現職優先――。自民党の政治家にとって最初の既得権益であり、最大の身分保障ともいえる制度が揺らぎはじめている。

 昨年、衆院福岡5区で勃発した自民党内の次期衆院選を巡る公認争いである。

 麻生派で前環境相の原田義昭衆院議員(76)に公然と反旗を翻したのは、福岡県議会議長などを歴任した栗原渉県議(55)だ。

「発端は昨年9月。自民党の県議たちが、2019年の県議選が分裂選挙となった責任は原田氏にあると言いがかりをつけ、栗原氏を担いだのです」(地元記者)

 10月には党県連が栗原氏に有利な党員投票で推薦候補を選考する方針を決定。

「当然、麻生太郎財務相は猛反発。12月には麻生氏とも協議した山口泰明選対委員長が、原田氏に次の選挙を最後とし、その次は栗原氏に譲ると明言させる異例の仲裁を試みました。しかし、栗原陣営は“信用できない”と反発し、空振りに終わったのです」(同)

 年が明け、騒動は収まるどころか勢いを増していく。

「1月31日に行われた北九州市議選で自民党は6議席を失う大敗を喫した。中でも注目を集めたのは2人の重鎮議員の落選でした。この結果に栗原陣営は“世代交代を訴えれば勝ち目はある”と、むしろ自信をつけることになった」(同)

 原田氏がかような憂き目に遭うのには、福岡独特の事情があった。

「栗原氏の背後には福岡政界に強い影響力を持つ古賀誠元衆院議員の影がチラつくんです。麻生氏と古賀氏は犬猿の仲。古賀氏は昨年10月に岸田派の名誉会長を辞する意向を示しましたが、これで岸田氏の立場に配慮する必要がなくなり、堂々と麻生氏にケンカを売れるようになった」(麻生派関係者)

 一方、麻生氏にとっては思わぬ“援軍”が。

「二階俊博幹事長です。目下、二階派の懸案事項は河村建夫衆院議員がいる山口3区ですが、この地での鞍替え出馬を目論む林芳正参院議員のバックにいるのも古賀氏。二階氏は、山口3区のためにも“現職優先”の原則を曲げるわけにはいかず、福岡県連幹部を呼び出して“世代交代なんて許さん”と叱りつけたこともあったとか。それと呼応するかのように、これまで福岡で麻生氏と対立してきた二階派の武田良太総務相も、今回の騒動では静観を決め込んでいますしね」(同)

 全国の“現職”たちが三老人のツバ迫り合いを見守っている。

「週刊新潮」2021年2月25日号 掲載