「ゆくゆくは東京五輪で金メダルを獲りたい」

 2017年2月、京都大学工学部3年生だった山西利和(23)は週刊新潮記者の取材にこう答えていた――。

 ドーハで行われた世界陸上男子20キロ競歩で山西が金メダルを獲得した。日本選手のこの種目でのメダル獲得は五輪、世界選手権を通じて初の快挙である。

 だが、ゴール後の山西に笑顔は無し。むしろ銀や銅の選手の方がはしゃいでいて、奇妙なくらいだった。

「最終目標が東京五輪だとはいえ、それに準じる大舞台の世界陸上、それも五輪前年に各国の有力選手がガチンコで勝負する大会ですからね。少しくらい喜んでもいいと思うのですが」

 と現地で取材したライターが語る。

「記者会見でも“やりきれない感じ。もっと圧倒的な強さを見せたかった”と心底不満そうでした」

 レースは、7キロ過ぎから山西がトップに立ち、そのまま“独歩状態”でゴール。十分に強さを見せつけたと思うのだが……。

 笑顔なき快挙――その謎を解くカギは、冒頭の取材にあった。山西は、

「競歩は、陸上競技で唯一の判定種目で“失格”があるんです。したがって単に速ければいい、がむしゃらに手足を動かせば勝てる、というわけではありません。レースでは、ライバルの警告カードの枚数を確かめながら、どこでスパートをかけるかを考える。そんな駆け引きがおもしろいんです」

 とも語っていた。

「おそらく彼は数学の問題を解くような感覚でレースをしているのでは?」

 とは先のライター。京大の入試は、答えだけでなく思考過程を書く欄が大きく取られているのが特徴だが、

「ライバルたちの歩きを分析した山西は、ゴール前まで競り合い、最後に抜き去る展開を思い描いていたそうです。つまり、“金”という解を得たものの、その“過程”は間違っていた。それが不満なのでしょう」

 東京五輪ではどんな答案を提出するのか。

「週刊新潮」2019年10月17日号 掲載