植村氏の義母が指摘した「疑惑」にどう答える

 元朝日新聞記者で週刊金曜日社長の植村隆氏が、久しぶりにニュースに顔を出した。11月19日、植村氏が朝日新聞記者時代に元従軍慰安婦について書いた記事を「捏造」とされたことによって、名誉を毀損されたとして、ジャーナリストの櫻井よしこ氏などを相手取り、謝罪広告の掲載と損害賠償の支払いを求めていた訴訟で、最高裁で敗訴が確定したのである。

「植村氏敗訴」を報道した韓国メディアは、2〜3社ほどしか確認できていない。

 日本政府による韓国向け輸出規制措置で、反日感情が高まった昨年、韓国メディアのインタビューや報道に頻繁に登場、著名なジャーナリスト財団から賞を受け、韓国記者の前で講演するなど忙しく飛び回ったのが、他ならぬ植村氏だ。

 彼を「非常識な日本と戦った常識ある日本人」と絶賛し、彼の口を借りて慰安婦問題に関する反日報道をしてきた韓国メディアが、関心を失ったかのようでもある。

 一体、何があったのだろうか。

 植村氏は、朝日新聞記者だった1991年8月、元朝鮮人慰安婦の金学順(キム・ハクスン)氏について初めて報道、ベールに包まれていた慰安婦問題が表面化した。

 植村氏は韓国では良心的なジャーナリストだと英雄待遇を受けたが、日本では氏を否定する報道が続き、安倍内閣の発足と前後して右翼集団の攻撃が激しくなった。

 彼自身の就職に圧力がかけられ、実娘の写真がインターネットに無断で掲載されるなど、植村氏は危険が加えられたと主張した。

 もちろん表現の自由は尊重されなければならないし、言論には言論で立ち向かうべきで、就職への圧力や実娘の写真の一件などは卑怯な手段という他ない。

 それはそうと、彼にぜひとも「問いたいこと」がある。

韓国に“慰安婦専門記者が必要”と話した植村氏

 昨年6月、植村氏はソウル西大門(ソデムン)駅近くの「フランシスコ教育会館」で開かれた「歴史歪曲に対抗して戦った日本のジャーナリスト、植村記者に聞く」というタイトルの公開講演に登壇。

「新しい韓日関係のため日本は政治を変え、政治家を変え、歴史を学ばなければならない」とし、安倍政権下の日本の歴史教育は「歪曲」だという指摘に「巨大な敵と戦っているようだ」と話した。

 植村氏はまた、「最近、日本では慰安婦関連報道が減ったが、韓国では韓国人が被害者であるにもかかわらず専門記者がなぜいないのか」、「このような政治的な問題に専門性を持たない報道が展開されることは残念で“慰安婦専門記者”が必要だ」と述べ、喝采を受けている。

 自他共に認める「慰安婦専門記者」の植村氏。

 彼は、今年5月から韓国はもちろん、日本でも取り上げられた韓国慰安婦団体の寄付金流用と複数の犯罪疑惑をどれだけ取材し報道したのだろうか。

 改めて紹介しておくと、事件は以前、金学順氏とともに従軍慰安婦被害者だと主張してきた李容洙(イ・ヨンス)氏が今年5月7日、慰安婦団体と元理事長の疑惑を記者団に暴露して発覚した。

 李容洙氏は韓国の有名な慰安婦支援団体「正義記憶連帯(正義連)」と元理事長で親文在寅政党から出馬して国会議員に当選した尹美香(ユン・ミヒャン)氏を名指しし、「正義連と尹美香は元慰安婦を30年間利用して金を着服した」と寄付金の横領を暴露したのである。

 韓国メディアの取材と検察の捜査で、尹美香氏は過去数年間、慰安婦関連の虚偽事業で国家支援金を申請して6500万ウォンを不当に受領、また寄付金41億ウォンを不法に募集した疑惑が露呈した。

