ。

「例えば、ヘンリー王子の曾祖母にあたるエリザベス皇太后(1900〜2002)が亡くなられた時の記述です。回顧録には『イートン校にいた時に聞いた』とありますが、王子はスキー場にいたことが分かっています。出版後、すぐにイギリスのメディアが証拠写真を発表しました」(同・多賀氏)

 出版社は「ファクトチェックは行った」と主張しているが、こうした事実誤認は他にも散見されるという。

「校閲が機能したとは言いがたく、回顧録の信憑性を疑う声も出ているほどです。エリザベス皇太后に関する事実誤認を日本に置き換えると、昭和天皇が崩御された際、皇族の方々の公的な行動を間違って記述したようなミスに匹敵します。当時の報道をチェックすれば簡単に間違いが分かったはずで、こうした類のミスがなぜ頻発してしまったのか本当に不思議です」(同・多賀氏)

“暴露ビジネス”は継続

 回顧録と言えば聞こえはいいが、平たく言えば暴露本だ。どれだけ売れようと、その“代償”は小さくない。

「かつてヘンリー王子は、7〜8割のイギリス国民から支持を獲得していました。ところが2020年1月に公務離脱を発表すると支持率は徐々に低下しました。21年8月には『好き』が34%となり、回顧録が発売される直前の調査では26%まで落ち込みました。発売後に行われた別の世論調査では、『イギリスに帰ってきてほしくない』という回答が9割近くに達しています」(同・多賀氏)

 だがヘンリー王子とメーガン妃は、こうした“暴露本ビジネス”を止めるつもりは毛頭ないようだ。

 冒頭で紹介した日テレNEWSの記事では、イギリスの高級紙テレグラフが行ったインタビュー記事を紹介している。

 ヘンリー王子は《父のチャールズ国王や、兄のウィリアム皇太子とのやり取りの中で、削除した内容がある》と説明。テレグラフは《王室側に今後の暴露への深い懸念を抱かせるだろう》と報じた。

「そもそもヘンリー夫妻は、ペンギン・ランダムハウスと4冊の本を出版する契約を結んでいます。1冊目はメーガン妃が文章を担当した絵本『The Bench』で、これは不評でした。2冊目が今回の『Spare』、3冊目は健康をテーマにした本と言われています。そして4冊目がメーガン妃の自伝です。彼女は日記をつけていたことを明かしており、それを元に王室内でどんなことが起きていたか詳細に書くというのです。『Spare』に匹敵する衝撃的な内容になると予想されています」(同・多賀氏)

王室の信頼度も低下

 興味深いことに、あれだけメディアへの露出を好むメーガン妃が、『Spare』のプロモーションでは一切姿を見せなかった。

「Netflixのドキュメンタリー番組など、夫婦での出演が目立っていました。そのため今回の“沈黙”を疑問視するというか、不気味と受け取るイギリス国民も少なくないようです。とはいえ、彼女の狙いはシンプルなものでしょう。もし『Spare』が不評だったり批判が集中しても、メーガン妃は『あれは夫の本であり、私とは全く関係がない』と反論できるよう、意図的に露出を避けたと考えられます」(同・多賀氏)

 彼女の計算高さが伝わってくるが、同情を禁じ得ないのはイギリス王室だ。『Spare』が出版されたことで、チャールズ国王(74)やウィリアム皇太子の支持率も下がってしまった。

 暴露本の出版でヘンリー王子の好感度は地に墜ちたが、それは結局、イギリス王室の信頼度も下げてしまう──こうした現象は日本の皇室にとっても“対岸の火事ではない”という複数の記事が配信された。

国民の厳しい視線

◆ヘンリー王子の暴露本『スペア』が大ヒットで“眞子さん&小室圭さん”に関する宮内OBの「心配事」(FRIDAY DIGITAL:1月16日)

◆ヘンリー王子自伝が爆売れで――小室圭さん(31)ニンマリ 日本政府がVIP待遇終身継続(女性自身:1月31日号)

「小室圭さん(31)と眞子さん(31)夫妻に対して少なからぬ日本人が、『マスコミや秋篠宮さま(57)に敵対的すぎるのではないか』という印象を持っています。ヘンリー王子やメーガン妃と重ね合わせてしまう人が多いのは理解できますし、『今後、日本でも皇室に対する崇敬の念が薄まってしまうのではないか』と専門家や識者でさえ懸念しているわけです」(同・多賀氏)

 立憲君主国でも年々、国民の王室に対する視線は厳しさを増している。スウェーデンやデンマークでは王族の数を減らす動きが相次いだ。イギリス王室や日本の皇室にとっても他人事ではない。

 多賀氏が「日本人にも参考になるかもしれない」と指摘するのが、ウィリアム皇太子とキャサリン妃(41)の公務に関する報道だ。

 marie claire(日本語電子版)は1月16日、「ウィリアム皇太子とキャサリン妃、ペアルックで公務登場!ヘンリー王子の回顧録は完全スルー」の記事を配信した。

公務の価値

 記事は『Spare』が発売された後、初めてウィリアム皇太子とキャサリン妃が公の場に姿を現したことを伝えたものだ。

 13日、夫妻はイングランド北西部の王立リバプール大学病院を公務で訪問。マスコミの質問は無視したが、81歳の女性に「頑張ってくださいね、ウィル」と手を握られると、ウィリアム皇太子は「そうします」と答えたという。

「ヘンリー王子の暴露に対して王室が正式に反論してしまうと、同じ土俵に乗ってしまうことになります。イギリス国民は決して喜ばないでしょう。王室にとっては“沈黙は金”であり、沈黙で威厳を保つのが最上の策です。リバプールでの公務報道が示していますが、国王や皇太子は地道に公務に励み、国民の信頼を回復していくしかありません。同じことは日本の皇室にも当てはまるのではないでしょうか」(同・多賀氏)

デイリー新潮編集部