半グレ集団の元最高幹部
昨年5月、当時、神戸山口組の副組長だった入江禎2代目宅見組組長の自宅(大阪府豊中市)に“車両特攻”があった件で、大阪府警は建造物損壊などの疑いで、6代目山口組の3次団体・10代目稲葉地一家の林雅志若頭を3月8日に逮捕した。特攻の実行者はすでに起訴され、実刑判決を受けているのに、なぜ今?との声が上がっているのだが、果たして……。元山口組系義竜会会長の竹垣悟氏(現在は、暴力団組員の更生を支援するNPO法人「五仁會」を主宰)が解説する。
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まず、昨年5月の事件を振り返っておこう。車両特攻したのは、稲葉地傘下・8代目伊藤忠の菅野義秀組員だった。
「菅野組員はもともと半グレ集団アビスの最高幹部でした。兄弟でグループを仕切っていて、菅野兄弟と言えばかなり有名な存在でしたね。昨年の特攻は、実は別の元アビスのメンバーが担う予定だったところ、その人物が阪神高速を走行中に警察に追いかけられてクルマがひっくり返るほどの事故を起こしたとのこと。それで菅野組員にお鉢が回ってきたようです」
と、竹垣氏。
懲役1年の実刑判決
菅野組員はその後、起訴され、昨年12月に懲役1年の実刑判決を受けている。
「もともとは住居侵入、建造物損壊、脅迫の3つの罪状に問われていましたが、成立したのは住居侵入罪のみでした。建造物損壊については特攻を受けた門扉は建物との一体性がない、脅迫罪についても、漠然とした不安感を抱かせるという領域に留まるとして検察の主張を裁判所が退けた格好です」
と、社会部デスク。
「ただし、裁判所はクルマを後退させて敷地に侵入した犯行は危険で悪質と断じ、菅野被告が犯行時に執行猶予期間中だったことから懲役1年の判決を下しました。執行猶予期間でなければ実刑はなかった可能性がありますね。検察の求刑は4年で、それだけに“敗北感”が強く、検察側は控訴しています」(同)
事件そのものはシンプルなもので、これで終わったはずに見えたのだが、年をまたいで新たな逮捕者が出たことになる。
「3月8日に逮捕されたのは、林雅志若頭と4次団体で稲葉地傘下・8代目伊藤忠の吉川直行若頭です。菅野組員に指示した可能性があるラインを押さえるための身柄拘束でしたが、どうやら起訴されることはなさそうです」(同)
被害届を出していない
稲葉地一家は野内組、高山組と共に6代目山口組・3代目弘道会傘下の団体として、実力を認められている組織だ。
「かねてヤクザの界隈では名門とされてきましたが、これまで以上に現在は人・モノ・カネがしっかりと集まっていますね。今回逮捕された2人の年齢はそれぞれ39歳と34歳。そういった若い最高幹部がいるということも訴求力の高さにつながっていると、業界内では評価されています」(同)
一方で、被害者である入江元副組長からは厭戦ムードを感じるという。
「実は入江元副組長は本件について被害届を出していません。メンツなのか元々所属していた6代目側への配慮なのか、どういう気持ちからなのか判然としませんが、どこかで争いの無意味さを痛感しているのかもしれません。となると、ヤクザを引退してカタギになることも見据えていることはあるでしょう」(同)
6代目山口組と神戸山口組との抗争の流れの中で、様々な波紋が生まれているということになるだろうか。
デイリー新潮編集部