辞任が得策!?

 有権者はもちろん、自民党内にも衝撃が走った。毎日新聞と朝日新聞の内閣支持率が共に30%を割り込んでしまったのだ。自民党の国会議員からも「下がるとは思っていたが、これほどの急落は予想できなかった」との声が上がっている。

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 両紙の報道により、安倍晋三首相(65)の党内影響力が低下、“ポスト安倍”レースが一気に加速する可能性が取り沙汰されているという。

 だが、その前に支持率急落の理由について、しっかりと報道を見ておこう。

 毎日新聞(電子版)は5月23日、「内閣支持率27%に急落 黒川氏『懲戒免職にすべきだ』52% 毎日新聞世論調査」の記事を配信した。

《安倍内閣の支持率は27%で、今月6日に行った前回調査の40%から急落した。不支持率は64%(前回45%)に跳ね上がった。社会調査研究センターとの共同調査は3回目で、最初の4月8日に44%あった支持率が1カ月半で17ポイント落ち込んだ》

 さらに朝日新聞(同)は24日、「内閣支持率29%、発足以来最低に 朝日新聞世論調査」の記事を配信した。

《安倍内閣の支持率は29%(前回5月16、17日は33%)で、2012年12月に第2次安倍政権が発足して以来、最低となった。不支持率は52%(同47%)に増え、5割を超えた》

《男性の支持率は33%で、女性は25%。特に50〜60代女性の支持は2割以下で、7割近くが不支持と答えた。支持政党別では、自民支持層の内閣支持率は68%だったが、無党派層では14%にとどまった。第2次安倍政権のこれまでの最低支持率は、森友・加計問題への批判が高まった18年3月と4月の調査の31%だった》

 モリカケ問題より現在のほうが、安倍政権を見つめる有権者の目は厳しいことが指摘されている。

 一体、何に有権者は怒り、不満を感じているのだろうか。政治記事を担当するデスクが解説する。

「毎日新聞の記事では、《東京高検の黒川弘務検事長が賭けマージャンをしていた問題で辞職したことについては「懲戒免職にすべきだ」が52%と半数を超えた》とあり、安倍政権の支持率が急降下した原因の1つだと考えられます。さらにアベノマスクの不評や特別定額給付金の10万円がなかなか届かないといった、新型コロナウイルス対策に関する不満が重なったことも大きいでしょう」

 黒川弘務氏(63)の問題に有権者が不満を感じているのは、森まさこ法務大臣(55)に対する、安倍首相の“弱腰”も影響しているようだ。

「黒川氏の問題で、森法相が進退伺いを提出したところ、安倍首相が『強く慰留』したと大手マスコミは報じました。これも有権者には不評だったようです。責任を取り、森法相を辞任させるべきだったという意見のほうが多いのでしょう」(同)

 デスク氏は「安倍首相と距離のある自民党の国会議員ほど、支持率急落の報道に驚いている」とも指摘する。

 ならば逆に、安倍首相に近い議員は、報道にどう反応したのだろうか。官邸中枢はどう受け止めたのかというと、どうも有権者の感覚とは距離があるようだ。

「官邸にいる安倍さんの周辺は、新型コロナ対策を『そこそこ、うまくいっているのではないか』と分析しています。『何よりの死者を出さないよう万全の策を講じてきたし、実際に死者を少なく抑えられている』というわけです。ところが有権者は、何よりも黒川氏の問題に怒っており、コロナ対策でも死者数ではなく、マスクや給付金の件で批判しています。その現状を、いまいち理解できていないようです」(同)

両院議員総会で一点突破!?

 世論と官邸の間に乖離があるというわけだが、そうなると、内閣支持率の立て直しも、なかなか難しくなる。

「実際、打つ手が限られているのも事実だと思います。多くの専門家が指摘しているように、新型コロナを完全に収束させる、つまり感染者ゼロに抑え込むのは医学的に厳しい。安倍首相も『非常事態宣言の再発令はあり得る』と認めました」(同)

 そうなると、安倍首相は来年秋までが任期だが、衆院を解散できるタイミングもなかなかないという。

「小選挙区制のドブ板選挙で候補者は有権者と握手をかわし、選挙事務所は関係者が密集します。要するに三密の極みなのです。仮に安倍政権が総選挙を強行すれば、それだけで有権者の一部は“不要不急の選挙”と反発するでしょうね。このまま支持率も回復しないようだと、コロナ禍が一段落したあたりで、辞任する可能性もあるでしょう」

 そこで注目を集めているのが、自民党の党則だ。第6条は自民党総裁を「別に定める総裁公選規定により公選する」と定めているのだが、第2項は以下のように書かれている。

《総裁が任期中に欠けた場合には、原則として、前項の規定により後任の総裁を公選する。ただし、特に緊急を要するときは、党大会に代わる両院議員総会においてその後任を選任することができる》

 更に第3項には、こうある。

《前項ただし書の規定により総裁を選任する際の選挙人は、両院議員及び都道府県支部連合会代表各三名によるものとする》

 つまり両院議員総会で後継総裁を決める場合は、国会議員の投票がメインとなるわけだ。都道府県の党員票を最小限に抑えることができる。

「当然、安倍首相が辞任した場合、自民党総裁選を制した政治家が、次期首相に選出されます。その際、党内で『特に緊急を要するとき』であると認められれば、両院議員総会で選出することが可能です。このシナリオですと、“安倍元首相”が党内影響力を維持することが可能になります。ただし、これだと安倍さんが院政を敷きたいという思惑が丸見えです。党内からは『通常通りの全党員による総裁選を行うべき』という声が出るはず。間違いなく揉めると思います」

 安倍首相は何を考えているのか。それは「自分が首相を辞めるにしても、石破茂元幹事長(63)だけは首相にしない」との1点に尽きるという。安倍首相と石破氏の“確執”については、これまでにも多くのメディアが報じている。

「石破さんは特に地方の党員票を強いとされ、実際、“ポスト安倍”を問う世論調査では1位になることも珍しくありません。一方、派閥の石破派は小所帯です。もし国会議員がメインの両院議員総会で後継総裁を決めることになれば、安倍首相の“意中の人”が勝利する可能性は高くなります」(同)

 ただし、シナリオは完璧でも、肝心の“ポスト安倍”がなかなかいないという。大手マスコミが報じる“候補者”は多くとも、いずれも「帯に短し襷に長し」のようだ。

「安倍首相の後継者と目されていたのは、岸田文雄政調会長(62)です。いわゆる“禅譲”シナリオがたびたび、報じられていますが、少なくとも自民党内では新型コロナの対策を巡って、最も男を下げた政治家の1人です。官邸中枢から『政調会長のくせに、ろくな政策を持ってこない』と批判が高まっており、安倍首相も失望していると言われています」(同)

“安倍側近”の一部からは、麻生太郎財務相(79)を推す声も根強いという。

「じっと我慢して安倍内閣を支え続け、長期政権を実現した功労者であるのは間違いないと思います。『その労に報いたい』という党内の意見は理解できなくもありませんが、麻生さんは有権者の評判が非常に悪い。失言癖もあり、下手をすると内閣発足時から支持率が低迷したり、自民党の支持率に悪影響を与える可能性も否定できません。麻生首相を推す国会議員の中には、『あくまでワンポイントの起用だから大丈夫』という意見もあります。ただし、麻生さんには高齢の問題がありますし、やっぱり人気がない。そう簡単に党内がまとまるとは思いません」(同)

週刊新潮WEB取材班

2020年6月1日 掲載