故人にも適用される「判決」

 韓国のソウル中央地裁は1月8日、日本政府に対し、慰安婦被害者1人あたり1億ウォン(約950万円)の賠償金支払いを命じる判決を言い渡した。日本政府を対象とした慰安婦訴訟は幾度となくあったが、判決が下されたのは今回が初めてである。日韓ビジネスコンサルタントによる考察。

 故・裵春姫(ぺ・チュンヒ)氏を含めた12人の元慰安婦は2013年、1億ウォン(950万円)の慰謝料を求める民事調停をソウル中央地裁に申し立てたが、日本政府が訴訟関連書類の送達を拒否したため、16年1月、訴訟を提起した。

 そしてソウル中央地裁は今回、元慰安婦が提起した“1人あたり1億ウォン”という要求を完全に受け入れ、訴訟費用も日本政府が負担するよう言い渡した。

 その際に地裁は、「想像しがたい苦痛に悩まされ、被告から謝罪もされていない」「慰謝料は、原告が請求した1億ウォン以上だと考える」という“見解”を表明している。

 これまでにも、日本政府を対象とした慰安婦訴訟は幾度となくあったが、判決が下されたのは今回が初めてである。

 日本政府は、ある国家の裁判所が別の国家を訴訟当事者として裁くことはできないという国際慣例法「国際法上の主権免除の原則」を主張しており、控訴することはない。

 1審で下された判決が韓国内で確定するわけだ。

 昨年5月7日、自称元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)氏が、慰安婦運動市民団体「正義連(日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)」の数々の問題を告発してから8カ月。

 韓国のメディアや世論では今も、正義連の尹美香(ユン・ミヒャン)元代表のスキャンダルで持ち切りだ。

 尹美香元代表が「李容洙氏は元慰安婦ではなかったと発言した」という報道まであったが、一連の事件は、地裁の判断に影響を与えなかったようだ。

またも蔑ろにされた日韓請求権協定

 近年、日韓間で問題となっている元慰安婦といわゆる徴用工の問題は、1965年の日韓請求権協定で「解決済み」となっている。

 しかし、個人の請求権は消滅していないという言い分が、韓国国内でまかり通る。

 2018年10月30日、元朝鮮半島出身労働者、いわゆる徴用工問題で、韓国の最高裁にあたる大法院が新日本製鉄(現日本製鉄)に対し、韓国人4人に1人あたり1億ウォンの損害賠償の支払いを命じた。

 今回の慰安婦判決も、これをなぞって元慰安婦1人あたり1億ウォンの支払いを命じた格好となる。

 しかし、2018年の徴用工判決と、今回の慰安婦判決で大きく異なるのは、徴用工判決では被告が日本の民間企業だったのに対し、今回の慰安婦判決は日本政府が被告となった点にある。

 2018年の徴用工判決に対して、日本政府は“遺憾を表明”してきたが、対象が民間から政府となった今回、“遺憾を表明”するだけではなく、韓国政府に対して制裁を加えるべきだろう。

 2020年10月、文在寅大統領が「日本の企業が賠償に応じれば、後に韓国政府が全額を穴埋めする」という提案をしたのと同様、今回も非公式に日本政府に打診してくるかもしれない。

 そもそもそのような提案が実現する保証など、どこにもないのだが……。

「行政府が司法に関与することはできない」

 今回の判決を受け、筆者は韓国のNAVERニュースのコメント欄を覗いてみた。

 以前はこのようなニュースが発表されると、日本を批判するコメントしか見られなかったのだが、韓国における反日という病理を余すところなく描写した書籍『反日種族主義』効果なのか、「尹美香」効果なのか、判決内容を否定的に見ている韓国人が意外と多いことに驚いた。

 その一部を紹介したい。 

「歴代政府はせめて締めくくりをよくしようと努力していたが、文在寅政権では国家間の約束を全部ひっくり返している。反日商売がヒドすぎる。支持率が下がる度に登場する名物の反日である」

「朴槿恵(パク・クネ)の時に国家間の約束事として慰安婦に関する財団を設立したのに、一方的に破棄したのが文在寅ではなかったのか? 実際、日韓国交正常化の際、日本が個人賠償すると言ったのに対し、韓国政府の希望で、一括で金を貰い、請求権を消滅させたのだ。そして金大中(キム・デジュン)時代に、両国間で今後、慰安婦問題は持ち出さないことにしたはずだ。それなのに、大統領が変わる度に日本への言い分を変え、約束を被り、永遠の謝罪と永遠の賠償を要求すれば、世界は韓国をどう思うか?」

 日韓請求権協定に従えば、韓国人は日本に賠償金を請求することはできない。

 韓国人が韓国政府に要求する“個人請求権”が消滅しているか否かは韓国内の問題であって、日本とは関係ない。

 韓国にも表向きは日本と同様、三権分立の原則がある。

 徴用工判決が下された際、文在寅大統領は、三権分立により、行政府が司法に関与することはできないと言い張った。

 今回も同じような発言で関与を避けるのか。文在寅大統領の動向が楽しみでもある。

大羽田須代(ひろはだ まよ)/ 日韓ビジネスコンサルタント

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月11日 掲載