第4次安倍改造内閣が発足して、政治関連で話題になるのはもっぱらセクシー大臣の言動で、真面目な話題としては「日韓関係」「憲法改正の可能性」というのが現状である。しかしながら、実際に政治が取り組むべきなのに、放置されているに等しい課題は数多くある。

 人口減少で消滅必至の地方をどうするか――『地方消滅』がベストセラーとなっていた頃には関心を集めていた問題だが、最近は以前と比べて議論されることが減ってきた。しかしながら事態はまったく改善されていないし、国も地方も有効な策を打ち出しているとは言い難い。

 限られた財源を効率よく使うべきだ、といった正論には誰も異を唱えないが、いざ自分たちのこととなると「もっと補助金を出してくれ」となるのもよく見られる光景。

 こうした構造に対して、かなり「意識高い」発信をしているのは、大阪府と大阪市だろう。府と市の二重行政を解消して、ムダをなくしていこう、という方針を明確に打ち出している。

 しかし、こうした税金のムダ使いは別に大阪に限った話ではない。地方行政の専門家、佐々木信夫中央大学名誉教授は、新著『この国のたたみ方』で、「フルセット行政」に問題あり、と指摘している。以下、同書をもとに日本中に蔓延しているこのムダの実情と構造を見てみよう(引用はすべて同書より)。

「『フルセット行政』というのは、どこでも同じようなモノを全て揃えようという行動様式ですが、47都道府県はあたかもミニ国家であるようにフルセット行政で道路、橋、公共施設などインフラを整備し、同じような行政サービスを並べています。どの県民にも公平性を担保しようという点では意味がありますが、そこから生まれる弊害も大きい。

 例えば、地域に1つあれば十分な橋が、県が変わると新たにかけられたりする。四国と本州の間には3本の橋がかかっていますが、みな赤字です。かけられている県を見ると、東から兵庫と徳島、岡山と香川、広島と愛媛、となります。本州側も四国側も、すべて並んだ県です。確かに技術的には素晴らしいものがあるのかも知れませんが、果たして3本も橋をかける必然性があったのでしょうか。『隣がつくったから』『オラが県にも』という横並び意識がそうさせたのではないでしょうか。地元政治家の力比べもそこに加わったでしょう」

 こうしたフルセット行政が、都道府県の縦割りの話だとすると、「横割り」の問題もある。大阪府と大阪市の二重行政はその典型だ。

「府と市がそれぞれ都道府県レベルの行政をおこない、都道府県レベルの巨大な施設が大阪府域内に2つずつ作られています。府立中央図書館と市立中央図書館、府立体育館と市立中央体育館、大阪市立大学と大阪府立大学、基幹的な病院、博物館、公園など、すべて府立と市立があります」

 こうした状況は、橋下徹氏が行政のトップとなり、大阪維新の会が躍進したことで、府民はもちろん、全国によく知られるようになった。「ほんと、大阪ってムダが多いな」と嗤った方もいるかもしれない。しかし、これは大阪に限った話では決してないのだ。

「ひとつ例を挙げます。長野県の県庁所在市である長野市は1999年に中核市の指定を受けることを目指し、府県行政の多くを移管して自立性を高めようとしました。

 30万規模の中核市には、法令で保健所設置義務が課されています(2015年からは20万中核市も義務化)。それまで一般紙として保健所を所有しなかった長野市は、中核市移行をねらい、県立の保健所が市内に既にあるので長野県に対し保健所の市への移管を申し出ました。しかし、長野県庁は断りました。『ウチの保健所は長野市内だけでなく近隣市町村の住民も利用するので、長野市立にすることはできない』という理由からです。

 しかし、実態を言えば、人口37万人の長野市の近隣には、数万とか数千人の小規模市町村が取り囲むようにあるだけで、合計しても人口は10万人にも達しません」

 つまり、条例で「近隣住民も受け入れる」と決めれば、それまでと何も変わらず保険サービスは行われるはずだった。

 しかし、長野市は長野県には断られてしまったため、結局、新たに単独で保健所をつくることになった。施設のみならず、医師、看護師、保健師などもフル装備だ。

 一方、県立の保健所も規模を縮小することなく、存続。

「市民にとっては選択肢が増え、保健サービスを受ける機会は倍増したかもしれませんが、実態は行政のメンツ争いでそうなっているだけです。そもそも市民が年1回の受診で済ませていた健康診断を施設が増えたからといってわざわざ2回、3回に増やすとは思えませんし、その必要もないでしょう。

 県側からすると、『市町村は県の下にある』と思っていたのに、急に自立されたりすると面白くない、という意識があるのかも知れません。だから容易には権限を譲らないし、それまで下に見ていた自治体が県並みの権限と力をもって自立すると二重行政が顕在化しやすいのです」

 これに加え、府県と政令市の間には、二元行政に加えて「二重政治」の問題もある。政令市制度では概ね府県行政の8割近くが市に移管されているにもかかわらず、現制度ではその市選出の県議会議員も多数存在している。

「例えば福岡市には62人、北九州市には57人の市議がいます。一方、その2つの市域から39人の県議が選ばれています。福岡県議会の定数87の45%を占める39議席が政令市区域から選ばれている訳です」

 しかし、前述の通り、福岡市と北九州市が福岡県の仕事のかなりの部分を受け持っており、県に残っているこの2つの市に関する権限は、県民税の課税権と警察権くらいだ。

「この意思決定のために県議の45%の代表を政令市域から送っているのは合理的でしょうか。すでに福岡と北九州の2つの政令市で119人もの市議がいますから、その2市議会の議員がいれば十分ではないでしょうか。

 この問題がより鮮明に出ているのは神奈川県です。横浜市86人、川崎市60人、相模原市46人、合わせて192人の政令市議が神奈川県の主要部分の意思決定を担っていますが、他方、神奈川県議(105人)はその区域から67人も選出され、県議会の64%の議席を占めています」

 あらゆる施設も議員も予算が有り余っているのであれば、余るほど存在しても問題はないのだろうが、もちろん現実は正反対である。

 こうした問題は、税金の使い方に直結することで、これこそ政治が動くべきテーマだが、「改革」は進んでいない。大半の政治家は、この問題を取り上げたがらない。彼らからすれば自らの権限やポストを削減することにもまた直結するからである。この点では与党、野党問わず多くの政治家が共犯関係にあるのだ。

デイリー新潮編集部

2019年10月9日 掲載