“日本は屈服せよ”と本音をゴマかして盛り込んだ

「現在の状況は容易ではない」11月11日、文在寅大統領は青瓦台(大統領府)で行った外交・安保分野の有識者・特別補佐官との懇談会で、日韓関係に関してこのように述べたという。

 文大統領は元朝鮮人徴用工賠償問題の解決に関し、「被害者の意思と合意が何よりも重要だが、このハードルを越えることは容易ではない」と嘆き、参加者らは「菅内閣は安倍内閣よりはオープンであり、対話を続けていかなければならない」と応答した。

 前日10日、韓国の情報機関である国家情報院の朴智元(パク・チウォン)院長が菅義偉首相と面会し、冷えこんだままの日韓関係を改善させるため「菅-文在寅宣言」を提案した。

 しかし、菅首相が特段の反応を示すことはなく、4日間の訪日スケジュールを終えた朴院長は11日午後、事実上、手ぶらで仁川空港に到着することになった。

 韓国企業の営業社員が、もし3泊4日の出張で最終日までに売り上げゼロのまま帰国したら即刻解雇もあり得る。

 しかし、オーナーの放漫で、顧客の性向を把握しないまま、売れるはずがないものを売ってくるよう指示を出したのなら、売り上げゼロの原因を営業社員に転嫁することはできないだろう。

 朴院長は日本政府の共感を得ることができずに手ぶらで帰国したが、今もなお、「元徴用工の意思が優先」と言い続ける文大統領が「売れるもの」を日本に提案したとは言い難い。

 今回の訪日で朴智元院長が菅首相に提案した「菅-文在寅宣言」。

 これは1998年に小渕恵三首相と金大中大統領が署名した「小渕-金宣言(21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ、日韓共同宣言」を継承しようというものだ。

「小渕-金宣言」以後、日韓両国はより親密になり、未来志向的な関係を築く契機になったといわれるが、何のことはない、日本の譲歩で実現した宣言だった。

日本の「謝罪」後には「金銭」の支払いも伴う

「小渕-金宣言」は「日本の過去の朝鮮植民支配に対する痛切な反省と心からの謝罪」が主だった。

 1965年の日韓請求権協定と経済的支援を伴った謝罪や1993年の河野談話と1995年の村山談話、そして1998年の「小渕-金宣言」と、謝罪のたびに両国政府の関係は好転した。

 しかし、現在、日本政府が提案を受け入れて謝罪する名分は一切なく、謝罪を求める理由もない。

 差し当たって両国が抱える問題は、元朝鮮人徴用工らが日本企業を相手取って賠償金を求める訴訟を起こし、韓国最高裁が原告勝訴の判決を下したことが発端となっている。

 敗訴した日本企業は判決を受け入れないし、日本政府も当然ながら自国企業の財産を保護する立場にある。

 日本政府は一連の問題が日韓請求権協定ですでに解決しており、韓国側の決定は国家間の約束を破った国際法違反の可能性が高いと主張する。

 菅首相は「菅-文在寅宣言」という提案に反応しないのではなく、むしろ不愉快だと強く抗議をしてもよかっただろう。

「菅-文在寅宣言」は、「日本が主張を撤回して屈服せよ、謝罪後、日本がどうなろうが知ったことではない」という文在寅の“本音”を“宣言”という単語でごまかしたに過ぎないのである。

「菅-文在寅宣言」は謝罪だけには終わらない。

「小渕-金宣言」を継承するなら、当然「金銭」も伴うことになる。

「小渕-金宣言」後、日本政府は日本輸出入銀行を通じて韓国に30億ドル(現在価約3164億円)の借款を供与するなど、投資や技術を支援した。

 一方、「菅-文在寅宣言」の背景には「小渕-金宣言」のような国家間の“金銭的支援”はなく、民間企業の“賠償”のみが存在する。

来年度予算に「国民の血税800億円弱」を北朝鮮支援で盛り込む

 民間企業が拒否する賠償をもし政府が強制すれば、財産権侵害に相当する。

 文在寅大統領が恋い焦がれる金正恩政権ならまだしも、民主主義国家の日本ではありえない行為である。

 百歩譲って、もし日本が「菅-文在寅宣言」の提案を受け入れるなら、借款が前提であることを考えておかないといけない。

 韓国財政部の10日の発表によると、今年9月時点の韓国の国家債務は約800兆ウォン(約75兆8056億円)で、財政赤字は約108兆ウォン(約10兆2337億円)に達していた。

 他国から財政支援が受けられるなら、願ったり叶ったりという水準だ。

 このような状況にもかかわらず、韓国政府は来年度予算に北朝鮮支援を盛り込んだ。

 コメを提供する目的で約1007億6300万ウォン(約95億4800万円)、北朝鮮民生協力支援約3484億4400万ウォン(約330億1753万円)など、対北朝鮮支援機関に約8276億ウォン(約784億2096万円)を拠出する予算編成を行った。

 文在寅大統領を「ゆでた牛の頭も天を仰いで大笑いする」だと嘲弄し、韓国人の税金300億(約28億3302万円)を投資して作った南北連絡事務所を勝手に爆破、核兵器開発と大陸間弾道ミサイルの発射を強行、さらには漂流した韓国人公務員を銃殺するなど、敵国のみが行う蛮行を犯した国に、韓国政府は国民の血税800億円弱を支援するというのだ。

韓国への借款が北に流れかねない事態に

 もし「菅-文在寅宣言」とともに韓国に対する借款などの経済支援が実行されたら、その金銭が金正恩氏の腹を膨らませる8276億ウォンに流れないと言い切れるだろうか。

 文在寅大統領は「菅-文在寅宣言」という外交的な礼節を失した構想を立て、国家情報院長は「売れないもの」を相手国の首相に提案したことになる。

 一般会社のオーナーなら、経営能力不足で社員から突き上げを食らって離反を招くことだろう。

 李明博元大統領や朴槿恵前大統領の時代にも日韓両国の葛藤はあったが、ここまで深刻な状況に陥ることはなかった。

 前政権時代には想像すらできなかった“NO JAPAN”や“不買運動”を扇動し、その効果が弱まると、自国中心の利己的な発想に過ぎない提案をひねり出した文大統領。

 徴用工に関して「容易ではない」状況を作り出したのは誰なのか。問うべきは自分の胸だろう。

田裕哲(チョン・ユチョル)
日韓関係、韓国政治担当ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月16日 掲載