横浜高OB「向こうで現役を終えても不思議ではない」

 米大リーグでフリーエージェント(FA)になっていた筒香嘉智内野手(31)が1月15日(日本時間16日)にレンジャーズとマイナー契約を結んだ。2月のキャンプに招待選手として参加し、メジャー昇格を目指す。NPB通算205本塁打を放ち、日本球界随一の長距離打者として渡米しながらも過去3年間は不本意な成績に終わった。その一方従来からでマイナー契約を辞さず、メジャーでのプレーというプロ入り前からの夢を貫き通す信念は他選手と一線を画し、異彩を放っている。【木嶋昇(きじま・のぼる)/野球ジャーナリスト】

 筒香を巡っては昨年8月にパイレーツを戦力外となって以降、古巣DeNA、巨人などNPB
の複数球団が動向を調査していた。DeNA時代に監督だった中畑清氏さえNPB復帰を勧める中、筒香のMLB残留への意志は揺らぐことがなかった。

 神奈川・横浜高校で先輩に当たるNPB関係者がこう明かす。

「筒香は野球に対していちずな子。もともと年俸や引退後のキャリアとか、損得勘定を超えたところでメジャーに行っている。向こうで現役を終えたとしても不思議ではない」

 筒香は2020年、ポスティングシステムにより2年総額1200万ドル(約13億円、当時のレート)でレイズに移籍した。長打力に加え、四球を選ぶ選球眼などが評価され、MLBでは松井秀喜(元ヤンキース)に次ぐ日本人ホームランバッターの再来を期待された。

 しかし、同年のMLBは新型コロナウイルスでキャンプが中止に追い込まれる異常事態に見舞われる。筒香は日本に一時帰国しての調整を強いられる逆境下で、7月にMLB1年目の開幕を迎えた。

「既に何年かアメリカでプレーしていた選手なら不規則な調整もハンディにはならなかったかもしれないが、ルーキーイヤーだった筒香や秋山(翔吾外野手=当時レッズ、現広島)には難しい準備だったと思う」

 60試合制に短縮された1年目は打率1割9分7厘、8本塁打、24打点と精彩を欠いた。2年目も振るわず、5月にはドジャースに移籍。だが、そこでもマイナー生活中心で戦力外になると、8月からはパイレーツ所属に。その打棒に日本時代の片鱗を見せ、契約更新しながらも昨季は1シーズン、持たなかった。

「最後までMLBの速球に対応し切れなかった。DeNA時代から速球が苦手で、ドミニカ共和国のウインターリーグへの武者修行で克服に努めたが、不十分なままメジャーでプレーすることになった。適応能力が高い20代前半とか、もっと若い頃にメジャーに行っていれば、また違ったのかもしれないが……」(前出の横浜高OB)

有原航平は「メジャーでの活躍ではなくプレー自体が目標だった」

 マイナーでは通訳も付かず、長距離移動、簡素な食事など過酷な環境下でプレーを続けた。

「筒香はそれでも弱音を吐かなかった。有原(航平投手=現ソフトバンク)も今オフに、レンジャーズを戦力外になってから最初はメジャー残留を模索していたが、好条件が見込めないと判断すると、すぐに日本球界復帰へと舵を切った。早大時代の米国遠征でメジャーに憧れを抱くようになったが、メジャーでプレーすることが目標で、活躍することが目標ではなかったように感じた。確かにベースとなる直球のスピードを欠き、多彩な変化球も十分に生かせなかったことは(活躍できなかった背景に)あったが、何が何でもメジャーで成功したいという気持ちが欠けていたことが大きかった」(米大手マネジメント会社の代理人)

 かつてロッテからツインズにポスティング移籍した西岡剛内野手も、同様の心持ちだったことを明かしている。世界最高のリーグは、強固な動機づけを持たずして活躍できるほど生易しい世界ではない。

「メジャー球団と契約した時点で仕事を終えた感覚になる選手は少なくない。特に複数年で大きな契約を結ぶと、そうなりがち。本当の意味で、契約が出発点と思える選手の方が少ないのではないか」(同代理人)

村上宗隆や吉田正尚も模範に

 マリナーズで日本人初のMLB野手となったイチロー、巨人からのヤンキース移籍で続いた松井……、草創期の日本人野手のメジャーリーガーたちは背水の陣の覚悟で海を渡った。

「筒香が子どもの頃から憧れていたイチローも、松井も骨をうずめる覚悟でアメリカに行った。実際にアメリカでキャリアを終えた。成功しなければ日本に戻ればいいという気持ちに見えた一部の選手とは気概が違った。才能、努力以外にメジャーで成功をつかむ不退転の決意があったからこそ、アメリカでも成績を残せたのだと思う」(NPB球団の元監督)

 それにしても、筒香は長距離打者として確固たる地位を築いた日本には簡単に戻らず、厳しいマイナー生活を厭うことなくMLBにこだわっている。こうした選手は過去を振り返っても稀だ。

「メジャーで結果を残せなかったのに、メジャーリーガーというだけで日本の球団が大型契約を提示し、三顧の礼で迎える傾向には疑問を感じていた。日本人選手が一度、メジャーに行った場合は安易に戻ってこられないよう、例えば、5年は日本でプレーできないなどのルールを導入すればいいとも思っていた。ただ、筒香を見ていると、そうした制約は要らないと思えるほどのひた向きさがある。レンジャーズでも左打ちの内野手がレギュラーを確保するのは容易ではない。にもかかわらず、挑戦をやめない姿勢は吉田(正尚外野手=レッドソックス)や、これからメジャーを目指す村上(宗隆内野手=ヤクルト)も模範としてほしい」

 ファンや球界関係者の願いを代弁するように元監督は言った。

デイリー新潮編集部