19奪三振を記録

 東京五輪で悲願の金メダル獲得を狙う侍ジャパンだが、怪我の会沢翼(広島)、中川皓太(巨人)に続いて、先発の一角と見られていた菅野智之(巨人)がコンディション不良による出場辞退を発表した。

 大会前から暗雲が立ち込めている状況だが、そんな中で高い期待がかかるのが追加招集された伊藤大海(日本ハム)だ。ルーキーながら開幕から先発ローテーション入りを果たすと、開幕直後は味方の援護がなく勝ち星に恵まれない試合が続いたが、セ・パ交流戦では3勝0敗、防御率0.90という圧巻のピッチングを見せて敢闘賞にあたる「日本生命賞」を受賞。7月10日の試合では、7回1安打無失点、7奪三振とロッテ打線を封じ込め、チームトップの7勝目を挙げるなど、パ・リーグ最下位に沈むチームで健闘を見せている。

 普段、アマチュア野球に接しないファンからすると、まだまだ知名度は低く、ルーキーに菅野や中川の代役は荷が重いのではという意見もある。しかし、大学時代に見せていた伊藤のパフォーマンスは、プロでも即通用するだけの圧倒的なものだった。

 特に、圧巻だったのが昨年秋のリーグ戦、対函館大戦だ。この日は10球団のスカウトが集結し、地元のテレビ局など多くの報道陣も訪れる中での試合だった。伊藤は立ち上がりから150キロを超えるストレートと多彩な変化球で圧巻のピッチングを披露。2回から3回にかけては6者連続三振をマークしている。

 試合自体は味方の援護がなく、延長10回に味方のエラーと不運な内野安打をきっかけに1点を奪われてサヨナラ負けを喫したが、最終的に19奪三振を記録しており、居並ぶスカウト陣からも感嘆の声が漏れていた。

 ちなみに、この試合で伊藤が投じたストレートの平均球速は147.8キロ。これはプロの先発投手の中でもトップクラスで、延長10回まで一人で投げ切ったことを考えても驚きの数字と言えるだろう。

高レベルで操る多彩な球種

 伊藤の凄さはもちろんスピードだけではない。カットボール、スライダー、ツーシーム、チェンジアップとスピードの異なる横変化の対になるボールをそれぞれ2つずつ操り、さらには緩急をつけるカーブも110キロ台と100キロ前後のスローカーブの2種類を駆使していた。

 また、鋭く落ちるスプリットも低めにきっちりと集めており、これだけ多彩な球種を高レベルで操る大学生は、過去を振り返っても記憶にない。ドラフト会議では、サウスポーという希少性の高さから早川隆久(楽天)が人気を集めたが、大学4年時点での実力であれば、間違いなく伊藤が上回っていたと言えるだろう。

 さらに伊藤の持つ強みが、早くから大学日本代表として国際舞台を経験しており、そこではクローザーとしても結果を残してきたという点だ。

 大学時代の国際大会は3大会、合計15試合に登板しているが、そのうち14試合がリリーフでの起用であり、失点はわずかに1という圧倒的な成績を残している。

 先発で登板する時は先述したように多彩な変化球を操って試合を作るが、リリーフの時はストレートの勢いが明らかにアップし、球威で圧倒することもできるのだ。

奪三振率は9.59

 大学3年秋に参加した大学日本代表候補合宿での紅白戦では、大学球界を代表する強打者を相手に2イニングをパーフェクト、4奪三振というピッチングを見せたが、この時投じた30球のうち29球がストレートだった。このように場面に応じてピッチングを変えることができるというのも見事という他ない。

 プロで早く活躍するなら抑えという声も多かったが、これまでに登板した13試合で5回を投げ切ることができなかったのはわずかに1回で、先発として素晴らしいパフォーマンスを見せている。奪三振率は9.59と、先発でありながら、イニング数を上回る三振を奪っているというのも頼もしい限りだ。

 伊藤とともに追加召集された千賀滉大(ソフトバンク)は、怪我からの復帰戦となった6日のロッテ戦で3回途中10失点と、東京五輪に向けて不安を残す内容だっただけに、伊藤にかかる期待はますます大きくなる。大学時代、そしてプロでここまで見せているパフォーマンスを考えれば、侍ジャパンの救世主となることは十分に期待できるだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月12日 掲載