日本依存が逆に上昇

 日本政府が韓国に対する輸出制限を発表して1年が経過した。そこには、韓国に輸出した部材が第3国を通じて北朝鮮に流れる懸念があったからなのだが、ふて腐れた韓国政府は脱日本依存を掲げ、日本から輸入している部材の国産化を進めて行く。もっとも、韓国貿易協会の集計によると、輸入上位100品目のうち、34品目は日本製の割合が上昇するなど、日本依存が変わっていない皮肉な状況が明らかに。文在寅大統領は国産化を自画自賛するが、それをよそに財閥トップはこぞって日本詣でを繰り返した。“寅”は吠えるだけだったようで……。

 例えば、輸出規制前に、日本から輸入していた割合が34・6%だった半導体材料のシリコンウエハーは、日本への依存率が40・7%へと増加。炭素部品も47・8%から56・7%へと、加えて、固定式蓄電器は6・1ポイント、その他精密化学製品は2・7ポイント……といった具合にそれぞれ日本に対する依存度が上昇していることがわかる。

 これまでの流れをおさらいしておこう。

 ほぼ1年前の2019年7月1日、日本の経済産業省は、韓国向け半導体材料のレジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミドを包括的輸出許可から個別輸出許可へ切り替えると発表し、韓国をホワイト国から除外する件に関するパブリックコメントの募集を開始したのだった。

 韓国はこれに反発。経済産業省の輸出規制は、韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じたいわゆる徴用工訴訟判決に対する報復措置だと主張し、WTOへの提訴を辞さない構えを見せた。

 一方、日本はワッセナー・アレンジメントなど国際輸出管理レジームに基づくキャッチオール規制だと主張している。

 1994年、旧共産圏諸国への戦略物資の輸出や技術移転を統制していたココムは、冷戦の終結でその意義を失い解散したが、ココム加盟各国はテロリストに対する新たな「枠組み」の必要性を認識。オランダ・ワッセナーで協議を行って、1996年7月、「通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント」が成立した。日本は2002年、キャッチオール規制を導入し、当初、韓国はキャッチオールの対象国だったが、2004年、輸出管理優遇対象のいわゆるホワイト国(現・グループA)に追加した。

 経済産業省は、日本企業が規制の対象品目を輸出する際、申請して許可を得ることを義務付けるが、いわゆるホワイト国のグループA向け輸出許可は、3年間有効の包括許可が原則で、韓国やバルト3国などグループBは、品目によって3年間有効な包括許可と輸出する都度許可が必要な個別許可に分けられる。グループCは輸出ごとの個別許可が原則で、グループDは輸出を認めないブラックだ。グループA〜C向けの輸出も、D国に再輸出される懸念がないかが厳密に審査される。

 日本政府が韓国をホワイト国から除外することを決めた理由は、韓国に輸出した部材がまさにこのグループD、特に北朝鮮に再輸出される懸念があったからだ。

日本→韓国→第3国→北朝鮮の悪夢

 韓国・朝鮮日報は、輸出規制直前の19年5月17日、韓国政府当局が摘発した違法輸出が増えていると報じた。同紙の記事によると、2015年から19年3月の間に、当局が摘発した違法輸出は156件に達しており、さらに2015年には14件だった摘発件数が、18年は3倍近い41件に増加し、19年は3月までですでに31件にのぼっていた。

 原子炉材料の中国向け違法輸出、シリアに対するBC(生物化学)兵器を製造するための物資輸出、そして金正男氏の暗殺に使われたものと同じVXガス原料のマレーシアへの輸出……。日本企業が韓国に輸出した物資が第3国を経由して北朝鮮に渡る可能性が排除できないところに、文在寅大統領の北朝鮮融和政策が重なったのだ。

 文在寅大統領は、米国や日本の懸念をよそに、北朝鮮との交流を深めようとしており、南北交流が活発化すると日本製品が韓国から第3国を経由せず、そのまま北朝鮮に流出しかねない恐れがあったのだ。

