3月13日(米国時間)、ゴルフのルールをつかさどるUSGAとR&Aがボールの飛距離を制限する新たな案を発表し、ゴルフ界では賛否両論が巻き起こっている。その多くは選手たちからの反対意見だが、PGAツアー選手の代表格である北アイルランド出身のロリー・マキロイが「僕は制限されたボールを率先して使う」と表明し、大きな注目を集めている。【舩越園子/ゴルフジャーナリスト】
「エリート・レベルの大会」に適用
USGAとR&Aが発表した新提案は、昨今のゴルフ界の飛距離偏重に歯止めをかけることを目指している。
その内容は、「アイアン・バイロン」なるロボットが一定条件(ヘッドスピード127mph、打ち出し角度11度、スピン量2200rpm)の下、チタン製ドライバーでショットした際、飛距離が317ヤードを超えるボールは「ルール適合外(使用不可)」とするというものだ(320ヤードまでは許容範囲)。
ただし、このルールの対象となるのは「エリート・レベルの大会」のみで、リクリエーショナル・ゴルファーは適用外とされている。「エリート・レベルの大会」の定義や線引きが明確ではないという指摘もあるが、一般的に考えれば、PGAツアーやDPワールドツアー、下部ツアーのコーンフェリー・ツアーなどを指すと考えられる。
アマチュアが使用するボールに制限が加えられることはない。また、この案は内外からのフィードバックを今年8月まで募り、その上で再検討され、正式に了承された場合は2026年から実施されることになる。
ただし、この「飛ばないボール」規制を「モデル・ローカル・ルール(MLR)」として実際に採用するか否かは、ツアーや大会の主催者の判断に委ねられることになる。
この新提案はUSGAとR&Aから発表されているため、両者がそれぞれ主催する全米オープンと全英オープンで用いられることはほぼ確実だ。しかし、マスターズや全米プロ、そしてPGAツアーが「飛ばないボール」規制を採用するかどうかは、現状ではまだわからない状況にある。
「ゴルフというゲームのためになるのか」
新提案が発表されるやいなや、「エリート・レベルの大会」で戦う選手たちからは反対意見が噴出した。その中で最も激しい批判の声を上げたのは、PGAツアー選手でメジャー2勝のジャスティン・トーマスだ。
「ゴルフというゲームにとって最悪の規定だ」と怒声を上げたトーマスは、その後も持論を展開し、ボールの規制に猛反対している。
「ゴルフショップに行けば、大好きなプロが使っているものと同じクラブやボールをアマチュアが買って使うことができる。そういう疑似体験ができることは、ゴルフならではの楽しさだ。でも今後、僕らプロのボールが規制されてしまったら、アマチュアがプロと同じボールを使ってプレーする楽しさが奪われてしまう」
さらにトーマスは「PGAツアーとメジャー大会で異なるボールを使うことは考えられない」と語気を強めた。
「もしもPGAツアーでこの規制が採用されなかったら、僕らは全米オープンや全英オープンでは飛ばないボールを使い、PGAツアーでは今まで通りの規制のないボールを使うことになる。そうやって混乱を招くことが、なぜゴルフというゲームのためになると言うのか? そこのところをUSGAとR&Aは、僕にちゃんと説明してほしい」
マキロイは賛成
一方のマキロイは「たとえPGAツアーが規制を採用しなくても、メジャー大会で飛ばないボールを使うことになるのなら、僕はPGAツアーでも飛ばないボールを使うつもりだ」と語り、周囲を驚かせた。
彼はすでにメジャー4勝を挙げており、まだ勝利していないマスターズを制すれば、生涯グランドスラムを達成する。
「僕のキャリアにおける最大の関心事は、メジャー大会で優勝できるかどうかだ」と言い切るマキロイは、2026年からメジャー大会で「飛ばないボール」を使うことになるとすれば、その状況に早くから慣れ、さらなるメジャー優勝を挙げるための練習・準備として、PGAツアーの大会でも率先して飛ばないボールを使うことが得策と考えている。
さらに、こんな持論も披露した――。
「飛ばないボールで戦うことになれば、昨今の試合ではあまり握ることがないロングアイアンやミドルアイアンを多用することになり、そういうゲーム展開は、長いアイアンを得意としている僕にとっては有利になる。たぶん、僕以外のトッププレーヤーたちにとっても有利になる」
そして、ドライバーで飛ばすだけ飛ばした後にショートアイアンやウエッジでピンそばに付けるという昨今のゴルフとは異なり、「長いアイアンを駆使して戦うゴルフは、本当のベストプレーヤーを選び出すことになる」とマキロイは言う。
昨今の飛距離偏重はパワー合戦の様相を呈しているが、「飛ばないボール」を採用することでパワーのみならずワザの競い合いも生じ、「真の戦いが真のベストプレーヤーを選び出すのだ」とマキロイは語っている。
だが、その理屈通りにゴルフの在り方が変わるものなのかは、大いに疑問である。
ゴルフ用具メーカーの多くは、エリート・レベル向けとリクリエーショナル向けに分けて2種類のボールを製造することになれば、「コストが大幅にアップする」ため新提案には反対の姿勢を示している。
しかし、飛距離合戦がどこまでも進んでいけば、いつしかゴルフコースは全長8000ヤード、いや9000ヤードを求められることにもなりそうで、そこに限界を感じているゴルフ場関係者は、ボールの飛距離を制限することは究極の対策だと感じている様子だ。
今年8月までのフィードバック期間には、さらに多くの賛否が寄せられそうで、ゴルフ界の揺れはしばらく収まりそうもない。
舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。
デイリー新潮編集部