「なんでこんな騒ぎになったんですかね。誰にも迷惑をかけずに、食べたい人が集まって食べているだけなのに。もちろん、これからも季節になったら食べ続けますよ」。こう語るのは、茨城県ひたちなか市で30年間以上、生食を含むカラス料理を楽しむ集いを主催してきたメンバーの一人である。当事者が語る“カラス生食騒動”への思いとは――。
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東京新聞批判が愛好家たちへも波及
「LINEがじゃんじゃん入って来ましたよ。ネットで騒ぎになっているこのニュース、あなたの家の囲炉裏でやっている会のことでしょって」
茨城県ひたちなか市で建築業を営むAさん(60代)は、「カラス騒動」の発端をこう振り返る。始まりは、東京新聞が3月7日に配信した〈《突撃イバラキ》カラス肉の生食文化 究極のジビエに挑戦〉という見出しの記事だった。
水戸支局に勤務する記者が、地元のカラス食愛好家メンバーから「カラスの刺し身を食べに来ませんか?」と誘われ、好奇心にひかれて食べてみたという食ルポである。県の生活衛生課にも取材し、「食中毒のリスクはかなりある。禁止されているわけではないが、控えてほしい」とのコメントも掲載。だが、記者が感想として〈この貴重な食文化がゲテモノ扱いされたまま先細ってしまうのはあまりにも惜しい〉などと書いたことが一部ネットニュースから槍玉に挙げられ、〈無責任〉〈まねをする人が出たら大変〉などと猛批判にさらされた。
批判の大半は東京新聞の報道姿勢を問うものであったが、一部は「行政の注意喚起を無視している」などと取材対象の愛好家らにも向かった。
いったい“カラスを食べる会”とはどういう集いなのか。
つてを辿り、会って話を聞けたのがAさんである。Aさんは30年以上、この会を主催してきたメンバーの一人。毎年、地元猟師が駆除のために捕獲したカラスを数十羽引き取り、季節限定で週1回くらいのペースで、囲炉裏のある自宅に愛好家らを招いて食事会を催してきた。
マネできないでしょ
まずAさんが力説したのは、「マネをする人が出たらどうする」というネット民の反応についてである。
「マネできるわけがないでしょ。そもそも、鉄砲の免許を持った知り合いが身近にいますか」
狩猟期間は11月15日から2月15日までの4カ月間。Aさんは、その間、知人の猟師から獲れたばかりのカラスを譲ってもらい、すぐさま自宅で自らさばき、冷凍保存して、季節のうちにメンバーらと食するのだという。
「昔はそんな猟師さんが周りに4、5人いたけど、今は一人。持ってきてもらったカラスを自分でさばいたり……、こんなこと、簡単にマネできないでしょ」
さらに強調するのは、「食中毒が危ない」という指摘について。今回ネット上で騒ぎが起きたことを受け、厚生労働省は3月8日、〈ジビエはしっかり中まで加熱して食べましょう〉と呼びかける注意喚起のイラストに、新たにカラスを4羽加えた新バージョンを作成し、改めてTwitterなどにアップした。
これらネットなどでの反応について“過剰だ”と語る。
「生食に食中毒のリスクがあるのは当たり前の話でしょう。ユッケだって全部同じ話。私たちは商売として参加を呼びかけているわけではありません。いつも季節になると、みんなが食べたいって言うから、場所とカラス肉を用意して一緒に楽しんできただけです。参加したものの、やっぱりやめておきますって言う人もいますけど、無理強いしたことなんてない。醤油漬けにして殺菌もしているし、ちゃんと料理研究家の方のアドバイスも受けながら、食中毒には気をつけて食べている。30年間で一度も事故は起きていない」
ミートパイにしたことも
隠れてコソコソやってきたわけでもなく、取材を受けるのは東京新聞で3回目だとも語る。確かに、過去記事を調べてみると、2014年にも朝日新聞が〈カラス食べる文化、特産品化で守ろう〉という見出しの記事を茨城県版で出していた。
「実際に特産品化にしようという動きはあった」とAさんも振り返る。
「10年以上前かな。県知事や県の食品衛生課みたいなところに全部声かけて、みんなでカラスを県の名産品化にしようと。石原慎太郎さんが都知事時代に、『東京のカラスを駆除してミートパイで商品かしよう』って言っていたのにヒントを受けて、メンバーの料理研究家の人がミートパイにしてみたりね。もちろん、火を通したカラス料理については何ひとつ問題ないんですが……」
朝日の記事でも、胸肉は刺し身にして食べたと書かれていた。2011年には石川県の県紙「北國新聞」が、イグノーベル賞を受賞した廣瀬幸雄氏の寄稿文として、茨城県ひたちなか市で「カラスを食べる会」に参加したというルポを掲載している。
〈「ブラックバードのカルパッチョ 熟成にんにく風味」、「パイ包み」をはじめ、刺し身、スープ、グラタン、ミートパイとさまざま。まさにカラスのフルコース〉を体験した廣瀬氏はこう結んだ。
〈カラスといえば、今でこそ厄介者扱いをされていますが、古くは神武天皇東征の時にヤタガラスが熊野から大和に入る先導をしたと伝わり、現在でも日本サッカー協会のシンボルマークに使われています。「七つの子」の童謡にも歌われていますし、もっと親しみを持ってもいいんじゃないか、という気もします。そんな意味でカラスを丸ごと食す、ひたちなか市の人々は、カラスへの愛があふれているとは言えませんか〉
副知事時代から参加していた現職国会議員
北國新聞の記事には、参加メンバーについて注目すべき記述もあった。
〈すごいのは参加者の面々。今月12日には、ひたちなか市長や副知事、教授、料理学校の校長まで、知的好奇心の塊のような方々が30人ほど集まっており……〉
ここに出てくる「副知事」とは、この後、茨城県選出の参議院議員になった自民党の上月(こうづき)良祐氏である。実は、上月氏はこの会の常連メンバーで、東京新聞が取材した2月10日の食事会にも夫婦で参加していた。いまも騒動を意に介することなく、同氏のブログには〈ブラックバードの会へ。嫁さん好みのジビエです〉と会場をバックに妻と一緒に写った写真が載っている。
上月氏に取材を申し込んだが、「会に参加したことは事実ですが、特にお話しすることはありません」とのことだった。
Aさんは今回ネット上で起きたバッシングについて、「食べたくなければ食べなければいいじゃないですか」と訴えた上で、こう本音をこぼす。
「参加するメンバーは、カラスってどんな味がするんだろうと好奇心で寄ってくる人たちです。ただ、スペースに限りがあるのでみんなを呼べない。何で呼んでくれないの?って恨み言のように言ってくる人の方が多いんです。だからなのか、今回、私たちを突いてきた人たちに対しても、本当は参加したいけど出来ないからなんじゃないの、って思ってしまうんです」
デイリー新潮編集部