 日本の経済産業省は、韓国当局の担当責任者を呼び出し、輸出規制の経緯を説明した。日本から韓国に輸出した物品の一部が、輸出後に行き先が分からなくなった事案が発見されるなど、輸出管理の問題だとして韓国の輸出管理体制の脆弱さを匂わせたが、韓国側が理解を示すことはなかった。

 日本政府が韓国をホワイト国から除外する検討を進めていた7月24日にジュネーブで世界貿易機関(WTO)の一般理事会が開催され、韓国の金勝鎬(キム・スンホ)新通商秩序戦略室長は、日本の輸出規制は貿易措置でも安全保障でもなく、元徴用工問題だと指摘。韓国は国際社会を味方にしようと一般理事会で問題を提起したが、2国間の対立に巻き込まれたくない日韓以外の代表が発言することはなかった。

 日本政府には4万件のパブリックコメントが寄せられ、政府は8月2日、韓国をホワイト国から除外することを閣議決定、同月28日から施行した。

財閥は軒並み日本詣で

 それから約1年。文在寅大統領の口をついて出るのは国産化促進を自賛する言葉ばかり。今年6月29日には、「日本が輸出規制を行ってから1年間、韓国は日本の措置に動じることなく正面突破した」としたうえで、「1件の生産支障もなく、素材・部品・装置産業の国産化を操り上げて、核心品目の安定的なサプライチェーンを構築した」と発言した。

 輸出規制から1年経った20年7月2日、康京和(カン・ギョンファ)韓国外交部長官は記者会見で、輸出規制などに関して韓国と日本の間の立場の違いが大きいという認識を示した。特に大法院の強制徴用判決に対する報復で日本政府が行った日本の輸出規制措置が最大の問題だという従来の発言を繰り返している。

 一方、企業はWTOへの提訴をくり繰り返すだけの政府には期待していない。

 韓国青瓦台(大統領府)は輸出規制への対応策を協議するため、19年7月7日と10日に企業トップを招聘したが、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長とロッテの辛東彬会長(当時)は協議の同日、日本を訪れた。現代自動車グループの鄭義宣首席副会長もまた、この協議の1週間後に日本を訪問している。

 韓国政府は1つの部材を国産化すれば解決すると考えているようだが、コトはそう単純ではない。半導体などは複数メーカーの部材を組み合わせて部品を作る。1つ1つの部材は基準をクリアしても、組み合わせたとき、期待通りになるとは限らない。

 当然、最先端の部品ほど高い信頼性が求められる。日本企業には長い時間をかけて培ってきた実績があり、さらに彼らは絶え間ない研究努力を続けているのだ。仮に韓国企業が時間をかけて日本製品をコピーしても、日本企業は、その頃にははるかに遠くを走っている。国産化にこだわれば、サムスンやSKハイニックスは一歩も二歩も古い技術を使い続けることになりかねない。

 輸出規制の影響を最も受けると思われたサムスン電子は、日本の規制が本格化して以降、500以上ある工程を検証し、高品質が求められる核心部品は日本企業の部材を使いながらも、代替可能な工程は国産品に置き換えた。韓国製は日本製品と比べて不良品が多く、生産コストが高まったとみられる。脱日本依存をリーダーが謳ったまではよかったのかもしれないが、そのツケを払わされているのは国民だというのは何とも皮肉な話である。

佐々木和義
広告プランナー兼ライター。商業写真・映像制作会社を経て広告会社に転職し、住宅・不動産広告等のプランナー兼コピーライターを務めた。韓国に進出する食品会社の立上げを請け負い、駐在員として2009年に渡韓。日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える必要性を感じ、2012年、日系専門広告制作会社PLUXを設立した。日系企業の韓国ビジネスをサポートする傍ら日本人の視点でソウル市に改善提案を行っている。韓国ソウル市在住。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月10日 掲載