シーズン終盤の怒涛の連勝で一気にパ・リーグ優勝を決めたソフトバンク。過去2年間は日本一を達成しながらも、レギュラーシーズンでは西武の後塵を拝していただけに、感慨もひとしおだろう。だが、優勝の翌日、大きなニュースが新聞各紙を飾った。長年チームを支え続けてきた内川聖一の退団が決定的となったのだ。11月1日の二軍最終戦では、自身の口から今シーズン限りでホークスのユニフォームを脱ぐと明言した。内川は2011年にFAで横浜から移籍すると、昨年までの在籍9年間でシーズンMVP1回、クライマックスシリーズMVP3回、日本シリーズMVP1回を受賞するなど、チームの6度の日本一に貢献している野手ではトップとも言える功労者である。今年はここまで一度も一軍昇格を果たすことなく、その去就が注目されていたが、現役続行を目指して本人から退団の申し入れがあったと報じられた。

 ここ数年は故障もあって成績が悪化していたものの、打撃技術の高さはまだまだ健在で、今年も二軍では3割を大きく超える打率をマークしている。また昨年はファーストの守備でも失策ゼロと安定したプレーを見せ、初のゴールデングラブ賞に輝いた。本人も体調面は何の問題もないと語っており、出場機会さえ与えられれば、まだまだ戦力となる可能性は高く、既に複数球団が獲得に向けて調査に動いている。果たして内川を必要とする球団はどこなのか。現有戦力を見ながら考えてみたい。

 まず一部では巨人が内川獲得に熱心と報じられている。原辰徳監督は2009年のWBCでチームの指揮を執り、見事に優勝を果たしているが、その時の主力だった選手は杉内俊哉、村田修一、片岡治大、中島宏之、岩隈久志と5人もの選手が大会後に巨人入りしており、その流れに内川も乗るのではないかというのが根拠とされる。

 しかしながら、巨人のチーム事情を考えると、ファーストを守るベテラン選手という意味では中島と完全に重なってしまう。中島と内川は同学年で来年ともに39歳。野手の世代交代が今後の課題となってくるチームの中で、この二人を共存させるというのは簡単なことではない。ファーストの候補としてはウィーラー、陽岱鋼のベテラン二人がいるだけに、獲得を反対する声が出る可能性も高いだろう。

 巨人とともに大きく報じられたのが中日だ。ファーストは開幕からビシエドが守り続けており、打点王争いを演じるなど安定した成績を残してきたが、10月28日の阪神戦で左肩を負傷。この怪我が思いのほか重傷で、来シーズンの開幕にも影響するとも言われている。代役として期待された福田永将も30日の広島戦で負傷し、翌日には登録抹消となっている。この二人以外で、今年ファーストを守った選手は、内野のユーティリティプレーヤーである堂上直倫と捕手登録のA.マルティネス、外野手登録の武田健吾などだ。今年はマイナーリーグがシーズン中止となり、例年以上に来季に向けた新外国人獲得も難しいと言われており、たしかにファーストが手薄なのは間違いないだろう。

 ただ、一つ気になるのが、今季限りでの阪神退団が決定的になった福留孝介の存在だ。福留自身も中日復帰を希望していると言われており、もし福留も内川も獲得するようなことになれば、一軍の枠を大ベテラン二人に使う可能性が高くなる。巨人以上に野手の世代交代が必要なチーム事情を考えると、この判断は得策ではない。慎重に動向を見極めながら判断する必要がありそうだ。

 他にはヤクルト、ロッテなどが興味を示していると報じられているが、ヤクルトは青木宣親という生え抜きの大ベテランがおり、ロッテは昨年、阪神を退団した鳥谷敬を獲得していることを考えると、これ以上、大ベテランを増やすのはチームの若返りを妨げることにもつながりかねない。

 そんな中で候補として浮上してきそうなのが広島だ。野手最年長だった石原慶幸が今シーズン限りでの引退を発表しており、ファーストの松山竜平もシーズンを通して出場し続けるのは苦しい年齢となっている。何よりも、広島は内川が高校時代から高く評価しており、FA権を行使した時にも球団史上初めて獲得に乗り出したという経緯がある。当時は資金力の差もあってソフトバンクには全く太刀打ちできなかったが、今の状況であれば金銭面でそこまで激しい争奪戦になることは考えづらい。あまり、他球団の大物選手を調査する球団ではないが、過去には横浜を退団した石井琢朗を獲得した実績がある。新井貴浩、石原とチームを支えてきた生え抜きのベテランに代わる存在として、内川に白羽の矢を立てても全くおかしくはない。

 冒頭でも触れたように、昨年は一年を通して一軍でプレーしており、今年も二軍では圧倒的な成績を残しているようにまだまだ選手としての余力があることは間違いない。史上二人目となる両リーグでの首位打者を達成した“希代のバットマン”の獲得を熱望する他球団のファンも多いだろう。果たしてどの球団で現役を続行するのか。このオフの大きな話題の一つとなりそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月3日 掲載