ブルージェイズが急浮上した理由

 現地時間12月4日、米テネシー州ナッシュビルでゼネラルマネージャーや球団幹部、選手の代理人などが一堂に集まるメジャーリーグのウインターミーティングが始まった。最大の関心は大谷翔平(29)の去就。当初は「即決もあり得る」とも予想されていたが、波乱の様相を呈してきた。

「ウインターミーティングの直前になって、移籍先としてブルージェイズが急浮上してきました。これまで全くの“ノーマーク”だったブルージェイズが『有力候補』となったのは、本命・ドジャースに対抗できる資金力があるからです。オーナーはメディアの複合企業で、カナダ唯一の球団ということで本拠地のトロントだけではなく、カナダが国を挙げて応援している。大谷の知名度を使って、世界的なビジネスが展開できるとの声が出始めたんです。一方で、エンゼルス残留説も消えていません」(現地で取材している米国人ライター)

 4日付のニューヨークポスト紙が「ある球団が大谷とウインターミーティング後に会う予定と証言した」と報じ、MLBネットワークが「大谷がジャイアンツの本拠地球場であるオラクル・パークを見学したようだ」とも伝えていた。「本拠地の見学」と聞き、ジャイアンツ入りかとざわついたが、その約2時間後に同局記者が「注意を払っておかないといけないチームがある。ブレーブスだ」と番組内でコメントしていた。また、米スポーツ専門メディアのジ・アスレチックも球団名こそ明かさなかったが、「2球団以上と面談した」と言っていた。

 まさに、情報が錯綜している状態だ。

「ドジャースとジャイアンツの球団幹部らは、ウインターミーティングの会場ホテルではない別のホテルに部屋をとっています。それ自体は珍しいことではないんですが、各球団の主要幹部が例年以上に警戒しているようでした。はっきりしているのは、ウインターミーティングの初日に、大谷と代理人のネズ・バレロ氏は会場で目撃されていないということです」(前出・同)

「即決もありうる?」と予想された理由は、主に2つ。

 ウインターミーティングの直前、「ブルージェイズ、ドジャース、カブス、ジャイアンツ、エンゼルスの5球団が最終候補に残った」と言われたこと。さらに、大谷がエンゼルスと契約した17年オフをさして、獲得交渉にあたったカブスのジェド・ホイヤー本部長(50)が「彼はフィーリング、直感を大事にするみたいだ」と発言。“直感”にしたがって、本命と称されるドジャースと一気に契約してしまうのではないか、と思われたという。

合意が長引く理由は複雑な契約条項

「もっともここに来て、大谷サイドに提示している契約の内容がそれぞれ複雑になっている可能性があります。どの球団も8年や10年といった長期を予定しており、見方を変えれば、現役生活を全うする球団を決める契約となります。大谷サイドも慎重にならなければなりません」(現地記者)

 MLBネットワーク、MLB.comなどによれば、最長「10年総額6億ドル(約900億円)」もあり得るとのこと。10年後といえば、大谷は39歳になっている。今オフに契約を結ぶ球団が“最後”となるかもしれない。その影響だろう。2度目にメスを入れた右肘のリハビリについて、こんな懸念材料も囁かれていた。

「前回18年の手術後、翌年は打者に専念して106試合に出場しましたが、20年に予定されていた投手復帰には失敗し、21年まで持ち越しとなりました。今回も投手復帰、つまり二刀流の復活まで相当の時間を要すると言われています。そうなると、来年はもちろん、再来年もDHに専念するかもしれません」(前出・同)

 そうなれば、6億ドルの総年俸を10年で均等割りすることに異論が出る可能性もある。来シーズンは投手復帰に向けたリハビリのサポートも必須で、その内容は大谷サイドも詳しく聞きたいはずだ。大谷には厳しい言い方になるが、前回の手術同様、投手復帰に2年掛かるとすれば、その時は32歳。「あと何年、二刀流を続けられるのか」という“年齢”との戦いも始まる。

 こうした状況も加味すると、交渉の内容は実に多岐に渡る。球団サイドにとっても「DH専念の24年」、「投手復帰が確実とは言えない25年」を「26年以降」と同じように扱うにはリスクがある。こんな指摘も聞かれた。

「26年、32歳で二刀流が完全復活しても、故障する前の今季前半のように、中5日や6日で先発登板し、登板した翌日もDHとしてフル出場することができるかどうか。エンゼルス在籍中も指摘されましたが、二刀流の大谷の登板間隔は一定ではないので、他の先発投手陣にも影響を及ぼす可能性もあります」(前出・同)

 大谷は二刀流での出場に強いこだわりを持っている。投手としての登板間隔についても細かく話し合わなければならないことも多い。

ドジャース監督の発言はどうなる

 ウインターミーティング2日目には「ハプニング」が起きてしまった。監督会見が行われたのだが、“本命・ドジャース”のデーブ・ロバーツ監督(51)が「来季の補強ポイントは?」と質問され、

「ショウヘイをどう使うかということだ」

 と答えたのだ。

 FA選手との交渉内容を明かすような発言は、球団、代理人双方ともNGとされている。ロバーツ監督もそのことを知らないはずがない。しかし、監督は以下のように続けた。

「ショウヘイと会って、話もした。うまくいったと思う。時間にして2、3時間。手応えはあった。私は嘘をつくようなことはしたくない。嘘を答えるのは難しい。交渉の詳細は伏せるが」

 その約1時間後、会場ホテル内でドジャースのブランドン・ゴームズGM(39)が記者団につかまった。ムッとした表情を見せ、「(監督の発言に)驚いている。知らない」と返した。「交渉過程を明かすのはルール違反ではないか?」とも問われたが、「言いたくない」と吐き捨て、足早に消え去ってしまったという。

「ルール違反かどうかのジャッジは、後日、MLB機構が下すと思われます。前例がないのでどうなるのかよく分かりませんが、大谷と交渉していた他球団がクレームをつけるかもしれませんし、ドジャースとの契約を止めるようなペナルティが出るかもしれません。代理人のバレロ氏は他の球団とも交渉していたはずです。本当にドジャースと話がついているのなら、他の球団はバレロ氏の言動に不信感を抱くでしょう。少なくとも、バレロ氏は怒っていると思います」(前出・現地記者)

 ロバーツ監督は22年にシーズン111勝をマークした名将であり、米軍に所属していた父親の関係で沖縄県那覇市出身だ。母親は日本人で、これまで無言を貫いてきた大谷の気持ちも理解してきたはずである。本人は日本語を話せないが、日系人監督の失態が大谷の交渉を混乱させてしまったのは間違いない。

デイリー新潮編集部