“モンスター”の異名を持つ世界的ボクサー・井上尚弥選手(30)の活躍で、ここ数年、注目度が高まる日本ボクシング界。そんな最中、あの“亀田三兄弟”も動きを見せた。そう、兄弟の中で唯一の現役ボクサーである三男の亀田和毅(ともき、32)だ。9月6日に都内で記者会見を開き、井上選手も所属するスーパーバンタム級からフェザー級に転向することを発表。井上尚弥との“日本人対決”を望む声も少なくない中での突然の階級変更。果たしてその真意、そして、絶対王者・井上に対する思いとは――。本人が胸中を明かした。
なぜタイトルマッチが出来なかったのか
亀田和毅選手は、1991年大阪生まれ。亀田三兄弟の長男・興毅氏、次男の大毅氏に続く三男として早くから注目を集める。2008年、メキシコでプロデビュー。あの兄二人から“三兄弟で一番才能があるのは和毅”と絶賛されるほどの才覚を発揮し、2013年にはWBO世界バンタム級王座、そして2018年には、WBC世界スーパーバンタム級暫定王座を獲得している(現在は陥落)。
――スーパーバンタム級と言えば、あの井上尚弥選手も現在所属している階級です。井上尚弥対亀田和毅のマッチを期待していたファンも多かったのでは。
亀田和毅選手(以下、亀田) もちろん戦いたいですよ。井上尚弥選手との対戦は熱望しています。その中で自分の階級での最強は井上チャンピオン。だからこそ、スーパーバンダム級に井上チャンピオンが転級するという話を聞き、自分もこの階級に留まろうと思い、そして戦える可能性を探しました。僕にとって(現WBA、IBF王者の)タパレスと戦い勝つ事が目的ではない。タパレスの次の井上チャンピオンが目的でした。
僕と井上チャンピオンとの対決を望む声もいただいている一方で、誹謗中傷の声もたくさん聞こえてきます。「井上の名前を出すな」「亀田が井上には絶対に勝てない」等々。そうした声を紹介しだしたらキリがないほどです。でも、それでも、僕の今の最大のモチベーションは井上尚弥選手に勝つ事。だからこそ、僕は汗水流し毎日キツい練習もしている。練習量が勝つ為の絶対の自身に繋がっている。
――では今回なぜ、フェザー級に階級をあげたのか。
亀田 僕は2021年の12月に、WBA世界スーパーバンタム級5位という立場から、王座次期挑戦者決定戦で勝って、王者であるムロジョン・アフマダリエフに挑戦する権利を保持したんです。それから2年間、世界戦を待っていた。ところが、いつまで待っても(世界戦の)声がかからないわけです。
1回目の挑戦者決定戦が無効に…
――そして今年4月にムロジョンは、フィリピンのマーロン・タパレスに同王座を奪われることになった。世界主要4団体のうち、ムロジョンが持っていた2つのベルトがタパレスの手に渡った。
亀田 そこで、金平会長(金平桂一郎元協栄ボクシング会長。現在は、和毅氏が設立、所属しているTMK GYMの会長を務める)始めTMKスタッフは、交渉相手をタパレスに切り替えました。そして、WBAから5月に、タパレスとの対戦指令も下りたのですが……。翌日になって、その指令が撤回されてしまったんです。協栄ジム時代から何十試合、何百試合の世界戦を組んできた中、こんなことは今まで一度もなかったということでした。さらに、帝拳ジムの会長である本田明彦氏から金平会長に3年ぶりに電話があり、本田会長の元にもWBAから『タパレスVS亀田和毅』の試合がなくなった事を伝えられたと、金平会長が記者会見で明かしていました。これは前代未聞の事態で、一体なぜなのか理由はわかりません。
――その一方で井上選手は、7月25日に、WBC・WBO世界スーパーバンタム級王者のフルトンと対戦。見事TKO勝ちを納め、2つのベルトを手にした。井上選手がタパレスと対戦して勝てば、スーパーバンタム級も4団体統一が果たされることになる。
亀田 そんな中、WBAは僕に対して、“挑戦者決定戦の再司令”を出し、ムロジョン選手との対戦を要請してきた。僕が戦い勝った指名挑戦者決定戦はなんだったのか。理由を求めても、はっきりしたことは言わない。当然ながら「タイトルマッチを戦うには、挑戦者決定戦を2回勝て」なんて、どこにも書かれておらず、『WBAのルールブックにもその様な記載は一切ないし、もちろん承認料支払い一覧表にも記載がなく納付金の金額も記載がない』。
もう、なんでもありじゃないですか。他の選手は2回しているのですか、ということなんです。
これは金平会長も仰っていたのですが、ユーリ阿久井選手の動向が、良い例です。ユーリ選手は、日本タイトルを3回防衛して返上しました。そして、今年の2月4日に約1年ぶりの試合で、世界前哨戦に判定勝ち。一方、その直前の2月1日に発表されたランキングで1位にもなっていたのです。そんな流れの中、9月5日、アルテム・ダラキアン選手との指名試合が突如発表された。ユーリ選手は一度も挑戦者決定戦をしていないのにWBAから指名試合がかかり世界戦をします。僕もこの話を金平会長から聞いた時は驚きました。明らかに理不尽です。今後、この様なことが起きないように団体もボクシングコミッションもしっかりとした対応をしてもらいたい。
フェザー級への転級
――いずれにせよそこで、フェザー級への転向を表明したと。
亀田 このままスーパーバンタム級に残ってタイトルマッチを待ったとしても、果たしていつ王者との対戦ができるのかわからない。身体的にもこの階級に居残るのはキツい。だからこそ、チームのみんなとも話し合い、フェザー級へあげる事を決意しました。まずは、3階級制覇を目指して頑張りたい。
――フェザー級で井上選手と戦うチャンスがあると?
亀田 僕が3階級制覇をしてチャンピオンベルトを持っていたとしたら、もし、井上選手がフェザー級に上げた時に日本人対決が見られるんじゃないかなと思います。
スーパーバンタム級が限界
――井上選手については現在どのように考えている?
亀田 現役選手の中で、間違いなく、全てにおいてトップだと思います。だからこそ、PFPでもトップスリーに入り、僕も学ぶ事が沢山あります。間違いなく強いと思います。ただ、階級が上がっていくことによって、対戦相手の身長・リーチ・骨格も変わってきます。これからの戦いに注目ですね。
――勝つ自信は?
亀田 もちろんあります。勝つ自信を持つ為の練習量は人一倍してきているつもりです。
リング上がる時は、勝つと思って上がっているので、どの相手でも思う事は一緒です。
――最後に何かメッセージがあれば。
亀田 小さい時からボクシングをしてきて、チャンピオンになった自分としては、これからのボクシング界を盛り上げたいという気持ちが強いんです。先月もTMKジムで、キッズボクシング大会を開催しました。これからの若い世代へ向けて、ボクシングの楽しさを伝え、ボクシングを通じて持てる夢を伝えたい。だからこそ、日本人同士の対決という、注目を浴びる試合をして、未来の子供達へ向けてこのスポーツを広めていきたいと思っています。
デイリー新潮編集部