「活躍で移籍の可能性は高まった」
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は日本代表の14年ぶり3度目の優勝で幕を閉じた。MVPは文句なしで大谷翔平(エンゼルス)が選出された。打者で全7試合に出場し、23打数10安打、打率4割3分5厘、8打点、1本塁打。投手では3試合で2勝1セーブ、防御率1.86と文字通り、大車輪の活躍だった。特に決勝ではDHで出場しながら1点リードの九回に抑えで登板。最後はMLBを代表する強打者でエンゼルスの同僚、マイク・トラウト外野手を空振り三振に仕留め、栄えある胴上げ投手になった。世界一を争う大舞台で二刀流が抑えも可能という万能ぶりを示したことを受け、米大手マネジメント会社代理人は、早くも今オフにフリーエージェント(FA)になる大谷の去就に与える影響を口にする。
「これで大谷の価値はさらに上がる。エンゼルスは状況次第で今夏の期限までにトレードに動かざるを得なくなる。WBCでの活躍で移籍の可能性は高まった」
大谷を抑えで起用する構想は当初から栗山英樹監督にはあった。大谷自身も昨年10月、MLBシーズンを終えて帰国した際に救援登板を辞さない姿勢を示し、同調していた。
しかし、これに待ったをかけたのがエンゼルスだった。かねて二刀流での起用に「制限はない」(ペリー・ミナシアン・ゼネラルマネジャー=GM)としながらも、今年1月23日に球団売却の断念を発表すると、キャンプイン時の2月15日にはフィル・ネビン監督が大谷のWBCでの投手起用は先発限定と断言した。同時期に大谷を今季の開幕投手に決定。大谷のWBCでのリリーフ起用を制限したい思惑が表面化していた。
「メジャーの投手はオープン戦でも登板日、球数を所属球団に管理される。(一連の動きは)エンゼルスが大谷の起用法の主導権は自分たちが握っていると栗山さんたちを牽制したように見えた。パドレスから調整面でかなりの裁量を認められていたダルビッシュ(有投手)とは明らかに置かれた状況が違っていた」(同代理人)
その後も宮崎合宿への不参加や、準決勝以降の米国ラウンドでの登板はないことがエンゼルス側から発信されていく。
「大谷のWBCでの登板日、起用法は全てエンゼルスの監督やGMから明らかになった。(日本との準決勝で先発した)メキシコのサンドバルが好投しながら66球で交代した背景にもエンゼルスの強い意向があった。大谷と同様、自軍のローテーション投手を開幕前に酷使されたくないと制限をかけるメジャー球団はエンゼルスだけではない」(前出の代理人)
渡米後に起用法の風向き変化
風向きが変わったのは大谷が日本代表とともに準決勝に向け、渡米してからだった。大谷が準決勝を前にした3月19日に決勝に進んだ場合の登板に言及し「先発する可能性はないと思うが、もちろんリリーフで準備はしたい。球団は本当に僕のわがままな要望を聞いて、多くのことを許容してくれた。最後の最後なので体調と相談して決めたい」と語ったのだった。栗山監督は呼応するように翌日の準決勝前の記者会見で、決勝での大谷登板について「可能性はゼロではない」とトーンを変えた。
前出の代理人が内幕を明かす。
「アメリカに戻り、大谷は代理人を通じ再度、エンゼルスに救援登板が可能かどうかを探った。エンゼルスは今オフの再契約を視野に入れており、大谷との関係に波を立てたくはない。最終的には1イニング限定ということで、大谷の強い熱意に球団側が折れる形になった。栗山さんは(3月18日に)大学での練習中に大谷と会話をし、記者から内容を問われた際に言葉を濁していたが、大谷から救援登板できることを伝えられたようだ」
こうした経緯を経て、日本中を歓喜の渦に巻き込むことになる決勝での「抑え大谷」プランが固まった。
大谷は二刀流が先発だけではなく、救援も可能であることを大一番で満天下に示した。試合後半、自らの出番に備え、ベンチから左翼後方のブルペンへ移動した。試合前には動線を確認していたという。その後、自身の打席が近づくと、息を切らしながら今度はブルペンからベンチへ。それでも、本人は「ホームサイド(左翼側)の方にブルペンがあったので、右翼側ではなく、それなりにやりやすかったので、問題なくできたかな」と平然としたもので「今後もこういうことがあるかも」と、MLBでの救援登板にも含みを持たせた。
エンゼルスの慰留の熱意は不透明
一方のエンゼルスは皮肉にも大谷をサポートしたことで、決別の実現性を高めた。今季終了後にFAとなる大谷に対してはエンゼルスと同じ地元のドジャースやメッツなどが触手を伸ばし、契約総額はMLB史上最高額となり、6億ドル(約790億円)との米報道もある 。
「既に(2021、22年の)レギュラーシーズンで二刀流が成立することは証明していた。WBCで同じ短期決戦のポストシーズンでも切り札になり得ることを見せつけた。ワールドシリーズで世界一が懸かる場面で、大谷がクローザーで登板するイメージを描いた球団は少なくないだろう。FA後に大谷争奪戦になれば、より多くの球団から注目を集め、契約金が高騰することは間違いない。 エンゼルスはどこまで資金を投じるかが不透明で、昨季までのようにチームが早々と優勝争いから脱落し、他球団に資金力でかなわないと判断すれば、(今回のWBCの活躍で評価が上がり)より多くのプロスペクト(若手有望株)の獲得を望めるようになった大谷をトレードで放出するケースは十分に考えられる」(同代理人)
大谷は3月30日のMLB開幕前にこれ以上ない形で弾みをつけ、エンゼルスとの契約最終年のシーズンに臨む。その活躍とともに去就からも目が離せない日々が始まる。
デイリー新潮編集部