「負けるべくして負けた」

「無為無策」――日本の試合を見ていて後半途中から頭に浮かんだのは、この四文字熟語だった。W杯アジア最終予選、日本はオマーンに0−1で敗れた。

 ***

「無為」とは「何もしないで手をこまねいている」こと、そして「無策」とは「起こった事態に対して効果的な対策や方法がとれない」ことと三省堂『新明解四字熟語辞典』にある。

 ホームでの屈辱的な敗因として、日本の主力は海外組のため、時差調整やコンディション維持が難しい。それに対しオマーンは、ブランコ・イバンコビッチ監督の母国セルビアで1ヶ月近くキャンプを行い、入念な準備が行われたことを指摘するメディアもあった。

 しかし、日本の主力が“海外組”なのは今に始まったことではない。そして今回はコロナの影響で、オマーンだけでなく中国やベトナムもリーグ戦がないため長期合宿をしていると聞く。過去にもサウジアラビアなど中東勢は、国内リーグより代表を優先して強化合宿を行い、W杯予選の日本戦に臨んできた。

 そしてこれまでの日本は、そうしたハンデがあったとしても、結果を残してきた。にもかかわらず、今回オマーンに「あり得ない敗戦」(長友佑都)を喫したのは、次の2つの理由からだ。

 森保一監督が送り出したスタメンは、負傷の冨安健洋と南野拓実をのぞけば、ほぼ不動のベストメンバーだった。これはこれで、悪いことではない。あえて奇をてらう必要はないと思うからだ。

工夫ゼロの日本

 問題は、オマーンのイバンコビッチ監督が“日本対策”を十分に練ってきたのに対し、森保監督にもピッチで戦う選手にも、工夫がまったく見られなかったことである。

 絶対的な1トップの大迫勇也に対し、CBアルハミシがマンマークで着きつつ、CBのアルハブシとボランチのアルサーディがプレスバックする形で囲い込み自由を奪った。トップ下の鎌田大地に対しても、ボランチのアルアグバリとファワズがスペースを消すことで日本のホットラインを遮断。

 さらに伊東純也は、得意のスピードが左SBアルブサイディにまったく通じない。前半のオマーンは攻め込んだ後に日本から見て左サイドにスペースがあったため、原口元気と伊東でポジションをチェンジしても面白いと思ったが、そうしたアイデアは選手もベンチも思い浮かばなかったようだ。

 後半に入り森保監督は原口に代えて古橋亨梧を投入した。原口は、攻撃はもちろん、守備でも強度の高いプレーができる。5年前のロシアW杯アジア最終予選の初戦で日本はUAEに1−2と逆転負けを喫した。勝利の立役者となったのが、中東史上最高の司令塔と言われたオマル・アブドゥルラフマンだった。しかしリベンジとなったアウェーの試合では、左MF原口がSB今野泰幸とのコンビでオマルを完封した。

オマーンのレベルアップ

 裏に抜けるプレーを得意とする古橋を投入するなら、孤立している大迫か、同じタイプの伊東ではないか。負けているならともかく0−0なら、守備面を考えれば原口はピッチに残しておいた方がいいのではないか。まして原口は19年アジアカップのオマーン戦で後半にPKを獲得し、自ら決勝点を決めている。そして伊東と交代させるなら、古橋はセンターでのプレーを得意とするだけに、大迫との2トップによる4−4−2にする手もあった。

 しかし森保監督は、古橋を原口と同ポジションに起用する、最小限の変更にとどめた。ところが、オマーンの右SBアルハルティも、古橋に負けず劣らず俊足の持ち主だった。後半2分、アルハルティのドリブルによる攻め上がりを古橋は必死で追ったが、ボールを持っていないにもかかわらず古橋は自陣近くになって追いつくのがやっとだった。

