野球留学という言葉をご存知だろうか。佐々木麟太郎がアメリカのスタンフォード大学に留学する話ではない。留学といっても国内の、それも高校を対象にしたものだ。保護者の住む都道府県とは別の、かなり距離の遠い高校に入学し、野球部に所属することを意味する。

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 留学先としては私立の野球強豪校が目立つ。親元を離れて生活できるよう寮を整備している野球部も多い。

 代表的なパターンの一つに、関東圏や関西圏で生まれ育った中学生が活躍の場を求め、東北や北陸などの高校へ進むケースが挙げられる。

 都市部は野球人口が多く競争が激しい。地元の強豪校に進んでも活躍できない可能性がある。そのため地方の甲子園常連校に進むというわけだ。

 少子化の進む地域なら、レギュラー入りも夢ではない。高校側の積極的なスカウト、リトルリーグやシニアリーグの関係者による売り込み、果てはブローカーの存在まで報じられるなど、昔から物議を醸してきた。

 一方、高校は義務教育ではないため、生徒の選択を尊重する意見も多い。地域の活性化に寄与したり、過疎化が止まったりした自治体もある。経済的な問題を抱えている中学生が特待生制度などにより高校教育を受けられるメリットも指摘されてきた。

 少し古いが、複数の全国紙が世論調査を行ったこともある。読売新聞が2007年5月に行った調査では、次のような質問項目が用意された。

地元中を卒業していない部員

《高校野球では、選手が出身県以外の強い高校に入学する、いわゆる「野球留学」によって、主力メンバーの大半を県外出身者が占めるチームもあります。あなたは、こうした野球留学について、一定の歯止めが必要だと思いますか、それとも、今のままでよいと思いますか》

 この質問に対し、「歯止めが必要だ」は46・3%、「今のままでよい」が34・8%、「どちらとも言えない」が16・3%となった。

 翌08年3月には毎日新聞が調査を実施。「日本高校野球連盟に最も望むことは何ですか」との質問に、「野球留学の特待生を禁止してほしい」と答えたのは、わずか11%に過ぎなかった。

 読売新聞の調査からは、野球留学に関する賛否は拮抗していることが分かった。毎日新聞の調査からは、野球留学の是非について、かなりの人が重要な問題とは考えていない可能性が浮き彫りになった。

 3月18日、第96回選抜高等学校野球大会が開幕した。「春の甲子園」、「センバツ」などと呼ばれることが多く、今年は一般選考の30校に、21世紀枠の2校が加わり、合計32校が出場を果たした。

 毎日新聞出版が発行する『センバツ2024 第96回選抜高校野球大会公式ガイドブック』(サンデー毎日編集部)ではベンチ入りする選手のプロフィールを紹介している。

 ベンチ入りできる部員は20人が上限。ガイドブックには選手の出身中学校も記されており、高校とは違う都道府県の場合は(東京)(千葉)(大阪)などと記載されている。

トップ5は全て私立高

 これを使って、「ベンチ入り選手に占める、野球留学生の可能性がある部員の割合」を計算してみた。保護者の転勤などで引っ越した部員も含まれている可能性はあるが、それも1人とか2人だろう。10人とか15人という高校では、野球留学生を積極的に受け入れている可能性が高い。では、トップ5をご覧いただこう。

【1位】95・0%
日本航空高等学校石川(石川県輪島市)

【2位】90・0%
高崎健康福祉大学高崎高等学校(群馬県高崎市)
京都国際中学校・高等学校(京都府京都市)

【4位】85・0%
山梨学院中学高等学校(山梨県甲府市)
創志学園高等学校(岡山県岡山市)

 トップ5のうち、全てが私立の高校だった。1位の日本航空石川はベンチ入りした20人のうち、石川県の中学校を卒業した部員は1人だけだった。富山県の中学校を卒業した部員が4人と最も多く、次は兵庫県の3人、大阪府と福岡県が2人ずつだった。

 2位の健大高崎は群馬県の中学校を卒業した部員は2人。東京都の中学校を卒業した部員が6人と最も多く、続いて北海道、神奈川県、栃木県が2人ずつだった。

 同じ2位の京都国際中学校・高等学校は前身が在日韓国人向けの民族学校。大韓民国からも正規の学校として認可されており、2004年度から一般に門戸が開かれた。最多は大阪府で7人、滋賀県が3人、兵庫県と北海道が2人ずつだった。

異色の熊本国府

 4位の山梨学院は、山梨県の中学校を卒業した部員は3人。最多は岐阜県の4人で、東京都と神奈川県が3人ずつだった。同じ4位の創志学園は、最多が大阪府の7人で、兵庫県が5人と続いた。

 一方、ベンチ入りした部員のうち、学校の所在地とは異なる都道府県の中学校を卒業した部員は0人という野球部は6校あり、公立が5校、私立が1校だった。また21世紀枠の2校も、この中に入っている。北から順にご紹介しよう。

◆北海道別海高校(北海道別海町)※道立、21世紀枠
◆三重県立宇治山田商業高等学校(三重県伊勢市)
◆和歌山県立田辺高等学校(和歌山県田辺市)※21世紀枠
◆和歌山県立耐久高等学校(和歌山県湯浅町)
◆徳島県立阿南光高等学校(徳島県阿南市)
◆熊本国府高等学校(熊本県熊本市)※私立

 ちなみに熊本国府は私立校で0人という珍しいケースで、公式ガイドブックにも「部員全員が熊本県内出身者」、「私立校ながら熊本県内の選手のみで、中学の軟式野球経験者が多数を占める」と明記されている。

デイリー新潮編集部