「国民を相手に詐欺を働いた団体」とまで

 寄付金の横領のほか、背任や詐欺、不法宿泊業の運営など、8件の容疑で起訴され、裁判が進んでいる。

 市民は「寄付金を返還せよ」と正義連と尹氏に訴訟を起こしているが、彼らは「過ちはない」と述べ返還を拒否している。

 現在、多くの韓国国民が、慰安婦団体にだまされたと憤っており、従軍慰安婦被害者だと主張する人たちの言っていることは本当だったのかという混乱まで生じている。

 韓国国民はもちろん、日本国民も知っているこの事件について「慰安婦専門記者」の植村氏はどれほど関心を持って取材をし、記事を書いたのだろうか。

 日本ではあまり知られていないが、李容洙さんが暴露した正義連疑惑がトップニュースとして連日報道されていた6月1日、ある団体が「正義連と尹美香の30年の素顔を明らかにする」として記者会見を開いた。

 日本帝国主義時代の軍人、徴用工、慰安婦とその家族で構成された「太平洋戦争犠牲者遺族会」だ。

 遺族会会長の梁順任(ヤン・スンイム)氏はこう主張している。

「挺対協(現・正義連)と尹美香は、数十年の間、慰安婦被害者のためではなく“権力団体”として規模を大きくした。生きている慰安婦おばあさんたちを怖がった」

「30年間、慰安婦問題を悪用した尹美香は国会議員職を辞任し、正義連は解体しなければならず、政府はこれ以上この団体に支援してはならない」

 会見を行った梁順任会長の履歴には、馴染みのある名前が登場する。

 植村隆氏は梁会長の娘婿で、植村氏の韓国人妻は、遺族会の職員として働いたことがある。

 梁会長は他の資料でも「数十年間も慰安婦被害者たちの目と耳を隠したまま、国民を相手に詐欺を働いた団体」と指摘したが、なぜ植村氏は積極的な取材と報道をしないのだろうか。

「選択的取材」を行っているのか?

 植村氏に問いたいことはまだある。

 梁会長は韓国メディアのインタビューで、1993年の“河野談話”発表後、日本側が韓国に調査団を派遣し、元朝鮮人慰安婦の証言を聴取しようとした際、挺対協が妨害したと主張。

 日本側は調査に基づいて補償案を準備し、遺族会も高齢の慰安婦被害者がいつ亡くなるか分からないため、早急に補償金を受けようとしたが、挺対協が妨害したという。

 梁会長は当時から挺対協の行動を問題視していたが、娘婿の「慰安婦専門記者」植村氏は、知らなかったのか。

 昨年6月、櫻井氏と報道機関に対する裁判で敗訴した植村氏は、韓国のある日刊紙のインタビューで、「この判決が出たのは、日本の裁判所が右傾化したためだ」と批判、さらに「NHKも完全に親政府放送になり、もはや公共放送ではない。ただ会社で働き給与をもらう“会社員記者”が多くなった」などと発言している。

 裁判所やNHKに異議申し立てすること自体は、もちろん自由だ。

 ただ、「慰安婦専門記者になりなさい」と後輩記者に言いながら、正義連と尹美香疑惑が露呈して慰安婦問題が混乱する昨今、韓国の記者は、疑惑にしっかりと向き合わない植村氏に関心を持たなくなっていても何ら不思議ではない。

 順序が逆になってしまったが、インタビューは次のような言葉で植村氏を紹介して始まっている。

「記者は運命的に偽りを暴露し、不正と戦うしかない」と。

 植村氏は、義母の梁会長が以前から問題だと指摘してきた「正義連と尹美香の疑惑問題」を本当に知らなかったのだろうか。

 偽りを暴露し、不正と戦うことが記者の運命なら、韓国人はもちろん日本人も関心を持っている問題に、なぜ、向き合わないのか。

 ユニクロや日本製ビール、日本車は不買する一方、任天堂やプレイステーション、ユニクロ「+J」を購入する「選択的不買運動」と同様、「選択的取材」を行っているのではないのか。

田裕哲(チョン・ユチョル)
日韓関係、韓国政治担当ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月26日 掲載