関東と近畿に集中

 夏の甲子園で、東北勢で初めて栄冠に輝いた仙台育英。須江航監督が優勝インタビューで語った「青春って密」という言葉がコロナ禍に苦しむ人々の共感を呼ぶなど、改めて高校野球が持つ影響力の大きさを感じた人が多かったのではないだろうか。しかし、その一方で、近年の高校野球は、見過ごせない“格差問題”を抱えているのだ。【西尾典文/野球ライター】

 まずは、格差問題について「地方格差」という観点から触れたい。過去10回の春夏の甲子園優勝校を全国9地区(北海道・東北・関東・北信越・東海・近畿・中国・四国・九州)で分けてみたところ、以下のような結果となっている。

<選抜高校野球>(春の選抜)
近畿:6回 関東:2回 北信越:1回 東海:1回

<全国高校野球選手権>(夏の甲子園)
近畿:5回 関東:4回 東北:1回

 今年の仙台育英を除けば、北信越の敦賀気比(2015年春)と東海地方の東邦(2019年春)が優勝を果たしているが、それ以外は近畿と関東に集中している。「人口の多い地域だから当然だ」という声も聞こえてきそうだが、これ以前の10年間では、北海道(駒大苫小牧)、中国(広陵)、四国(明徳義塾、済美)、九州(佐賀北、清峰、沖縄尚学、興南)からも優勝校が出ている。これを考えると、“二極集中”は近年一気に進んだものと言ってよいだろう。

「野球留学」以外の理由

 では、“二極集中”の理由は、どのようなことが考えられるのだろうか。

 一般的によく指摘されるのは、都道府県をまたいで進学する野球留学の影響であるが、それは近年に限ったものではない。また、最も優勝の多い近畿圏の選手は、むしろ他の地域にある高校に進学することが少なくない。夏の甲子園の歴代優勝校を見ても、前橋育英(2013年)、作新学院(2016年)、履正社(2019年)などは、ほとんどが地元選手で構成されていたことを考えても、野球留学だけで“二極集中”が進んだわけではなさそうだ。

 あるプロ球団のスカウトは、“別の理由”を指摘する。

「以前は監督の人脈で選手を集めているのが一般的でした。しかし、強豪校はより組織的にスカウティングするようになっています。中には、『スカウト』という肩書を持つスタッフがいる学校もあるほか、肩書はついていなくても、コーチを担当地区に振り分けているケースもあります」

 前出のスカウトは、強豪校のスカウティングが強化されている点を指摘したうえで、以下のように続ける。

「未来のスターを探すような番組が多くなって、小中学生時代から有名な選手が増えました。清宮幸太郎(日本ハム)や根尾昂(中日)はその代表例ですね。年末に行われている『12球団ジュニアトーナメント』(小学生が対象)に出場した選手をリストアップし、追いかけている高校もあります。また、選手や保護者の間でも、こうした情報がすぐ広まるようになり、『有望選手が行くなら、うちの子も……』みたいな流れで、強豪校に選手が集まりやすくなったという側面があります」

「野球塾」の存在

 関東の強豪校では、まだ寒い春先の時期に沖縄や九州に遠征に行くチームも多い。筆者は、取材で「遠征する目的の半分は、有望な中学生をスカウティングするためだ」と、関係者から聞いたことがある。硬式野球のクラブチームの全国大会はもちろん、各地で行われているローカルな大会で、高校野球関係者の姿をたびたび見かけることもある。

 もう一つ、高校球界が抱える“格差問題”は、「選手レベルの二極化」である。日本高等学校野球連盟が毎年発表している野球部員は、子供の人口減少よりもはるかに速いスピードで減っていることはよく知られている。中学生、小学生年代もそれは同様である。

 その一方で、保護者が野球に熱心な場合は、子供の頃からチームに入るだけでなく、「野球塾」と呼ばれる野球個別レッスンに通っているケースは増えているという。

「以前は、中学まで部活として野球をやっていた選手がほとんどで、公立高校でも飛びぬけた子はいなくても、それなりに野球ができる子が多かったように思います。それが、最近では中学でクラブチームに入っていた子と、学校の部活でやっていた子の差が大きくなりました。彼らに話を聞いてみると、中学の野球部では9人揃わずに、ほとんど実戦的なことができていないという子も多いです。高校でも(1校では9人揃わず、複数の学校で大会に出場する)連合チームが増えていますが、中学はもっとそれが顕著になっています。トップの学校には英才教育を受けてきたエリートが集まり、それ以外の学校は、満足に試合ができなかった選手だけになる。中間層が抜け落ちて、どんどん二極化は進むことになりそうですね」(公立高校の野球指導者)

格差が拡大する危険性も

 今年の夏の甲子園では初出場校が4校あったが、いずれも春の選抜は出場経験がある学校で、春夏通じて初出場の学校は「0」だった。こうした点も、選手レベルの二極化を物語っている。

 ほかにも、春夏の甲子園のみならず、それぞれの都道府県内でも強豪校は限られるようになっている。長年、夏の甲子園に連続出場を果たした聖光学院(福島)や作新学院(栃木)、明徳義塾(高知)などは、その最たる例と言えるだろう。

 少子化が進み、今後、中学校の部活動も外部への委託が中心になれば、新たな金銭的な負担が増えて、野球のような用具などに多くの費用がかかるスポーツに対する敷居が高くなる恐れもある。そうなれば、高校野球の“格差問題”はより酷くなる可能性が出てくるだろう。果たして、高校野球は社会的な影響力を維持できるのだろうか、今、大きな岐路に立っている。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部