 アウェーでのリターンマッチでは、この俊足の両サイドバックをどう封じるかもカギになるはずだ。

 このように、日本のストロングポイントは研究され、対策を施されてきた。にもかかわらず、日本はオマーンに対し、あまりにも「無為無策」だった。

 そして日本が「負けるべくして負けた」(吉田麻也)もう1つの理由は、オマーンが間違いなくレベルアップしているからに他ならない。

日本の進化は「頭打ち」

 そしてそれは、今に始まったことではなく、森保ジャパンの初陣となった19年1月のアジアカップでも経験している。

 結果こそ準優勝だったが、完勝したと言える試合は準決勝のイラン戦(3−0)だけ。トルクメニスタンとウズベキスタンには先制を許し、オマーンとサウジアラビア、ベトナムにはPKとCKからのゴールで1−0の辛勝と、試合内容でも劣勢を強いられた。

 日本は、例えば前回ロシアW杯の海外組は、フィールドプレーヤーに限れば14人だった。遠藤航や植田直通、昌子源らは浦和や鹿島でプレーしていた。今回は酒井宏樹と大迫こそ“国内組”になったものの、海外組の比率は年々高まるばかりで、その傾向はW杯のたびに強くなってきた。

 ところが、海外組の比率が高まるのと反比例して、W杯アジア最終予選で日本は苦戦を強いられている。その原因は、日本の成長度合いが「頭打ち」に近いのに比べ、オマーンやベトナム、UAEやシリアといった“アジア第2グループ”の国々の成長度合い、伸び代が大きいからに他ならない。

 オマーンの2トップ、長身FWのアルハジリは吉田と空中戦で互角以上に渡り合った。もう1人のFWアルアラウィはスピードを武器に日本ゴールに迫った。

リーダーシップの不在

 攻撃はシンプルにアルハジリへのアーリークロスから、こぼれ球を拾って2次攻撃につなげ、サイドで1対1なら躊躇(ためら)うことなく勝負を仕掛けてタテへの突破を狙っていた。

 オマーンの攻撃パターンは多彩ではなく限られたものではある。だからこそ、それを徹底してきた。日本は中央突破もあればサイド攻撃もあり、どこかれでも攻められるが、逆にそれが機能不全に陥ると簡単に修復できない弱点を露呈した。本田圭佑のような強烈なリーダーシップを発揮できるタレントが攻撃陣にいないため、ひ弱な印象を受けるのは私だけではないだろう。

 失点に関しては、オマーンが時間稼ぎのためにクロスを上げてこないだろうという油断があったのかもしれないし、負傷交代で入ったばかりのアルサビへの警戒心が希薄だったのかもしれない。

 いずれにしても、失った勝点は戻って来ないため、9月8日(日本時間・以下同)にドーハで行われる中国戦に全力を尽くすしかない。すでに中国は3日にオーストラリアと対戦し、0−3で敗れている。現地ですでに1試合を消化したアドバンテージはあるものの、日本と同様に2戦目にして早くも正念場を迎えている。

冨安健洋の鋭い指摘

「内容が悪くても結果だけは譲らないことも必要になる。その意味で中国戦はどんな内容であれ、勝点3を取ることが必要です」とは、一足先にドーハ入りしている冨安健洋の、オマーン戦を見た後の感想だ。

 そしてエースストライカーの大迫はオマーン戦を振り返り「言い訳できないので、負けたので」と振り返りつつ、中国戦は「もう僕らには後がないので、必死に勝点3を取りに行きます。ここからもう1つも落とせない試合が始まるので」と現地入り後に決意を語っていた。

 中国戦では、改めて日本の柔軟な「対応力」が問われることになるだろう。試合が始まって、当初のゲームプラン通りでいいのか、それとも変更すべきなのか。いずれにせよ「無為無策」だけは勘弁して欲しい。

六川亨(ろくかわ・とおる)
1957年、東京都生まれ。法政大学卒。「サッカーダイジェスト」の記者・編集長としてW杯、EURO、南米選手権などを取材。その後「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月5日 掲載