コロナ禍により開幕が大幅に遅れ、どの球団もようやく70試合前後を消化したばかりの今シーズンのプロ野球。その中で昨年のセ・リーグ新人王、東京ヤクルトスワローズの村上宗隆(20)が目覚ましい活躍を見せている。

 9月9日現在、打者の評価に用いられる指標であるOPS(出塁率と長打率を足した数値)は1.000で堂々のリーグトップ。打率.329は2位、打点50は4位にランクされている。特筆すべきは打率で、昨年は規定打席到達者30人中ワーストの.231だったから、実に1割近くも上げていることになる。

 ここまで2安打以上のマルチヒットは25回、うち3安打以上の“猛打賞”が6回。開幕戦で6打数2安打をマークして以降、打率が3割を切ったことは一度もなく、2試合連続ノーヒットも3回しかない。今シーズンに関しては、その安定感はNPB歴代1位の通算打率.325を誇る「燕の安打製造機」青木宣親をも上回る。

「大人になったんじゃないですか。バッティングがね」

 今シーズンの村上をそう評するのは、ヤクルトのOBで、現在はルートインBCリーグの福島レッドホープスで代表取締役兼監督を務める岩村明憲氏だ。

「状況を考えたバッティングができるようになったんじゃないですか。優先順位の中で勝ちたいっていう気持ちが強くなったら、そうなると思うんですね。振り回す打撃がすべてじゃないって」

 昨シーズンの村上はセ・リーグ3位、10代の選手としては史上最多の36本塁打を放つ一方で、岩村氏が2004年に記録したNPB日本人歴代最多の173三振を上回る184三振を喫するなど、良くも悪くも常にフルスイングという印象があった。だが、今年はタイムリーやホームランを打った際のコメントに「コンパクトに」という修飾語が付くことが多くなっている。

「ヤクルトの4番だとココ(ウラディミール)・バレンティン(現ソフトバンク)が(日本記録のシーズン本塁打)60本打ったっていうのもあるし、それを目指したいのも分かるけど、それだけじゃないっていうのを村上君も理解したんでしょうね」

 実はヤクルトの球団史を紐解いてみても、村上のような左打ちの“和製”スラッガーは少ない。日本人の左バッターで年間30本以上のホームランを放ったのは、昨年の村上を含めわずか3人。その1人が、これを3度にわたって記録し、2004年には左右を問わず日本人選手としての球団記録となる44本塁打をマークした岩村氏である(ほかに1985年に杉浦享が34本塁打)。

 村上は今シーズンも、7月2日の広島東洋カープ戦でのサヨナラ満塁ホームランのような印象的な一発も打っているが、ここまで12本塁打はリーグ8位タイ。それでも岩村氏は、自身の持つ日本人としてのホームラン球団記録更新は「時間の問題でしょう。今年は厳しいかもしれないですけど、本当に時間の問題だと思いますよ」と太鼓判を押す。さらに──。

「(期待は)無限大じゃないですか。本当にスーパーサイヤ人になることですよ(笑)。(ホームランを)50発、60発っていう期待もあるし、それと同時にもちろん3割も打ってほしいし、150打点ぐらいっていうのもあるだろうしね」

 あえて注文をつけるとしたら、それは守備だという。村上は昨年、一塁と三塁を守って計15失策。今年は守りでも成長を見せているが、ここまで8失策を記録している。

「まだできますよ、彼なら。そこは期待を込めてっていうことになりますけど、まだまだ上(のレベル)に行けます」

 昨年は一塁で117試合、三塁で24試合に先発したが、今年は現時点で一塁手として32試合のスタメン出場に対し、三塁手としては36試合。駆け出しの頃は「(守備で)ピッチャーに迷惑をかけた」と言いながらも、後にゴールデングラブ賞6回受賞の名三塁手となった岩村氏は「そこはチーム事情もある」と理解を示しつつ、将来的にはサード一本でとエールを送る。

「自分もそうだったんで、キャッチャー上がりからサードをやる難しさは分かるんですよ。プロでそう簡単になれるもじゃないんでね。自分は若松(勉)監督に腹を括っていただいて、それに対して恩返しをできるように必死に守備練習をやっていました。守備練習って、やればやるだけ上手くなるのでね。だから攻撃だけじゃなくて、守備でもゴールデングラブ賞を取れるようという期待もあります」

 一時は打率、打点でリーグトップに立っていた村上も、9月に入って調子を落とした。5日の中日ドラゴンズ戦では9回裏1死満塁というサヨナラのチャンスで空振り三振に倒れると、翌日にかけて4打席連続三振。8日の広島戦は2つの四球で出塁するも2打数無安打で、今季3度目の2試合連続ノーヒットとなった。

 これで9月は、8日までの7試合で打率.192、1打点。6・7月の月間MVP受賞の際に「僕は打てなかった試合の方が、すごく心に残って悔しい思いがある」と語っていただけに、内心忸怩たるものがあったはずだ。チームがなかなか勝てない状況で、4番バッターとしての責任も痛感したことだろう。

 それでも今季からヤクルトの指揮を執る高津臣吾監督が、村上を4番から外すことはなかった。開幕前から「よっぽどのことがない限り(4番から)外すことはないと思います」と公言し、「そんなところで外れてる4番バッターは本当の4番バッターだとは思わないですし、本当の4番バッターに育てるためには、外すことが良いとも思わない。使い続ける覚悟でいます」と話していたからだ。

 指揮官いわく、村上は今でも「ずっと成長過程の選手」。たとえ結果が出なくても、その苦しさを糧にさらに成長していってほしいという思いがある。

 9月9日の広島戦。村上はそれまでのうっぷんを晴らすかのように、7回に12試合ぶりとなる12号ソロ、8回には1点差に詰め寄るタイムリーを放つなど、今季6度目の猛打賞。チームは7点のビハインドを跳ね返し、10対10の引き分けに持ち込んだ。

 苦しんだ経験を糧に、村上がここからどのようにさらなる進化を遂げるのか。今シーズンも残り50試合あまり。「令和の怪童」から、最後まで目が離せない。

菊田康彦(きくた・やすひこ)
静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。30年を超えるスワローズ・ウォッチャー。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月12日 掲載