大谷・トラウト中心のチーム方針に「ウソはない」

 米大リーグで注目を集めていたエンゼルスの大谷翔平(28)のトレードは動きがないまま、8月2日午前6時(日本時間3日午前7時)の期限を迎えた。昨季MVP、今季も二刀流で驚異的な活躍を続ける大谷を巡っては、エンゼルスが低迷を極めていることから、かねて移籍話が取り沙汰されてきた。今シーズン中の期限内には成立しなかったとはいえ、複数球団がエンゼルスに話を持ちかけていたことが明るみに出た。この状況は今オフも変わらず、火種は燻り続ける。【津浦集/スポーツライター】

 トレード期限切れを迎え、MLBで長く活動する代理人は当然といわんばかりに言った。

「この夏のトレードは九分九厘ないと思っていた。球団は今春のキャンプで大谷の代理人と交渉したが、条件提示まで至らなかった。シーズン中は交渉の話をシャットアウトするのが大谷の基本スタンス。つまりエンゼルスは大谷と本格的な残留交渉ができてない。テーブルに着いたばかりで大谷を放出することは考えられない。オフは万策尽きるまで残留を目指していくはず」

 エンゼルスのミナシアンGMは、主砲トラウトとともに大谷を中心に据えたチーム作りを目指す方針を示している。トラウトとは2019年からの12年総額4億2650万ドル(約473億円/為替レートは当時のもの、以下同)の超大型契約の真っ最中だ。23年終了後にFAになる大谷とも同規模の契約を見込む。両MVP経験者がピークにあるここ数年のうちにワールドシリーズ制覇という青写真で、先の代理人も「2人を中心にするというGMの言葉にウソはないと思う」との見立てだ。

 しかし、大谷のエンゼルス残留には、いばらの道が待ち受ける。

 トラウトのほか、レンドンとも20年から7年総額2億4500万ドル(約267億円)の大型契約を結んでいる。昨季は腰の手術で8月上旬にシーズンが終わり、今季は右手首の故障で6月中旬に早々とシーズン絶望となった。「史上最悪のFA契約になる可能性がある」と囁かれるほど不良債権化しつつあっても今後、巨額の年俸を払い続ける。ここにシャーザー(メッツ)の史上最高4333万ドル(約49億円)超の年俸とされる大谷の契約が加われば、この3選手で資金の大半の使途が決まり、他の補強に手が回らなくなる。

「エンゼルスは扉を閉ざしていなかった」

 23年オフにFAになれば、エンゼルスは何の見返りもなく、みすみす大谷を手放すことになる。トレードなら他球団からトッププロスペクト(若手有望株)や主力選手を複数、獲得できる。これが今回の「大谷トレード説」の根拠にもなっていたが、今オフ、そして来季に入っても基本的な構図は変わらない。

「エンゼルスは大谷との契約延長交渉をしながら不調に終わる場合に備え、並行してトレードを模索していくはず。特に今回、エンゼルスは他球団に話し合いの扉を閉ざしていないことが分かった。この事実が重いことは強調したい」(前出の代理人)

 今夏はメッツ、マリナーズ、ドジャース、パドレス、カージナルス、ホワイトソックス……、多くの球団がトレード先に取り沙汰された。そして、期限切れ前日にはヤンキースがエンゼルスに打診していたことが発覚した。

「やはり動いていたのか、と。ヤンキースは(ア・リーグ東地区の)首位を独走しているが、(09年以来の)ワールドシリーズ制覇を目指す上で大谷は投打に切り札になり得る。ヤンキースは特に先発投手陣にさらに厚みを持たせたかったようだ。そもそも(17年オフに)日本ハムからポスティング移籍を目指した際は獲得に前向きだった。今回はエンゼルスが(大谷放出に)切羽詰まった状況ではなく、交渉時間も限られていたと思うが、オフは違う。十分に時間はある。今回、エンゼルスとの話し合いで足掛かりはできた。仮に今季ワールドシリーズ制覇を逃すことになれば、本腰を入れてくる」(同)

終わりの始まりに過ぎない

 この代理人によると、最初のヤマ場は12月4日〜11日のウインターミーティングに訪れる。毎年、各球団の幹部と代理人が一堂に会し、移籍交渉が活発化するイベントだ。19年にはコールとヤンキース、ストラスバーグとナショナルズ、そしてレンドンとエンゼルスの大型契約がまとまった。今年は、大谷の去就が最大の焦点になりそうだ。

 次は年俸調停の公聴会が開かれる、来年2月のキャンプイン前だという。エンゼルスは契約延長で大谷と合意できなければ、来季単年の契約を結ぶことになる。今季で2年契約が終了する大谷は来オフに再び、年俸調停の権利を得る。代理人はこの2年間の実績をタテに、最低でもレッドソックス時代のベッツ(ドジャース)の史上最高年俸2700万ドル(約29億7000万円)に匹敵する条件を要求するとみられている。

「前例のない選手の評価だから、大谷側の要求と球団提示がかけ離れるかもしれない。大谷側はこの2年、850万ドル(約8億9000万円)という破格の安さでプレーしており、簡単には妥協しないだろう。ただ調停、調停回避どちらにしても、単年契約になった時点で大谷のFAでの流出はほぼ確定。球団が大型契約に失敗したことを意味するからだ」

 代理人によると、どちらのヤマ場でもヤンキースの動向には要注目という。

「エンゼルスが大谷との交渉に難航しているとみれば、トレードを打診する可能性はある。交換要員のトッププロスペクトを複数擁し、資金力も豊富。当然、大谷との大型契約を見据えたトレード、それも大谷対複数のブロックバスター(超大型)トレードなる」

 日本ハムから移籍時、ヤンキースは本命視されながら面談さえ受けられず、大谷にソデにされた。レッドソックスやレイズなどと同じメジャー随一の激戦区に所属し、メディアも辛辣な土地でのプレーを選ばなかった大谷を、ニューヨークのメディアは「臆病者」などと批判した因縁がある。「現代のベーブ・ルース」とも呼ばれる大谷が、元祖と同じくヤンキースタジアムでピンストライプのユニホームに袖を通し、投打に躍動することはあるのか。

「オフシーズンが深くなるほど、いつビッグニュースが飛び込んできても不思議ではない」(同)

 今シーズンいっぱいはエンゼルスでプレーすることが確定しただけで、大谷の去就を巡る“狂想曲”は終わりの始まりに過ぎない。

津浦集(つうら・しゅう)
スポーツライター

デイリー新潮編集部